2025年11月17日

なぜ経営計画が必要なのか

なぜ経営計画が必要なのか

💡この記事のポイント
 ☑経営計画は、3~5年の期間を見込んだ「中期経営計画」と年度ごとの実行計画である「短期経営計画」を併用するのが望ましい。
 ☑経営計画が持つ、①頭の中の経営ビジョンを具現化、②従業員への意思統一、③外部への公表、という3つの機能は、企業の存続・発展を後押しする。
 ☑経営計画は実行してこそ意味がある。業績管理体制を構築し、業績を踏まえた次期経営計画作成へつなげることが大切。

1.はじめに

 継続して伸びている企業を見ると、その多くは経営者が文字通り「経営」をしており、これに対して、伸び悩んでいる企業の場合は、経営者が、「経営」を行わず、「内部管理」だけを行っている例が多く見られます。
 では、「経営する」ことと「内部管理をする」ことの違いはなんでしょうか。
 管理とは、計画し、実行を促し、コントロールすることを指します。さらに内部管理とは、従業員が能率的に行動しているか、諸設備が効率的に機能しているかなどを点検・是正することをいいます。もちろん、このような点検は、必要なことですが、それが経営者の仕事のすべてであると錯覚して、内部管理にばかり細かく目を向けている経営者がおられます。このような企業は、成長しません。内部管理の仕組みを作るなりして、経営者が総合的な立場から前向きな経営戦略を考え、実施する体制を作り上げることが大事です。
 本記事では、内部管理からの脱却の手段の一つとして経営計画が企業にもたらす効果と、経営計画の運用方法について、解説していきます。

2.「経営計画」とは

 「経営計画」とは、企業がその将来に向かって、経営ビジョンや目標を達成するために必要な計画のことを広く指します。経営ビジョンは「わが社の将来のありたい姿」です。具体的に「こうあらねばならぬ」という表現の仕方をする企業もあります。こうした経営ビジョンや目標を明示し、達成への道筋を経営計画に落とし込みます。

(1) 経営計画の期間

 経営計画はその期間で、長期経営計画(10年程度)、中期経営計画(3~5年)、短期経営計画(1年)等に区分することができます。
 長期経営計画は、経営方針や長期的なビジョン、10年後にどうなっていたいのか、といった事柄をまとめたものです。
 中期経営計画は、企業の進むべき方向性を明確にし、「今、何をなすべきか」を明らかにすることをねらいとして策定されるものです。「現状から見た将来を示すもの」といえます。現状が変われば将来も変わるわけですから、中期経営計画も毎年作り直すことが理想的です。
 それに対し、短期経営計画は数値計画などを詳細に立てたものであり、「今を知るためのモノサシ」だといえます。予算と実績の差異を測るためのものですから一度作ったら変えてはいけません。

短期経営計画と中長期経営計画

 実際の運用面においては、短期計画だけでは限界があります。例えば赤字に苦しんでいる企業の場合、そこを1年後に黒字にするのは至難の業です。せっかく計画を立てても、実践する意欲にはつながらないかもしれません。しかし中期経営計画であれば、たとえ来年が赤字でも「数年後には黒字になる」という希望を持つことができます。中小規模の企業でも毎年新しい中期経営計画を策定し、そこから短期経営計画に落とし込むことで予算化し、予実管理を行うことが望ましいといえるでしょう。

中期経営計画と短期経営計画の相違点

(2) 企業のライフステージごとに異なる経営計画の目的

 企業は、創業から各ライフステージを踏みながら成長していきます。このライフステージごとに企業が作成する「経営計画」の目的も異なってきます。

企業のライフステージ

創業期:「創業計画」
……創業前には、創業に必要な資金計画と創業時の収支計画を策定し準備を進める必要があります。
成長期:「経営計画」
……創業期を過ぎ成長期に入ると、「中期経営計画」をもとに次年度の「短期経営計画」を策定します。
成熟期:「経営改善計画」「経営革新計画」
……成熟期に入ると、売上高、利益の減少傾向が表れてきます。「新たな取り組み」を行うことにより、「経営を革新」する必要があります。
衰退期:「事業再生計画」「事業承継計画」
……衰退期に入ると、売上高、利益の減少傾向が顕著になり、事業継続するか否かの判断をすることが必要となります。事業を継続するのであれば、金融機関をも巻き込んだ「事業再生計画」の策定が必要となります。

(3) 経営計画書は数種類あってよい

 前述のとおり、経営計画は、目標を明示していま何をすべきかを明らかにする中期経営計画と、年度ごとの実行計画である短期経営計画が必要です。また、中期経営計画と短期経営計画のそれぞれについて、「社長の夢を実現する積極的な計画」や「金融機関に提出する達成可能で確実な計画」など、目的別に複数の経営計画を作成することも考えられます。
 例えば事業承継計画を新たに作成するとしても、それはそれまで運用している経営計画を反故にするものではなく、経営計画の一部に加わることとなります。もし既存の経営計画が事業承継を想定していないものならば、環境が変化したとして中身を見直せばよいでしょう。経営計画書は数種類あってよいのです。

3.なぜ経営計画が必要なのか

 具体的な計画などがなくても経営理念があれば会社は回る、経営計画を立てても計画どおりにならないから立てるだけ無駄、と考える経営者もおられるでしょう。
 しかし、企業が存続・発展するためには、外部環境の変化に的確に対応し、人、物、金、情報等の経営資源を自社の有利な方向に集中して、競合他社に対して競争優位を実現しなければなりません。経営者は、そのような経営方針を具現化するために経営計画を策定し、自社の進むべき方向性を明らかにして意思統一を図ることが必要になります。
 また、外部に公表するために経営計画が必要とされる場合もあります。金融機関等に企業の将来性をディスクローズし、金融機関等が、その計画の内容及び実現可能性を審査するために必要な経営計画がその一つです。また国等の公的支援を受けるために、所定の要件を満たした計画を要求される場合があります。

(1) 経営計画はカレンダーへの書き込みにあらず

 経営計画は、①頭の中の経営ビジョンを具現化し、②従業員に意思統一を図り、③外部へ公表する、という3つの機能があります。
 第一の機能として、経営計画は経営者の頭の中のビジョンを具現化するツールとなります。
 以下は経営計画作成の流れの一例です。年間の予定をカレンダーに書き込むようにいきなり具体的な計画を作成するのではなく、現状の把握や分析、見直し等のステップを踏んでいることがわかるでしょう。

経営計画作成の流れの一例

 考えを可視化することでその考えをさらに深めることができ、複数の人間の考えを合わせて一つにまとめることもできます。そうして可視化した経営計画は、経営者からの明確な指示です。周囲に公開すれば簡単に覆せないため、経営者自身にとっての戒めともなります。

(2) 従業員が見通しを持った仕事をする

 第二に、経営計画は、従業員へ自社の方向性を明らかにし、意思統一を図るツールとなります。前述のように経営計画は経営者からの明確な指示です。この先1年ないし3~5年に会社がどのように存続・発展していくのか、その経営方針を把握できると、従業員一人ひとりが見通しを持つことができます。同じ新規の業務でも、来年も行う方針だとわかっているものならば来年に向けての改善に努めることも可能です。数値目標を経営計画に盛り込めば、「あとどれだけ頑張ればよいか」が明確になるでしょう。

(3) 金融機関からの評価材料となる

 第三に、経営計画は金融機関や資金提供者など外部へ信頼を獲得するためのツールとなります。特に、金融機関は「達成可能で確実な計画書」を求めています。達成可能な計画書であれば、金融機関による企業格付けや自己査定において、あなたの会社の評価が高まる可能性があります。金融機関に計画書を提出し、1年後にその計画を上回る業績を上げることができれば、金融機関からの評価は確実に高まります。

4.経営計画の運用

(1) 経営計画の作成は目的ではない

 経営計画を作成しても、そこで終わりではありません。計画は実行してこそ意味があるものです。実行せずに終わったのではまさに「絵に描いた餅」です。経営計画を作成することは目的でなく、手段にすぎません。経営計画を絵に描いた餅にしないためにも経営計画を基にした業績管理体制を構築する必要があります。

(2) 業績管理体制の作り方

 業績管理とは「PDCA」を確実に実践し、目標を達成することです。
 3~5年の中期計画が達成できるか否かを確認するためには、年度ごとに計画達成度をチェックする必要があります。そのためには中長期目標を受け、その実現可能性に向かってブレークダウンした単年度目標が明確にされていなければなりません。そしてその短期目標に対しての業績管理・進捗管理が必要不可欠になってきます。
 まさしく中長期でもPDCAサイクルがあり、さらにそれを受けて短期でもPDCAがあり、そのPDCAサイクルを社内に定着させ、その管理サイクルの進捗を全員で推し進める必要があるのです。

中長期のPDCAサイクルと短期のPDCAサイクル

P L A N (計画) : 中期経営計画の策定、短期経営計画の策定
D O (実行) : 選択と集中、実行、成果の拡大、迅速・正確な月次決算の実施
C H E C K (検証) : 全社・部門別の予算実績差異分析と期末業績予測
ACTION(対策) : 販売計画の見直し、固定費圧縮計画、戦略的決算対策

業績管理のPDCAサイクル

 業績低迷の企業の多くはこの「PDCAサイクル」が円滑に回っていません。「P:計画はとりあえずあるけれども、D:ただやっているだけ、C:人手も足りず忙しいのでチェックする暇もなく、A:当然問題も認識していないので対策など考えてない。」つまり「やりっ放し経営」の会社の業績が向上するわけがありません。大切なのはチェックする体制づくりと対策・改善の推進です。このような会社は、会計事務所による月次巡回監査時に先月までの状況を振り返り、問題を確認し、今後の対策を考える時間をとることを定例化するとよいでしょう。

(3) 業績検討会の開催

業績検討会のイメージ

 経営判断のモノサシである経営計画ができたら、毎月月次決算を行い、予算管理するほか、定期的な業績検討会を開催します。そこで計画と実績の差異を確認し、その原因と今後の経営課題を考え、行動することが重要です。
 少なくとも四半期に一度は業績検討会を開催し、予算と実績との差異を認識し、測定し、それを改善するための具体的な対策を検討することが必要です。
 四半期業績検討会の内容は以下のとおりです。

●第1四半期業績検討会(開催時期: 4月目)

テーマ:「前期の課題を改善しているか」
 第1四半期業績検討会は、期首より3か月までの予算と実績の差異分析を行います。さらに期末までの9か月間の業績予測により、当初立てた経営計画がこのままうまくいくのかを検討します。
 第1四半期業績検討会は、期首より第4月目という時期に開催されるので軽視しがちです。誰もが新しい事業年度を迎えるに当たって自社の経営課題や具体的改善点を強く意識します。経営計画はそれらの問題点の解消が織り込まれます。これらを踏まえた行動計画が、最初3か月でどの程度実施できたのか、どの程度の効果があったのかを評価することは、今後の経営計画がうまく実行できるのかを左右します。特に、新たな取り組みが計画されている場合は、計画の開始状況を評価し、このままでいいのか、新たな行動計画が必要なのかを検討することが重要です。

●第2四半期業績検討会(開催時期: 7月目)

テーマ:「行動計画を実施しているか」
 第2四半期業績検討会は、期首より6か月目までの予算と実績の差異分析を行います。さらに、期末までの6か月間の業績予測により当初立てた経営計画がこのままうまくいくのかを検討します。ここまでの手順は第1四半期業績検討会と変わりません。
 第1四半期業績検討会における経営課題や具体的改善点の実施状況と効果を確認します。今後の具体的な行動計画を検討します。さらに納税予測・決算対策(節税・利益確保)を検討します。また、中期経営計画策定会の開催を提案し、決算事前検討会の前に開催できるようにします。

●中期経営計画策定会(開催時期: 7~9月目)

テーマ:「中期経営計画の具体的な策定」
 第2四半期業績検討会の提案を受けて、中期経営計画の策定を行います。

●第3四半期業績検討会(決算事前検討会)(開催時期: 10月目または11月目)

テーマ:「今期の着地点はどうなるか」
 第3四半期業績検討会(決算事前検討会)はこれまで開催してきた四半期業績検討会同様、9か月目(または10か月目)までの予算と実績の差異分析と期末までの業績予測(3か月間または2か月間分)を行い、決算の着地点を予測します。これを踏まえて、納税予測・決算対策(節税・利益確保)を検討します。当然のことながら、第2四半期業績検討会で立てた決算対策よりも精度の高い計画が要求されます。特に、業績が不振の場合は、来期に向けての具体的な利益確保対策を検討します。
 もちろん、ここでも前回検討した行動計画の実施状況を評価検討することが必要です。

●短期利益計画策定会(開催時期:決算事前検討会終了後)

テーマ:「短期利益計画はどうするか」
 決算事前検討会終了後に、社長さんに来期の経営方針をお聞きし、短期利益計画(予算)を策定します。中期経営計画を策定している場合には、その計画を短期経営計画に落とし込みます。できれば開催時期は、10月目にしたいものです。計画により検討された具体的行動計画には実行するまでに準備は必要なものもあるからです。せっかく計画したのに期首より具体的な行動計画に移せないという事態は避けるべきです。

●決算報告会(第4 四半期業績検討会)(開催時期:決算月の2か月後)

テーマ:「前期の結果はどうだったか」
 決算日以後2か月以内に実施します。社長さんと決算内容を確認します。会計人は決算の完了ということで決算報告会を重要視しがちですが、業績検討会の年間のサイクルが確立されていれば社長さんにとってはあまり重要なものではありません。なぜなら、前期の結果を踏まえた新しい経営計画が既に始まっているからです。結果を振り返ることは重要なことですが、決算内容については、第3四半期業績検討会(決算事前検討会)において十分に検討されていることであり、決算報告会(第4四半期業績検討会)ではどこに差が生じたのかを確認するだけにとどめるのが理想です。
 経営計画策定会や業績検討会は、基本的に経営者と幹部社員が出席して行います。また会計事務所等の専門家や金融機関の担当者に同席していただき、会社の状況を理解した上でアドバイスを請うのも効果的です。
 経営計画の作成や業績検討会のサイクルを図にまとめると以下のようになります。

経営計画作成・業績管理のサイクル

5.まとめ

 以上のように、経営計画作成は一度きりのものでなく、サイクルとして回し、よりよきものに発展させていくことが重要です。この記事「なぜ経営計画が必要なのか」を読まれている方は、上記のような経営計画の運用のサイクルをまだ回し始めておられない方と思います。いきなり緻密で完璧な経営計画を作る必要はありません。サイクルを回していく中で項目が増えたり、ともに悩んで協力してくれる人が増えたりするでしょう。
 本記事が発展の一歩を手助けするものとなれば幸いです。

参考文献

・『後継者塾テキスト 会社を発展させる経営者になるために』TKC全国会中小企業支援委員会編著、TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

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 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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