2025年11月20日

シリーズ優良企業の流儀「株式会社雄苑 様」 果敢な企画と提案力で生花事業を“魅力ある業態”へ

シリーズ優良企業の流儀「株式会社雄苑 様」 果敢な企画と提案力で生花事業を“魅力ある業態”へ

池田雅英税理士・公認会計士(左)、松山敏雄社長(右)

長崎市を本拠に生花卸業を営む雄苑。同社の松山敏雄社長は、創業以来、業界の常識を覆しつつ成長してきた。厳しい環境のなか、一貫して追求してきたのは、顧客と社員双方にとって生花事業を魅力ある業態にすること。松山社長の奮闘をレポートする。

 1980年代中頃。「これほど頑張っているのに、なぜこんなに報われないのだろう」と、生花の小売店につとめていた若き日の松山敏雄・雄苑社長は考えていた。働けど働けど会社の業績も待遇も上がらない。

 そうした状況のなか、松山社長のたどり着いた結論は「流通に問題があるから」だった。勇躍、独立して花き仲卸会社を立ち上げる。31歳、91年のことである。

1.厳しい環境のなか右肩上がり

 当時は、花屋に行かなければ花を購入できない時代。まず、松山社長が目をつけたのが、その頃勃興しつつあった大型スーパーだった。

 「スーパーの売り場の一角に生花売り場を設けてもらい、通常の買い物と一緒に購入してもらうスタイルの売り方を追求しました」(松山社長)

 スーパーに生花売り場があれば、かしこまった贈り物や冠婚葬祭用に限らず、家庭に飾るちょっとした花の「ついで買い」が誘発される。つまり、雄苑は、流通チャンネルを多様化することで、新たなニーズを掘り起こしたのである。

 とはいえ、その後の生花業界は、とても安閑としていられる状態ではなかった。花きの産出額は90年代後半から下降を続け、ここ25年で約40%の減少を見ている。ライフスタイルの変化によって冠婚葬祭が徐々にダウンサイジングされ、最近ではコロナ禍の影響による大型イベントの減少も大きなマイナス要因となっている。

 一方、雄苑の業績は常に右肩上がりを維持。それを担保しているのは松山社長の「営業力」である。スーパーなどへの仲卸事業を核としながら、ブライダルや葬祭の業界へも積極的に参入。たとえば会館を持つ葬祭業者へは、当初は花の提供だけだったが、丁寧な仕事を続けるうちに次第に「花祭壇」そのものを任されるようになり、さらに、それを本社工場で制作し、現場に運ぶという形態にシフトしてきた。その分、手間とコストを大幅に減らすこともできた。

花祭壇を自社工場で制作して現場に送る

花祭壇を自社工場で制作して現場に送る

 最近ではリテール事業への傾注も顕著となっている。個人への小売りのみならず、外商部をつくって法人への企画営業に力を入れ始めたのだ。すでに個人で約2,000、法人で1,500社が会員として登録しており、毎月の“旬の花をお届けする”『はななび』など多彩なアイデア企画を打ち出しつつ、個人や取引先への贈花ニーズ、社員への福利厚生ニーズなどを掘り起こしている。

 まさに、この「ニーズを掘り起こす」作業が、雄苑の真骨頂。そのためには「(企画や情報を発信することで)お客さまにトキメキを伝える」必要があると松山社長は考えている。

 「一般の花屋さんは受け身のビジネスで、自ら企画を考えることは少ないです。一方、当社では『はななび』はもちろん、母の日に向けてカーネーションの生産者と協働してキャンペーンをはったり、あるいはコロナ禍の2020年から諫早市の酒造場『杵の川』とコラボして桜と酒をセットにした『花me酒』を発売したりと、プッシュ型の企画を常に打ち立て、発信しています」

花祭壇を自社工場で制作して現場に送る

 8月はお中元、9月は敬老の日、10月お月見などと、日本の文化には花と関連する文化やイベントがめじろ押しだ。そこと関連付けた企画の発信はもちろんだが、ほかにも「まだまだやれることはいっぱいある」と松山社長は言う。

 アフターフォローにも力を惜しまない。たとえば、贈答品の注文に対しては、実物を写真撮影し、サンキューレターにしてくまなく送る。顧客は、「どんなものが送られたのか」不安になるからだ。撮影は多いときで1日100枚。「これは当社独自のサービスで、お客さまから高い評価をいただいている」と松山社長は言う。

2.日次で限界利益を把握する

 もちろん、仕入れにも気をつかう。長崎の花き市場は言うにおよばず、福岡など九州各地、あるいは東京の大田市場とも早くから取引がある。生産地との提携、休耕田の活用にも熱心に取り組む。数百本単位のロットで仕入れるが、「ロスを出さない」ことが創業当時からの松山社長の信念。基本的には在庫は最小限とし、とにかく売り切る。冒頭の「流通に問題がある」との発言は、チャンネル多様化の必要性とともに、ロスの問題も含んでいるのである。

 生花は生ものである。だからこそ、仕入れと販売のバランスのとり方で、利益が大きく変わってくる。

 切り花の仕入れは基本的には月水金である。

 「月曜日に仕入れたとすると火曜日にできるだけ売り切るのが当社の鮮度を保つやり方です。そうしないと水曜日の仕入れ計画が立たない」

 そのために、仕入れの数字を販売管理システム(『SX4クラウド』)に落としこみ、さらに翌日の朝一番には会計システム(『FX2』)に連動して限界利益を把握。月次ならぬ日次決算である。これとは別に、在庫も最新の状況が見えるようにし、翌日の仕入れを決定する材料にする。たとえ加工部門で余剰が出た場合でも、ブライダルや葬式、イベントなどに回せば、廃棄処分を免れることができる。つまり、チャンネルの多様化は、ロス率の低減にも一役買っているということだ。

 同社の税務と会計をサポートする池田光利税理士事務所の、池田雅英税理士・公認会計士はこう言う。

 「厳しい経営環境のなか、雄苑さんは、期初の経営計画の策定や月次決算をしっかりと実施しながら、週次、日次でも数字を把握することで、現状に柔軟に対応しつつロスの少ないビジネスを実践されてきました。とくに、売上高から仕入れや外注費を引いた『限界利益額(率)』を日々把握することで、精緻なかじ取りを行われています」

 限界利益は高いから良いというものでもないというのが松山社長の考え方だ。

 「卸売り事業の場合、他社よりも安く卸すために、原価を絞れば良いというわけではありません。利益重視ではなく、品質を保ち、時には原価を切って販売することもあります。一方で、葬儀、ブライダル、小売り事業の場合は、新企画の提案やさまざまなサービスによって独自の付加価値をつけることが可能です。その場合には高い限界利益を得ることが可能になる。つまり、事業によって適切な限界利益率を設定しておくことが大事だということです」

3.生涯の仕事にできる産業に

 こうした「部門による利益管理」を可能にしているのが『FX2』による部門別の損益管理である。

 雄苑の部門別管理は、大きくは①本社の「卸」②本社の「葬儀」③佐世保営業所④千々石営業所の4部門を「組」とし、そしてその下に加工や委託、外商、婚礼など21もの小売部門がぶら下がることで、それぞれの日々の限界利益が「見える化」されている。さらに、これら部門業績は、各部門長の評価にもしっかりと結びつけられているという。

 再び池田税理士。

 「雄苑さんの場合、多様な業態を抱えておられるなか、それぞれの事業が補い合い、シナジーを発揮しながら、全体として高い利益率を維持しておられるという印象です。それもこれも松山社長の財務重視の考え方と計数管理能力が効いているからだと思います」

 こうした雄苑の財務体制は、メインバンクである十八親和銀行からも高い評価を受けている。同行東長崎支店の清水健次支店長は言う。

花祭壇を自社工場で制作して現場に送る

 「月次決算はもちろんですが、売り上げと仕入れの動きは日次で緻密に管理されながら、しっかりとした戦略に基づいた経営を行われていて、しかも、その戦略に全社一丸となって取り組まれているところが雄苑さんの強みだと思いますし、当行が高く評価させていただいているところでもあります。また、松山社長は、今後若い人たちを育てながら、より積極的な商品開発を志向されているようですので、そこにも期待したいですね」

 雄苑では、毎年複数名を採用していき、今後10年で30名程度の増員を予定。現在、その準備を進めているという。花き市場はグロスではシュリンクしているものの、同業者の廃業が進めばそこをカバーする存在が必要だと松山社長は考えている。

 「企業は人です。今後は人の採用と教育により力を入れていきます。そして、『幼いころに夢だった花屋』になりたい人がしっかりと生涯の仕事にできるようにしていく。アルバイトの延長ではダメなんです」

 冒頭の松山社長の「働けど働けど報われない」という業界の課題を解消するための取り組みが、今後、より精力的に実践されていくことは確実である。

(取材協力・池田光利税理士事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社雄苑
業種 花き卸売業
創業 1991年10月
所在地 長崎県長崎市中里町1666-1
売上高 8億3,000万円
従業員数 66名(2025年10月現在 パート含む)
使用システム SX4クラウド FX2
URL https://yuu-en.com
顧問税理士 池田光利税理士事務所
所長 池田光利
長崎県諫早市上町4番3号
URL: https://terutoshi-ikeda.tkcnf.com

BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者~未来を切り拓く 経営者と税理士の挑戦~」

9月27日放映のBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」をTKCホームページで公開しています。あわせてご覧ください。

掲載:『戦略経営者』2025年11月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。