💡この記事のポイント
☑設備投資の際は経理部門が十分な検討と評価を行い、経営者の決断に役立つ情報を提供する。
☑投資計画は目的と時期を、根拠をもとに明確に。リースやレンタルも一つの手。
☑計数に裏付けされた「設備投資計画書」を作成し、採算の測定方法も事前に把握しよう。
閉じる開く
- 1.投資意思決定における経理参謀の心得
- 2.設備投資計画の検討内容
- (1) 投資目的を明確にすべし
- (2) タイミングを逸するべからず
- (3) メンテナンス費用を見落とすべからず
- (4) 税負担を投資計画に組み込め
- (5) 減価償却費を見積もる
- (6) リースやレンタルも活用すべし
- 3.投資意思決定のための事前検討
1.投資意思決定における経理参謀の心得
(1) 設備投資は採算性を的確に見極めるべし
設備投資は、企業の成長に欠かせない活力源です。過去の投資が現在の収益を支え、現在の投資が将来の収益を生み出します。
強固な経営基盤を築くには、適切なタイミングでバランスの取れた投資を行うことが重要ですが、将来予測に基づく意思決定には大きなリスクが伴います。一度判断を誤れば、財務を圧迫し、最悪の場合、経営危機に陥る恐れもあります。
特に、投資後に毎期発生するメンテナンス費用は業績に関係なく継続するため、計画段階で採算性や維持コストを十分に把握し、リスクを抑えることが求められます。
設備投資は「人への投資」と並ぶ重大な意思決定であり、固定費増加による財務悪化を招かないよう慎重な判断が必要です。
※本記事でいう「設備」とは、建物・機械・器具備品・土地などの有形固定資産を指します。
(2) 投資意思決定に役立つ情報を経営者に提供せよ
設備投資の意思決定は、
①部門からの案件提出 → ②経理部門の検討・評価 → ③取締役会の審議・承認
という三段階で行われるのが一般的です。
経理部門は、投資の目的や効果、時期の妥当性、採算性、資金繰り、業績への影響などを事前に精査し、経営者が最適な判断を下せるよう、選択肢と根拠を示す責任を担っています。
2.設備投資計画の検討内容

(1) 投資目的を明確にすべし
設備投資には多額の資金が伴うため、まず目的の明確化が必要です。主な目的は「収益の拡大」「企業活動の維持」「経費の削減」の3つに分類されます。
①収益の拡大 | |
拡張投資 | 工場の拡張、新店舗の出店など、売上拡大を目指す投資。将来の売上を的確に予測し、採算が見込めるかを判断します。 |
研究開発投資 | 新製品開発など、長期的に企業の利益に貢献する投資。ただし、成果が不確実なため、一定期間の資金的な耐久力も必要です。 |
②企業活動の維持 | |
取替投資 | 老朽化設備の更新により、品質維持と生産安定を図るもの。不具合発生前の先手対応が鍵です。 |
勤務環境の改善 | 本社ビルの改修や安全設備の設置など、従業員の職場環境改善や企業イメージ向上につながります。収益を直接生む投資ではないため、資金余力と維持コストを十分に検討する必要があります。 |
福利厚生の向上 | 社員寮や食堂など、従業員の福利厚生を目的とした投資。人材確保にも寄与します。 |
公害対策 | 法規制に対応した設備の導入・改善など。場合によっては、製品の生産停止を含む抜本的見直しも視野に入れる必要があります。 |
③経費の削減 | |
合理化投資 | 機械化や自動化による省力化・効率化。余剰人員の再配置などにより、コスト削減とマンパワーの有効活用を図ります。 |
IT/DX化投資 | 業務のデジタル化によって人手や紙・時間コストを削減し、業務を効率化、固定費の圧縮や標準化が図れます。近年では、クラウド活用、AI導入、電子帳簿保存法・インボイス制度への対応を契機に、IT投資が付加価値の創出にもつながる戦略投資として注目されています。データ活用による意思決定の高度化や、新しいサービス提供の基盤づくりにも寄与する投資ともいえます。 |
(2) タイミングを逸するべからず
設備投資の実施時期は、なぜ今なのかという根拠とともに慎重に検討する必要があります。以下の4つの視点が重要です。
①先手必勝
市場の変化をチャンスと捉え、他社より早く資金投入する判断力が競争優位につながります。慎重すぎる判断は、せっかくの好機を逃す結果にもなりかねません。
②待ったなし
環境規制など外部要因により、設備更新が不可避になるケースもあります。例えば、使用中の生産設備が将来使えなくなる可能性があるなら、開発期間を見据えた早めの意思決定が必要です。
③金利の動向
借入に依存する企業では、金利上昇の兆しを察知して前倒し投資を行うなど、資金コストの最適化も重要な判断材料になります。ある大手企業では、社債発行を1カ月前倒しすることで、金利上昇によるコスト増を回避した例もあります。
④当期業績への影響
建物建設のような大型投資は、建築確認申請や工期の影響で、利益計画にズレが生じることも。営業開始の時期から逆算して、設計や発注、許認可のタイミングを的確に把握しておくことが不可欠です。
(3) メンテナンス費用を見落とすべからず
設備投資には、導入後の維持管理コストが必ず発生します。
例えば、自社ビルであれば、清掃や空調の保守、人件費、保険料、光熱費、さらには植木の剪定まで、多様な費用が継続的にかかります。
ある企業では13億円で建てたビルの年間メンテナンス費用が約8,000万円と見積もられた例もあり、こうしたコストは意外に見過ごされがちです。
これらの費用は業績に関係なく毎期発生するため、投資の計画段階から把握・織り込んでおくことが重要です。特にビルのような大型資産については、少なくとも向こう5年分の維持費を建設会社から見積もっておくとよいでしょう。
また、機械設備の導入時も、保守契約や修繕費の内容を事前に確認し、節約の余地がないかを検討することが、長期的なコスト管理に役立ちます。
(4) 税負担を投資計画に組み込め
設備投資には、新たな税負担が伴います。中には1回限りのものもあれば、以後毎年発生するものもあります。こうした税負担を見落とすと、資金繰りや利益計画に影響を及ぼすため、投資計画段階での把握が不可欠です。代表的な税目は以下のとおりです。

①固定資産税(継続課税・地方税)
土地・家屋・機械設備など、取得後に毎年課税される税です。対象資産(課税客体)は次の3区分です。
a. 土地
b. 家屋(店舗・工場など)
c. 償却資産(機械・備品等。ただし特許権などの無形資産や自動車は除く)
課税団体は固定資産所在の市町村で、標準課税(税額の計算基礎)は購入価格ではなく固定資産課税台帳に登録されている「評価額」に基づきます。税率は市町村によって異なりますが、原則標準税率1.4%が適用されます。
課税時点は毎年1月1日現在の所有状況に基づきます。たとえば12月に取得した場合、翌年の1月1日現在の所有資産となり、同年4月には課税が始まります。長期的に見れば税負担に差異はありませんが、取得時期によって資金繰りや利益計画への影響が出ます。
なお、建物は使用開始に関係なく、完成していれば課税対象です(引渡しが1月でも完成が前年12月なら課税対象)。
また、納付する固定資産税は、全額を当年度に未払計上することで、たとえ分納しても一括して損金算入が可能です。
②不動産取得税(単発課税・地方税)
固定資産税と同様に地方税ですが、課税団体は道府県です。土地・家屋を取得、または増改築した際に課される税です。課税標準は固定資産税と同様、台帳の評価額を基に計算され、税率は原則4%(都道府県により異なる)です。不動産取得税も固定資産税と同様に付加課税方式です。
③登録免許税(単発課税・国税)
不動産登記時に発生する国税で、権利の対抗要件として登記が必要です(民法177条)。
登記によって不動産が自己の所有であることを証明することができ、その登記の際にかかる税であり国税です。土地・建物の課税標準は固定資産課税台帳に登録されている評価額ですが、条件により減免措置が適用される場合もあります。
税率は所有権保存登記で1000分の4が基本ですが、内容により異なるため確認が必要です。登記申請と同時に納税します。
④事業所税(継続課税/地方税・指定都市)
東京・大阪・名古屋などの指定都市でのみ課される目的税(地方税法701条の30)です。
「資産割」と「従業者割」の2つの基準があり、事業年度ごとにかかります。
・資産割:床面積1,000㎡超の事業所 → 1㎡あたり600円
・従業者割:従業員100人超 → 給与支払総額の0.25%
都市により特例措置や軽減制度もあるため、必ず自治体ごとの制度を確認してください。
⑤消費税・地方消費税(単発課税・国税+地方税)
設備投資額が大きいほど、消費税負担も無視できないコストになります(例:1億円で1000万円課税)。
a. 中間申告
年間税額に応じて定められた回数の納付義務が発生します。
中間申告の回数
・前期(前課税期間)の年税額が4,800万円超→年11回
・前期(前課税期間)の年税額が400万円超4,800万円以下 → 年3回
・前期の年税額が48万円超400万円以下 → 年1回
・前期の年税額48万円以下 → 中間申告不要
当該中間申告の対象期間を一課税期間とみなして仮決算を行い、実際の数値に基づいて申告・納付することも可能です。
たとえば、多額の設備投資を事業年度の初期に行った場合には、仕入税額控除の金額が大きくなるため、実額計算による申告のほうが有利となるケースがあります。事業年度を通じてみれば納付税額の総額は変わりませんが、たとえば四半期ごとに中間申告する課税事業者であれば、第1回目の中間申告を仮決算により実額申告とした場合には、前期申告額の4分の1との差額にかかる資金調達と9カ月分の金利負担を軽減することができます。
b. 還付の注意点
支払った消費税が預かり分より大きい場合は還付を受けられますが、免税事業者や簡易課税適用中の事業者は還付対象外です。
還付を受けるには、事前に「課税事業者選択届出書」を提出しておく必要があります。届出忘れによる還付漏れがないよう注意が必要です。
(5) 減価償却費を見積もる
設備投資によって取得した建物・機械・備品などの有形固定資産は、長期にわたって使用されるため、取得費用を耐用年数に応じて各期に配分する必要があります。これが「減価償却費」であり、土地や美術品などは対象外です。
減価償却費を計上するには、実際に事業の用に供されていることが前提です。使用開始の証明資料(開所式の記録など)も整えておくと安心です。
①減価償却費を見積もる際のポイント
a.使用開始月から月割り計算で求めるため、開始月により当期の計上額が変わる(購入初年度)
b.設備ごとに耐用年数・構造別の分類が必要
c.運賃・設置費なども取得価額に含む
②償却方法の選択肢
a.定額法:毎期同額を償却。定率法と比較して初期の費用が抑えられる、計算がしやすい等のメリットも。
b.定率法:初年度に多く償却し、年々逓減。節税効果が期待できる。
償却方法は資産の種類ごと、事業所ごとに選択でき、税務署への届け出が必要です。届け出をしない場合は定率法が適用されます。また法人税法上、選定した償却方法は継続することが原則です。なお、平成10年以降、建物は定額法のみが認められています。
③少額減価償却資産の償却方法
使用可能期間が1年未満、または取得価額10万円未満の資産は全額一括費用処理が可能です。
10万円以上20万円未満の資産は以下のいずれかで処理します。
・個別償却:耐用年数に従って処理(除却まで残価が残る)
・一括償却(申告調整/決算調整):3年間均等償却。途中除却しても償却は継続
※「個別償却」を選んだ場合、固定資産税が課されます。
(6) リースやレンタルも活用すべし

設備投資にあたっては、購入だけでなくリースやレンタルの活用も有効です。資金繰りや利益計画に与える影響は大きいため、それぞれの特性を踏まえて選択することが重要です。
①リースとは
リースとは、リース会社が機械などを購入し、長期にわたって企業に貸し出す仕組みです。物件の所有権はリース会社にあり、企業はリース料を毎月支払います。
主に「ファイナンス・リース」が一般的で、税務上の取扱いには以下の条件があります。
・リース料総額がリース物件の取得費用の90%以上であること
・中途解約不可
・リース期間は原則として耐用年数の70%以上(10年以上の資産は60%)
契約満了後は返却または再リースが可能です。
▶ リースのメリット
・初期費用を抑えられる(借入と異なり担保不要)
・費用が平準化される(毎月一定額を費用処理)
・節税効果がある(短期で償却可能)
・陳腐化対策になる(短期利用で最新機器に更新しやすい)
・事務処理が軽減される(減価償却や固定資産税処理が不要)
▶ リースのデメリット
・中途解約ができない
・買取よりもコストが割高(手数料などが上乗せされる)
②レンタルとの違い
レンタルは、レンタル会社が汎用設備を在庫として保有し、短期間貸し出す仕組みです。物件の保守管理は貸主側が行い、サービス色が強いのが特徴です。
料金はリースより割高ですが、一時使用や短期利用には適しています。
3.投資意思決定のための事前検討
(1)計数に裏付けされた「設備投資計画書」を作成すべし
設備投資は、企業の将来を方向づける重要な意思決定です。中期経営計画との整合性を確認するには、定量的な裏付けのある「設備投資計画書」の作成が不可欠です。
たとえば、地方営業所を都心に移転する場合、まずは増加する費用と減少する費用を整理します。
増加する費用(例)
・新営業所の家賃
・減価償却費(設備・内装工事等)
・リース料・修繕費・租税公課
・備品購入、移転費用、原状回復費、除却損
このうち、リース料や固定資産税などは翌期以降も継続的に発生する費用です。特に減価償却費は、資産ごとの耐用年数に応じた見積もりが必要です。
減少する費用(例)
・移転前の家賃
・除却資産の償却費
・契約終了分のレンタル料や保守費用
・移転によって不要となる固定資産税など
これらの増減差額を5年スパンで算定し、中期経営計画との整合性を検討します。
なお、売上高や限界利益などの変動項目は予測精度に限界がありますが、固定費の変化は見積もりが立てやすく、財務的な影響を事前に把握できる重要な指標となります。
(2) 設備投資の採算性の測定方法を知っておこう
設備投資の可否判断には、将来収益と資金負担を見える化する分析手法が有効です。ここでは代表的な3つをご紹介します。
①回収期間法
投資額を、得られるキャッシュ・フローの年額で割って、何年で回収できるかを測定する方法です。
算式
回収期間(年) = 設備投資額 ÷年間のキャッシュ・フロー増加額(税引後利益+減価償却費)
投資が全額借入である場合は、借入返済期間が回収期間を下回ると資金ショートのリスクがあるため、目安として活用できます。
②投下資本利益率法
投資によって得られる利益がどれだけ資本に対して効率的かを測定します。
算式
投下資本利益率(%)=予想増加営業利益÷投下資本
=予想増加営業利益 ÷(設備投資額+運転資本増加額)
=予想増加営業利益÷(設備投資額+売上債権増加額+棚卸資產増加額)
営業利益は、減価償却費控除後で、支払利息を含まない数値とします。これは、資金調達方法(自己資金か借入か)に左右されない中立的な採算評価を行うためです。
なお、運転資本の増加額は、次のように表せます。
売上債権増加額+棚卸資産の増加額
=(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間)× 予想増加月商
この投下資本利益率と、現状の総資産利益率(ROA、営業利益÷総資産)とを比較することで、投資の妥当性を判断できます。もし新たな投資の利益率が既存のROAを下回るようであれば、販売計画や在庫回転の見直しなど、前提条件の再検討が必要です。
ただし、この指標はキャッシュ・フローを考慮しないため、どちらかといえば設備投資の事後評価に用いられることが多い点にも留意が必要です。
③現在価値法
将来得られるキャッシュ・フローを現在価値に割り引き、投資額と比較して採算性を評価します。時間的貨幣価値を反映しており長期のプロジェクトなどに使用されています。
現在価値の合計がプラスなら実行、マイナスなら見送りと判断できます。
算式(正味現在価値法)
賞味現在価値額=年々のキャッシュ・フロー増加額(税引後利益+支払利息+減価償却費)の現在価値の合計-設備投資額の現在価値合計
・正味現在価値額≧設備投資額→実行
・正味現在価値額<設備投資額→見送る
採算評価は「予測」であることを忘れずに
各手法には限界があります。たとえば、回収期間法は回収後の利益を評価しませんし、現在価値法では割引率の設定に恣意性が入りやすいといった問題もあります。
いずれも予測に基づく計算である以上、一つの数字だけで可否を決めるのではなく、総合的な判断が重要です。複数の視点から多面的に検討し、設備投資の実行判断を下しましょう。
参考文献
飯塚真玄監修、TKC東京本社総務本部編著『経理参謀の心得』TKC出版

記事提供
株式会社TKC出版 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。