💡この記事のポイント
☑デジタルインボイスとは、請求情報(請求に係る情報)を、売り手のシステムから、買い手のシステムに対し、人を介することなく、直接データ連携し、自動処理される仕組み。
☑送信側のメリットは、①インボイス発行にかかるコストと手間の削減、②「控え」のデータ保存容量の削減、③送信先情報(ID)の管理が容易となる。
☑受信側のメリットは、①記載事項の漏れチェックが不要、②インボイスのデータ保存容量の削減、③本社でのインボイスの集中管理、④正確な仕訳生成による業務効率(生産性)の向上。
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1.はじめに(デジタルインボイスとは)
「デジタルインボイス」をご存じでしょうか。
デジタル庁の資料によると、「デジタルインボイスとは、請求情報(請求に係る情報)を、売り手のシステムから、買い手のシステムに対し、人を介することなく、直接データ連携し、自動処理される仕組み」のことです。この「直接データ連携」とは、紙に出力して郵送することもなく、受け取った紙やPDFから数字を手入力したり追加補正したりすることもないということです。取引を行う両者のシステムに、デジタルインボイスを送る機能と受け取る機能が準備できれば、電子メールの登場によって書類の配達員の存在や発送・移動・受取のための時間そのものが必要なくなったように、大幅な工数削減と時間削減が実現できるのです。
「インボイス制度」がスタートしてしばらく経ち、一定の要件が記載された請求書(適格請求書)を指す「インボイス」が多くの人に知られるようになった今日ですが、「デジタルインボイス」の認知度はまだまだ低いものでしょう。
しかしながら、令和7年9月末時点で、すでに国内だけで29社の企業が、デジタルインボイスに対応したシステムを提供しています。
■Peppolデジタルインボイス対応済みシステム企業
株式会社アイ・ジェイ・エス
インフォコム株式会社
株式会社インフォマート
ウイングアーク1st株式会社
NECネクサソリューションズ株式会社
株式会社NTTデータビジネスブレインズ
応研株式会社
株式会社OSK
株式会社オージス総研
株式会社オービックビジネスコンサルタント
キヤノンITソリューションズ株式会社
株式会社COEL
株式会社コンカー
Datajust B.V.
セイコーソリューションズ株式会社
株式会社TKC
株式会社電通総研
トムソン・ロイター株式会社
トレードシフトジャパン株式会社
ピー・シー・エー株式会社
ビジネスエンジニアリング株式会社
ファーストアカウンティング株式会社
富士通Japan株式会社
株式会社マネーフォワード
三菱電機ITソリューションズ株式会社
株式会社ミライコミュニケーションネットワーク
株式会社ミロク情報サービス
弥生株式会社
ラディックス株式会社
株式会社ワークスアプリケーションズ
(デジタルインボイス推進協議会ウェブサイト「EIPA会員、Peppolデジタルインボイス対応済みサービス一覧」を基に作成。Datajust B.V.はオランダ籍企業)
これらの企業が対応するデジタルインボイスは、共通して「Peppol」(ペポル)と呼ばれるネットワークを利用するデジタルインボイスです。
本記事では、Peppolネットワークで送受信するデジタルインボイスを「ペポルインボイス」と表記し、その特徴や活用のメリットを解説します。
2.ペポルインボイス送受信のしくみ
ペポルインボイスには、発行者名、品名、取引金額、といったインボイスの記載事項が、コンピュータに読込可能な形式でセットされており、受信したシステムでその内容を正確に読み込めます。
そのしくみの主な特徴は以下の3つです。
1.ペポルアクセスポイントを経由して送受信します。
2.ペポルID(法人番号等の公的な番号)でやり取りします。
3.システムでデータを読み取り、仕訳を自動生成できます。
(1) ペポルアクセスポイントを経由して送受信
得意先に請求書を送付することを想像してみてください。郵送であれば自社と得意先の最寄りの郵便局を経由して送ります。メールであれば自社と得意先のプロバイダーのメールサーバーを経由して送ります。
ペポルインボイスの場合には、下のように自社と得意先のアクセスポイントを経由して送受信を行います(「XML」については(3)で後述)。
ペポルアクセスポイントは、「ペポルサービスプロバイダー(デジタルインボイスの送受信基盤となるアクセスポイントを、事業者に対して提供する事業者)」として認定された、国内外の企業37社※が提供しています。
自社と得意先が異なるペポルサービスプロバイダーと契約していても(異なるペポルアクセスポイントを利用していても)問題ありません。どんなメールアドレスに対してもメールは送れることと同じです。
※デジタル庁ウェブサイト内「日本のPeppol Certified Service Provider一覧」(2025年1月25日更新)より。「1.はじめに」にて前述した国内対応済み企業29社のうちサービスプロバイダーとして認定されているのは10社。
(2) ペポルID(法人番号等の公的な番号)でやり取り
郵送の場合には住所が、メールの場合にはメールアドレスが必要です。
それと同じようにペポルインボイスの場合にはペポルIDが必要になります。「ペポルID」には、公的な番号である法人番号または適格請求書発行事業者の登録番号等を指定します。送信側も受信側もペポルサービスプロバイダーとの契約(ペポルIDの取得)が必要です。
(3) システムでデータを読み取り、仕訳を自動生成
PDFファイルは人が目で見ることを前提としたイメージデータであるため、コンピュータが読み取るためにはOCR(文字認識機能)で読み取らなければなりません。それでは正確性を担保できません。
一方、ペポルインボイスで送受信されるデータの形式はXML 形式と呼ばれる形式で、どのプロバイダーも同じ形式でデータをやり取りされるよう、項目と値の定義が決められています。よってコンピュータはそのデータを正確に読み取ることができ、そのデータを元に、正確に仕訳を自動生成できます。また、ペポルインボイスは異なるペポルサービスプロバイダー同士でも同じ形式のデータでやり取りしています。
このように、ペポルインボイスは①ペポルアクセスポイントを経由して②ペポルIDを持った企業のシステムから受取側のシステムへ③XML形式で送受信されてやりとりされます。
3.ペポルインボイス送受信のメリット
前述のしくみで送受信されるペポルインボイスの活用は、送信側・受信側双方にメリットがあります。特に受信側においては正確な仕訳の自動生成に直結します。送信側と受信側に分けメリットを挙げます。
(1) 送信側のメリット
①インボイス発行にかかるコストと手間の削減
紙でインボイスを発行する場合に発生する、封入、投函、郵送にかかるコストや手間を削減できます。
②「控え」のデータ保存容量の削減
ペポルインボイスのデータは構造化されたデジタルデータ(XML形式)のため、スキャン文書やPDFなどと比較して、圧倒的に少ない容量でデータを保存できます。
③送信先情報(ID)の管理が容易
ペポルネットワークでは相手先を特定するためのID(ペポルID)として、公的な番号である法人番号または適格請求書発行事業者の登録番号等を指定するため、送信先情報の管理が容易です。
(2) 受取側のメリット
①受領したインボイスは、記載事項を完全に網羅
ペポルネットワークでの送信時に統一的な整合性チェックが実施され、インボイスの記載事項が網羅されているデータのみが届きます。記載事項の漏れをチェックする必要がありません。
②インボイスのデータ保存容量の削減
スキャン文書やPDF等の電子インボイスと比較し、少ない容量で保存できます。
③本社でのインボイスの集中管理
ペポルIDは1事業者につき1つのため、本社で集中管理できます。
④正確な仕訳生成による、業務効率(生産性)の向上
インボイスの記載事項をシステムが正確に読み取るため、確認や補正に係る作業の効率化が見込めます。(【導入事例】仕訳計上に係る時間が90分から3分に短縮)
4.気になるQ&A
(1) どの事業者もペポルインボイスを利用できる?
現在のところ、免税事業者の個人事業者はペポルインボイスを利用できません。ペポルで使用できるIDは、現在、法人番号または適格請求書発行事業者の登録番号のいずれかで、これらのいずれも持っていない事業者は利用できません。
(2) ペポルインボイスを、送信側、受信側で同じレイアウトで確認できる?
ペポルインボイスのデータ形式はXMLです。送信側、受信側、それぞれ利用するシステムが搭載しているビューワー(Viewer)で確認することになるため、システムによって見え方が変わります。
一例として、TKCのシステムでは以下の画像のようなレイアウトとなっています。
(3) 得意先がペポルインボイスを未利用の場合は?
取引先にペポルインボイスに対応したシステムがない場合、ペポルインボイスは受け取れません。しかし、TKCでは、ペポル当該得意先に専用の閲覧サイトにアクセスしてもらい、PDF等の電子インボイスを提供するしくみを用意しています。この閲覧サイトのURLは、Eメールで得意先に通知されます。
得意先のシステムの利用状況によって、インボイスを受け取る方法は以下の4パターンになります。
(出所:TKCウェブサイト内「ペポルインボイス」)
したがって、ペポルインボイスとして受け取れない取引先があったとしても専用の閲覧サイト等を事前に案内するなど個別に対応しておくことによって、ペポルインボイスを受け取れる取引先へ送信するのと同じ操作で請求業務を完了することができます。
(4) インボイス以外の書類はペポルインボイスとして送信できない?
ペポルインボイスは、税抜きのインボイスのみを対象とするしくみです。そのため、税込みのインボイスやインボイスに該当しない書類をデジタル化するためには、PDFをメール送信するなど異なる運用が必要となります。
TKCのシステムでは、ペポルインボイスの送受信に加え、ペポルネットワークでは送受信できない税込みのインボイスやインボイス以外の見積書、納品書、請求書および領収書といった書類を「TKC独自のデジタル文書」として送受信できます。当機能を利用することで、対象の文書がペポルで送受信できるか否かを意識することなく、すべての文書を一律デジタル文書として送受信し、システムに自動保存できます。
(5) そもそも「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は何が違う?
「電子インボイス」「デジタルインボイス」「ペポルインボイス」は、以下のように図示できます。
(出所:TKCウェブサイト内「ペポルインボイス」)
① 電子インボイス
電磁的方式で授受を行うインボイスを「電子インボイス」と呼びます。
インボイスを画像化したPDFやJPEG等のほか、デジタルインボイスも電子インボイスです。
② デジタルインボイス
デジタル庁が公開している「我が国におけるデジタルインボイスの標準仕様」(JP-PINT※)に基づく、XML形式の電子インボイスを「デジタルインボイス」と呼びます。
PDF やJPEG 等の画像データの電子インボイスはデジタルインボイスには該当しません。
※JP-PINT は、Peppol ネットワークでやり取りされるデジタルインボイスの日本の標準仕様です。
③ ペポルインボイス
TKCでは、ペポルネットワークを通して送受信するデジタルインボイスのことを「ペポルインボイス」と定義しています。
なお、XML形式の電子インボイスでも、ペポルネットワークを通さずに送受信を行ったデジタルインボイスは、ペポルインボイスには該当しません。
まとめると、デジタルインボイス、ペポルインボイス、それ以外の電子インボイス、紙の請求業務には以下のような違いが生まれます。ペポルインボイスは、他社システム間でも送受信が可能であることから、最も業務の効率化が図れるしくみとなっています。
5.おわりに
本記事では、国内での普及が少しずつ進んできたデジタルインボイス「ペポルインボイス」について、特徴と活用のメリットを解説しました。ペポルインボイスがもたらす業務効率の劇的な改善は、リソースに制約のある中小企業にとって大きな意味を持つことでしょう。
TKCのペポルアクセスポイントのユーザー数は、令和7年9月22日に8,000件を突破しました。また、国税庁はペポルインボイス普及後のさらなるデジタル化として「Peppolに対応したDI-ZEDIの策定により、請求から決済へデータ連携され、決済や売掛金の消込作業の自動化が可能となる」という未来を見込んでおり、経理・会計・税務分野のDXを進める上で、ペポルインボイスへの対応が大きな鍵となります。
近い将来、ペポルインボイスを導入する企業が増えていくほど、経理業務の省力化が進んでいくことでしょう。まだ利用されていない場合は、ぜひ積極的に導入をご検討ください。
参考文献
・「ペポルインボイス説明会テキスト」TKC全国会システム委員会編(TKC)
・「TKCペポルインボイス説明会(第2弾)テキスト」TKC編(TKC)
・「Q&Aかんたん電子保存―経理業務をらくらくに!」(TKC出版)
記事提供
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