2025年11月20日

シリーズ優良企業の流儀「有限会社うなぎ二葉 様」 最新業績を元にした打ち手で“物価高時代”を乗り切る

シリーズ優良企業の流儀「有限会社うなぎ二葉 様」 最新業績を元にした打ち手で“物価高時代”を乗り切る

写真は「うな重 松」(5,400円)

うなぎ二葉は、今年創業77年をむかえるウナギ専門店の老舗。丹念な蒸しと焼きを加える調理法が売りで、地元住民や観光客でにぎわう。松野吉晃社長は、月次決算で得られる鮮度の高い数字を、仕入れ方法の見直しや新メニュー開発といった節目の経営判断に生かしている。

 大勢の観光客が昼夜問わず行き交う、札幌・すすきの。北日本屈指の歓楽街近くに店を構えるのが、うなぎ二葉である。周囲に飲食店がひしめくなか、開店前に行列ができる人気店だ。書き入れ時の8月下旬に訪れると、11時の開店を待ちわびた客が続々とのれんをくぐっていく。目当てはもちろん、脂の乗ったウナギのかば焼きだ。

 「当店で主に使用しているのは九州産のウナギで、サイズが大きく、身がしまっているのが特徴です。注文後、航空便で24時間以内に生きたままお店に届きます。鮮度が大切ですから、仕入れてから3日以内にお客さまに提供するよう心がけています」(松野吉晃社長)

(左)鮮度が売り。夏場は毎日仕入れる、(右)すすきの駅からほど近くにある店舗

(左)鮮度が売り。夏場は毎日仕入れる、(右)すすきの駅からほど近くにある店舗

 かば焼きの調理工程は、割き、串打ち、焼きに大別される。うなぎ二葉が採用しているのは、串打ちの後に“蒸し”をはさむ関東風の調理法である。まずウナギを背開きに割く。肝などを取りのぞいた後、半身のウナギに竹串をとおす。白焼きして蒸しの工程へ。火加減を調整し、部位によって蒸し時間を変えることで柔らかさを均一に仕上げる。「頭と尾では火の通り方が違うので、蒸し時間を変えています」(松野社長)。こうした工夫が、とろけるような食感を生む。最後に焼き。半身にたれを三度つけ、備長炭で焼き上げる。

 俗に「串打ち3年、割き8年、焼き一生」と言われるとおり、ウナギ調理には高度な技術が求められる。松野社長によると、とりわけ難易度が高いのが「焼き」だという。

 「ウナギを焼いていると、身にたれがだんだん染み込んで、串からくずれ落ちやすくなるんです。さばくにしろ、蒸すにしろ身が重いため、扱いに慣れるのに苦労しました。調理法を習得するまでに15年ほどかかりましたね」

1.高品質のウナギを半身で

 松野社長の祖父である国平氏は、もともと東京・浅草のウナギ専門店で職人として働いていた。その腕を買われ、大手百貨店の開店にあわせて札幌へ赴くことになる。うなぎ二葉を開店したのは、戦後まもない1948年。2代目店主の松野哲也会長が振りかえる。

 「父が百貨店内のレストランで研さんを積み、独立してお店を構えたのは39歳のとき。当時は近隣の割烹料理店への配達をなりわいにしていました。ほどなく私も厨房を手伝うようになりましたが、父から調理工程をたたき込まれたものです。仕事一筋の職人肌の人でした」

 経営のバトンは3代目の吉晃社長に引き継がれているが、試行錯誤もあった。ウナギの選定はそのひとつ。かつては、現在よりさらに大きいウナギを使用していた。しかし、このウナギは供給量が安定しないという欠点があった。事業を長年にわたり継続できたのは、顧客がウナギを求める時期をのがさず、変わらぬ味の料理を出来たてで提供してきたからこそ。肝心の食材をタイムリーに仕入れられなければ元も子もない。松野社長は、ウナギを半身にさばいて提供する方法を採用して、高品質のウナギを通年で調達できる体制を整えた。

 ただ、札幌随一の老舗ウナギ専門店といえども、先行きは楽観できない。近年、ウナギの稚魚であるシラスウナギの漁獲量は減少傾向にあり、仕入れ値の高止まりがつづく。「価格交渉の主導権は養殖業者側にあり、提示された価格で仕入れざるを得ない」(松野社長)のが実情という。現下の物価高も悩みの種だ。コメや備長炭の仕入れ価格の上昇のみならず、客足にも影響がおよんでいると松野社長はみる。

 「家計を見直すとき、真っ先に削られやすいのが外食代。物価高で人々の財布のひもが固くなっていると感じます」

 将来を見とおしづらいなか、松野社長が経営判断のよりどころにしているのが、月次決算でつかんだ業績数値である。

2.日々入力した仕訳が土台

 「この資料はすごいね」

 松野会長は感嘆の声を上げた。手元にあるのは、加藤恵一郎顧問税理士から手渡された「経営分析報告書」。TKCシステムで出力した資料である。この日、店舗の一角で、メインバンクの北海道信用金庫担当者同席のもと、業績報告会が開かれていた。経営分析報告書には、10期比較の要約貸借対照表や変動損益計算書などがとじられており、主要な業績数値の推移がグラフで明示されている。加藤税理士は「外食産業を取り巻く経営環境は依然厳しいものの、うなぎ二葉さんの業績は安定しています」と太鼓判を押す。

 「この資料は、第60期の節目を迎えられたのに合わせて作成しました。これらの数字の基礎となっているのは、会長ご自身が『FX2』に日々入力されている仕訳データです」

 同社がTKC自計化システムである『FX2』を導入したのは、30年以上前のこと。松野会長自ら仕訳を毎日入力し、毎月10日前後に伊達亜実監査担当の監査を経た後、業績を社長とともに確認するのが習慣となっている。巡回監査時に、人材採用や設備投資などの相談にも対応している小笹倫幸税理士はこう指摘する。

 「うなぎ二葉さんの業績面の特徴として、売り上げが夏場に集中する季節変動の大きさが挙げられます。会長と社長に、ご自身の体感と業績数値にずれがないか、確かめていただくことが大事です。お二方とも《365日変動損益計算書》の限界利益率を注視し、前年同月あるいは目標値と比較して大きな差があるときは、原因を追究されています」

 松野社長は、ウナギを焼く際に用いる備長炭の仕入れコストに着目する。少量を頻繁に仕入れていたのを、まとまった単位で購入するよう改め、費用を削減した。また、客単価の引き上げを図るべく、一品料理を考案。ウナギとキュウリの酢の物「うざく」、ウナギと水菜をわさび醬油であえた「うなわさ」をメニューに加え、酒肴ニーズに応えている。

3.信頼性を高めた業績開示

 特筆すべきは、コロナ禍でも業績が落ち込まなかったところ。テイクアウト商品を充実させるとともに、配達も行い、客足減少の影響を抑えた。

 「うちのメインの料理であるうな重は、もともとご飯に具をのせて提供しているので、テイクアウト需要に対応しやすかったです。アルコール飲料の提供が禁じられるなど厳しい時期もありましたが、多くの常連のお客さまに支えてもらいました」と松野社長。

 加藤税理士はこう話す。

 「店内で食べられなくても、テイクアウトしたり出前を依頼したりした常連の方々が、大勢いたのではないでしょうか。大半の飲食店がコロナ禍でダメージを受けたなか、うなぎ二葉さんの業績の堅調ぶりが際立っています」

 2005年の店舗移転にあわせて調達した借入金をこのほど完済し、足元の自己資本比率は90%を上回るなど、財務体質は盤石だ。

 金融機関への業績開示もぬかりない。「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用して、決算書等のデータを取引金融機関へタイムリーに送信している。業績報告会に同席した北海道信用金庫の橋本一輝氏は「月次巡回監査を経た決算書の信頼性は非常に高く、経営数値の透明性が確保されていると感じます。MISにより会社の情報が迅速に届くので、万一不測の事態が発生してもご支援しやすくなります」と評価する。

 3代にわたり70年以上、一子相伝の技法を受け継いできた、うなぎ二葉。「われわれが目指すのは、お客さまの期待を裏切らない満足いただける料理を提供することにつきます。そのためにも職人を育成し、伝統の味を守っていきたいです」。こう語る松野社長は、月次決算により把握した業績データを値決めや経費削減の根拠として、これからも活用していく考えだ。

(取材協力・税理士法人加藤会計事務所/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 有限会社うなぎ二葉
業種 飲食業(ウナギ専門店)
創業 1948年5月
所在地 北海道札幌市中央区南5条西7丁目3-2
売上高 1億8,000万円
従業員数 31名
使用システム FX2
URL https://unagifutaba.com
顧問税理士 税理士法人加藤会計事務所
会長 加藤恵一郎 所長 菅野 浩
北海道札幌市中央区大通東2丁目 プレジデント札幌ビル4階
URL: https://www.kato-kaikei.jp

BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者~未来を切り拓く 経営者と税理士の挑戦~」

9月27日放映のBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」をTKCホームページで公開しています。あわせてご覧ください。

掲載:『戦略経営者』2025年11月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。