💡この記事のポイント
☑コンプライアンス違反倒産で最も多い理由が「粉飾」
☑信用失墜が資金繰り悪化・倒産に直結する
☑コンプライアンス違反を防ぐ仕組みが重要
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- 1.「コンプライアンス違反倒産」とは
- (1) コンプライアンス違反を理由とした倒産が増えている
- (2) そもそも「コンプライアンス」とは
- (3) 近年のコンプライアンス違反事例
- 2.コンプライアンス違反の種類
- (1) 法令等の違反
- (2) 企業倫理・社会的責任等に反する行為
- (3) 環境・安全規制違反
- 3.「コンプライアンス違反倒産」を防ぐには
- (1) なぜ倒産してしまうのか
- (2) コンプライアンス違反を防ぐ仕組みを構築しよう
1.「コンプライアンス違反倒産」とは

(1) コンプライアンス違反を理由とした倒産が増えている
企業の倒産理由として最も多いのが販売不振(業績不振)で、倒産の約6~7割を占めるといわれています。その他の倒産の要因としては、連鎖倒産(取引先の倒産)や放漫経営、地震や洪水といった自然災害などが挙げられます。そうした中でも、近年増えているのが「コンプライアンス違反」による倒産です。
例えば、帝国データバンクの調査では、2024年におけるコンプライアンス違反を原因とした倒産が379件で、4年連続で前年を上回ったことを発表しています(※同一企業に複数のコンプライアンス違反がある場合は、主な違反行為で分類)。
なお、業種別では「サービス業」が最多で129件、続いて「建設業」69件、「卸売業」52件と続きます。違反の種類別では「粉飾」が最多で101件、これは3年連続、過去最多となっています。帝国データバンクは、粉飾を原因とする倒産が増えている理由について、「コロナ禍のゼロゼロ融資など各種支援策が粉飾の発覚を遅らせ、表面化しづらい状況が続いており、ゼロゼロ融資返済開始のタイミングで発覚した」と分析しています。
決算書等の数字をごまかすことは、倒産に直結しかねない、非常にリスクの高い行為であることがわかります。
■近年のコンプライアンス違反を原因とする倒産件数

(2) そもそも「コンプライアンス」とは
コンプライアンスを直訳すると「法令遵守」ですが、企業経営におけるコンプライアンスとなるともう少し幅広い概念です。法令(法律・政令・条例など)だけでなく、社内規程(就業規則や安全基準など)や社会規範・倫理(企業倫理・社会通念・人権・環境など)も含まれます。つまり企業経営におけるコンプライアンスとは、「企業が不正や不祥事を防ぎ、社会から信用され存続するために、社会から遵守を要請されているルールや規範等」であるととらえることができるでしょう。
そして「コンプライアンス違反」とは、故意か過失かを問わず、そうした広義のコンプライアンスに反する行為を指します。
(3) 近年のコンプライアンス違反事例
近年のコンプライアンス違反として、下記の事例があります。
【事例1】中古車販売業(全国展開の自動車関連サービス)
◎違反内容
・幹部による売上の前倒し・架空計上、不適切会計処理(2018年頃から)
・一部工場従業員による故意に車両を傷つけるなどの不正修理、過大見積もり請求
・ヘッドライトのカバーを割るなどの不正行為、店舗周辺の植栽被害など
◎結果
・企業に対する信用が失墜し、経営陣が辞任
・資金繰りが悪化し2024年12月に民事再生法の適用を申請(負債総額約831億円)
【事例2】環境資材製造業(東京都)
◎違反内容
・資金流出した金額を売掛金や開発費に計上(2024年)
・実態のない海外の債権を計上
・複数の決算書を作成
◎結果
・債権者から会社更生法の適用を申し立てられる
・支援スポンサーが見つからず、事業継続の見込みがないことから、更生手続きの廃止が決定
・約230億円の負債を抱え破産手続きを開始(2025年)
【事例3】旅行代理店(東京都)
◎違反内容
・県の旅行支援事業の運営事務局としてスタッフを派遣しており、勤務実態のないスタッフの人件費を不正に請求(2022年~2023年)
◎結果
・不正請求相当額である約560万円を委託費から減額
・同事業から離脱
・業務委託料のうち営業管理費の辞退
※倒産には至らず
2.コンプライアンス違反の種類
(1) 法令等の違反
法律や政令、条例、各種規制など、法律で明記されていることに違反する行為によって、摘発・制裁を受けることです。具体的には、次のような種類があります。
① 脱税・粉飾決算
脱税とは、納める義務がある税金の額を意図的にごまかし、納税額を不当に少なく抑えたり、まったく納めないことをいいます。計算ミスや税法の解釈の誤りなど、過失によって生じる「申告漏れ」とは異なり、脱税は故意による悪質な行為です。一方、粉飾決算とは、不正な会計処理を行うことで、意図的に財務諸表を操作することです。例えば、実際には赤字であるにも関わらず、在庫や経費の数字を改ざんし、企業を黒字であるかのように見せかけることです。逆に、税金を減らすため故意に赤字に見せかけることもあります。
② 独占禁止法違反
独占禁止法に違反する行為とは、市場での公正・自由な競争を阻害することです。例えば、他の事業者を排除し市場を独占する「私的独占」、カルテル(価格協定)や入札談合といった「不当な取引制限」、取引を拒絶するなどの「不公正な取引方法」などがあります。
③ 労働法違反
労働法とは、労働基準法などの労働関係法令全般のことです。労働法違反の具体例としては、残業代の未払い、法定労働時間の超過、解雇予告なしの解雇、産前産後休業や育児休業の不当な拒否、有給休暇取得の拒否といった行為が挙げられます。これらの違反行為に対しては、厚生労働省によって企業名が公表されることもあり、その場合は企業の信用が失墜します。また、場合によっては経営者に罰金刑や拘禁刑が科されることもあります。
④ 金融商品取引法違反
金融商品取引法とは、有価証券(株券や債券など)やデリバティブ(先物取引など)の取引に関するルールを定めている法律で、投資家の保護と資本市場の公正な機能確保を目的としています。金融商品取引法違反の事例としては、例えばインサイダー取引や相場操縦などの不公正取引、有価証券報告書などの虚偽記載・不提出、金融庁の登録を受けずに金融商品取引業を行う無登録営業などが挙げられます。違反内容の重大性や悪質性に応じて、拘禁刑や罰金などの刑事罰が科されることもあります。
(2) 企業倫理・社会的責任等に反する行為
企業倫理や社会的責任に照らして、顧客や社会全体からの信頼を失うような行為です。業法等の違反も含まれる場合があります。具体的には、次のような種類があります。
① 製品情報の偽装やデータの改ざん
意図的に虚偽の商品情報を表示し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示をすることです。データの改ざんとは、例えば、免震材料の性能評価・大臣認定等の取得に際し、データを改ざんした製品の試験結果を提出するといった事例が挙げられます。
② 食品偽装
食品偽装とは食品について虚偽の情報を表示することで、産地を偽る産地偽装、原材料を偽る原材料偽装、消費期限または賞味期限を偽る偽装などが典型例です。食品偽装をした事業者は、民事上の損害賠償請求等を受ける可能性があるのはもちろん、場合によっては刑事罰の対象にもなり得ます。
③ 顧客情報漏えい
「情報漏えい」とは、会社や組織の内部に留めておくべき情報が、何らかの原因によって外部に漏れてしまうことです。サイバー攻撃を受けた場合など、意図的ではないこともありますが、役員や従業員による故意の情報漏えいの場合、重大なコンプライアンス違反といえます。法的には、不正競争防止法や個人情報保護法、不正アクセス禁止法などの違反となり、民事上の責任を負わなければならないのはもちろん、場合によっては刑事罰や行政処分の対象となることもあり得ます。
(3) 環境・安全規制違反

企業倫理や社会的責任に照らして、顧客や社会全体からの信頼を失うような行為です。業法等の違反も含まれる場合があります。具体的には、次のような種類があります。
① 排ガス規制違反
排ガス規制とは、自動車や特殊自動車から排出される有害物質の量を減らし、大気汚染や健康被害を防ぐための規制です。自動車等1台ごとの排出ガス量に上限値が設定されており、これを超えないように開発・製造が行われます。この規制を、データの改ざん等によってクリアするのが排ガス規制違反です。
② 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反
廃棄物処理法は、正式名称を「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」といい、廃棄物の排出を抑制しつつ、発生した廃棄物をリサイクル等の適正な処理を行うことを目的とした法律です。これに違反し、例えば不適切な廃棄物の処理、不法投棄、無許可での処理委託、不法焼却等を行うと、その程度に応じた罰則が科されることがあります。
③ 建築基準法違反
建築基準法は、日本国内の建物やその周辺環境を安全かつ快適に保つための法律で、建物の構造や配置などについて最低限守るべき基準等を定めています。この建築基準法に違反している建築物を違反建築物といいます。違反建築物の事例としては、建築確認の無届、建築基準法令違反、道路境界線オーバー、用途地域の不適合、無許可の増改築などが挙げられます。違反建築物に対しては、是正勧告や是正命令、工事停止命令などの行政指導があります。また、こうした違反に対して、建築主だけでなく、設計者、施工者等の責任を問われることもあります。
3.「コンプライアンス違反倒産」を防ぐには
(1) なぜ倒産してしまうのか
コンプライアンス違反倒産の結果に共通しているのが、急激な信用失墜です。仮に財務が健全だったとしても、信用失墜により顧客や取引先が離れてしまい、仕入れも販売もできなくなってしまうと、資金繰りが急激に悪化します。
比較的大きな企業でも、コンプライアンス違反から短期間で倒産に至る事例があるのは、次のような理由が考えられます。
① 消費者からの信用が失墜
コンプライアンス違反が発覚し、それがニュース等で世間に知れ渡ってしまうと、消費者からの信用がなくなります。特に現代ではSNSによって情報が拡散し、いわゆる「炎上」が起こることもあります。BtoCの業態であれば売上の減少に直結し、急激な資金繰りの悪化から倒産に至る可能性が高まります。
② 金融機関からの信用が失墜
金融機関から継続的に運転資金の借入をしている企業も少なくないと思われます。しかし、コンプライアンス違反を起こすような企業は、貸し倒れとなる確率が高くなりますから、金融機関としては当然融資をすることを躊躇します。融資を受けられなくなれば運転資金が枯渇し、結果として倒産に至る可能性が高まります。
③ 許認可の取り消しまたは業務停止
監督官庁の許認可の下で経営をしている業態であれば、コンプライアンス違反によって許認可の取り消しまたは業務停止命令を受けることで、経営がストップします。当然、営業活動が継続できなければ資金も枯渇してくるので、倒産に至る可能性が高まります。
④ 役員や従業員の退職
コンプライアンス違反による人手不足も、倒産の要因となることがあります。前述のように、自分が勤めている会社が「炎上」し、世間から叩かれていると、役員や従業員にとって大きなストレスとなり、退職につながりかねません。特に優秀な役員、従業員ほど、次の職場を見つけやすいので、退職してしまうリスクが大きいと考えられます。こうした優秀な人材の流出によって企業の生産性や士気が低下し、それが売上や利益の減少につながり、結果として倒産に至るリスクが高まります。
(2) コンプライアンス違反を防ぐ仕組みを構築しよう
どうすればコンプライアンス違反による倒産を防ぐことができるのでしょうか。コンプライアンス違反を起こさないために、どんなに規模が小さくても、組織として仕組みづくりが必要です。
① コンプライアンス違反につながるリスクを洗い出す
過失によるコンプライアンス違反の原因については、知識不足や業務におけるミスなどが考えられます。また、故意のコンプライアンス違反については、業務を遂行するため、あるいは個人の利益のためという理由が考えられます。従業員へのヒアリング等を通じて、こうしたコンプライアンス違反につながるリスクを洗い出し、ワークフローの見直しやマニュアルの改定などを行いましょう。特に税務・会計に関するコンプライアンス違反については、顧問税理士等の専門家に相談し、例えば改ざん不可能な会計システムを利用するといった仕組みを構築することで、大幅にそのリスクを抑えられます。
② コンプライアンス方針を明文化し、各種規程を整備する
コンプライアンスに対する企業の方針を明文化し、各種規程の改定という形で役員や従業員の行動規範を見直します。具体的には、就業規則や社内規定の作成、あるいは改定といった整備です。
③ 内部通報窓口の設置
企業内でコンプライアンス違反が疑われる事象が発生した場合に、従業員が通報できる内部通報窓口を設置することも対策の1つです。こうした窓口を通じて、従業員によるコンプライアンス違反を早期に発見することができれば、対応も早くなり、倒産するリスクもそれだけ軽減します。
④ コンプライアンス研修の実施

役員や従業員のコンプライアンス意識を醸成するためには、コンプライアンス研修の実施という方法もあります。個人情報保護や労働関連法規などの法律知識、あるいはハラスメント防止といった職場における行動規範などを知ってもらうことで、コンプライアンス違反のリスクが減少すると思われます。事例研究として過去の自社あるいは他社におけるコンプライアンス違反を紹介したり、一方的に講義をするだけでなくワークショップ形式で話し合ってもらったりすることも重要です。また、一度の研修で終わらせるのではなく定期的に開催する、あるいは終了後に成果測定のためのアンケートや小テストを実施するといったことも効果的であるといわれています。
【参考資料】
・帝国データバンク「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年度)」
・Webサイト NECソリューションイノベータ「コンプライアンスとは? 意味や企業の違反事例をわかりやすく解説」
・Webサイト BUSINESS LAWYERS 編集部「コンプライアンスとは?定義や違反事例をわかりやすく解説」 他

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