西村社長の左隣が西村到磨専務
「牛にやさしく 人にやさしく」をモットーに、「美熊野牛(みくまのぎゅう)」を生産する黒毛和牛の岡田。ブランド戦略が功を奏し、卸売り先は60店舗をこえるなど、知名度は徐々に高まりつつある。創業125年の老舗を率いる西村茂之社長を中心に、計数管理がもたらした効用を聞いた。
1.負荷の少ない飼育環境を牛本位の視点で整備
──精肉店、焼き肉店の経営まで手広く展開されています。
西村社長 1900年に開店した精肉店がルーツです。先代社長のころ、母屋の隣に牛舎を建て、牛を飼うようになりました。頭数が徐々に増え、熊野市内の山頂に土地を購入。岡田牧場の看板を掲げ、黒毛和牛の生産を本格的に開始しました。
精肉店ではレトルトカレーや焼き肉のたれなど、オリジナル商品も扱う
──「美熊野牛」の生い立ちを教えてください。
社長 当社の扱うお肉は、かつて「岡田の肉」と呼ばれ、味の良さに定評がありました。三重県では松阪牛がつとに知られています。岡田牧場で生産した牛は松阪で解体してもらっていたため、松阪牛として販売されていました。
状況が変わったのは、狂牛病が発生したとき。松阪牛の品種や産地が厳格化され、われわれの牛肉は三重県産黒毛和牛というくくりで、安く取引されるようになってしまったんです。飼育環境をはじめ、品質には自信を持っていましたから、ブランド化したいと考え、地元紙を通じて名前を一般公募しました。こうして生まれたのが美熊野牛です。
──どのような環境で牛を育てていますか。
社長 200頭弱の牛を年代ごとに4カ所に分け、牛房を広めにとり、ストレスのかからない環境で飼育することを心がけています。飼料にもこだわり、牧場に入って間もない子牛には3カ月間、チモシーという牧草を与えています。コストはかかりますが、ビタミンを豊富に含んでいるので風邪を引きにくくなるのがメリットです。健康な牛のお肉を食べて、人も元気になってもらいたい。そういう思いで日々牛を育てています。
西村茂之社長
──味の特徴は?
社長 きめ細かいサシの入った肉はあまり量を食べられないものですが、霜降り肉は苦手でも美熊野牛のロースは食べられました、といった感想を多くいただいています。脂身がしつこくなく、翌日も食べたくなるお肉づくりを目指しています。
──知名度向上のための取り組みは?
社長 牧場と店舗のSNSアカウントを開設して、牛の飼育状況や商品情報を発信しています。また、食育月間である6月には、熊野市内の全小中学校に給食メニューとして美熊野牛を提供しているほか、食育に関する授業も行っています。将来、畜産に興味を持ってくれる若者が増えるとうれしいですね。
──国内各地の約60カ所の飲食店に卸されているとか。
社長 近年は三重県内にとどまらず、首都圏での取扱店が増えています。全国規模のビジネス・リファーラル組織に加入していて、異業種交流会での出会いを機に新たな取引につながる場合が多いです。
美熊野牛の年間出荷頭数は90頭前後。右は岡田牧場
──牛の仕入れはどのように?
西村専務 宮崎県小林市に年に4回足を運んで、せりで仕入れています。せり会場では、牛の血統や相場などについて教えてもらえるので勉強になります。
2.業態別の売上高を把握し増減要因を多角的に分析
──菅谷先生と顧問契約を結ばれたいきさつを教えてください。
社長 異業種交流会で知り合った同業者の方から、先生を紹介されました。牧場で育てている牛は30カ月ほど肥育した後出荷していますが、在庫計算が特殊で、専門知識を持つ税理士さんを探していたんです。
菅谷税理士 肉用牛は通常の資産と異なり、年数がたつと価値が上がっていきます。税務署側が認める方法により、価値を適時適切に算出するようにしています。
菅谷朋樹顧問税理士
──ほどなく『FX2クラウド』の利用を開始されたそうですね。
社長 離れた場所でも運用をきめ細かくサポートできるクラウド型の会計システムがある、と先生から勧められ導入しました。なにしろ先生の事務所から精肉店まで、クルマで3時間以上かかりますから。妻が日々仕訳を入力しており、疑問点があればオンラインで画面共有しながら、菅谷先生や監査担当の方に質問できるので助かっています。
──毎月の仕訳数は?
社長 およそ500仕訳にのぼりますが、「銀行信販データ受信機能」を用いて、入力作業を省力化しています。また、「証憑保存機能」も併用して、領収書や請求書をスキャナーで読み込んで保存。仕訳ごとに証憑書をひもづけています。どの勘定科目を使用すればよいか質問する際には、証憑書を確認しながら、スムーズにやり取りできるので重宝しています。
──複数の業態をどのように業績管理していますか。
社長 売上高を卸売り、小売り、飲食の三つに分けて、数値をリアルタイムで把握しています。卸売りについては取引先ごとの発生額がわかるので、前年と比較した増減に注目しています。
──その他、注目されている経営指標は?
社長 《365日変動損益計算書》では毎月の限界利益に加え、変動費の推移もこまめに確認しています。あらゆるモノの価格が上昇しているなか、牛の飼料代も例外ではありません。その打ち手として今夏から、牛の飼料となる稲わらを地元農家の方から調達する試みを始めました。稲刈り後の稲わらを譲ってもらえないか交渉したところ、かなりの量が集まりました。11月に田畑に牛ふんたい肥を散布する予定で、地元農家の皆さんと資源をうまく循環できる仕組みを整えられたらと思っています。
3.顧問税理士の指導で納税意識が変わる
──巡回監査時にどのようなことを話し合われていますか。
社長 前月の業績を振りかえるとともに、当月の売り上げと限界利益の目標額達成に向けた打ち手に関して、助言いただいています。例えば、機械の購入や牛舎の建設時期についても、相談にのってもらっています。12月決算を控えたこの時期は、精度の高い着地予想をもとに納税予測や対策を話し合うことが多くなります。また、将来計画している専務への事業承継を念頭に、自社株評価のシミュレーションも行ってもらっています。
菅谷先生の指導を受けるようになって以降、納税に対する意識が変化しました。以前は税金をなぜ払わないといけないのかという思いもありましたが、市からいろいろ協力いただいている以上、税金をきちんと納められる経営を目指したいと考えるようになりました。日ごろ、先生に業績管理について指導いただいているおかげです。
──資金調達を相談される機会もありますか。
社長 直近の金融機関からの借り入れ状況と返済予定を鑑みながら、コンスタントな返済に向け、利益額がどのくらい必要か、毎月確認しています。
菅谷 日本政策金融公庫との融資スキームである「TKCファストリンク」が始まり、当事務所も早速登録しました。関与先企業さまの最寄りの支店担当者を紹介してもらえることになっているため、円滑な資金調達につながるものと期待しています。
──今期の着地予想はいかがでしょう。
社長 物価高騰の影響により、精肉店、焼き肉店の客単価は減少しています。ただ、卸売り先を新たに開拓できたため、全社売上高は前年より伸びるのではと見込んでいます。
──抱負をお聞かせください。
社長 現状は14都府県に卸売り先があるのですが、これを47都道府県に広げ、美熊野牛を全国区にすることが目標です。定年退職後は、全国の飲食店を妻と食べ歩きしてみたいですね。
専務 牛の健康を第一にすえた飼育方針を変更することなく、これからも自分たちなりのこだわりを追究していきたいと考えています。
(取材協力・陽太税理士法人/本誌・小林淳一)
| 名称 | 株式会社黒毛和牛の岡田 |
|---|---|
| 業種 | 畜産、食肉卸売業 |
| 創業 | 1900年 |
| 所在地 | (岡田肉屋)三重県熊野市有馬町387-4 (焼肉ごん助)三重県熊野市久生屋町1098 |
| 従業員数 | 6名 |
| URL | https://mikumanogyu.jp |
| 顧問税理士 |
陽太税理士法人
顧問税理士 菅谷朋樹 (和歌山オフィス)和歌山県和歌山市黒田94番地24 URL: https://1000ps.co.jp |
掲載:『戦略経営者』2025年11月号
記事提供
戦略経営者 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。
