2025年08月25日

「企業版ふるさと納税」の特徴と仕組み

「企業版ふるさと納税」の特徴と仕組み

💡この記事のポイント
 ☑6割の税額控除と3割の損金算入により、法人関係税が約9割控除される。
 ☑寄附先の自治体とのパートナーシップの構築が期待できる。
 ☑金銭の寄附のみでなく、企業による自治体への人材派遣も可能。

1.企業版ふるさと納税の特徴

 「企業版ふるさと納税」は2016年度(平成28年度)から始まった制度で、正式名称を「地方創生応援税制」といい、その名前の通り国の認定する自治体の地方創生プロジェクトを企業が寄附を通じて応援できる制度です。
 「ふるさと納税」は個人向けが有名ですが、企業版と個人版の相違点は下表のとおりです。

【企業版ふるさと納税】【個人版ふるさと納税】
管轄内閣府総務省
寄附対象自治体(都道府県、市区町村)の事業やプロジェクト自治体(都道府県、市区町村)
控除される税寄附者の所得税と住民税法人関係税
寄附側の負担寄附金額の約1割2,000円

 「企業版ふるさと納税」の特徴としては、寄附を行うと、法人関係税の軽減や自治体とのパートナーシップの構築といったメリットが得られることなどが挙げられます。
 企業版ふるさと納税にはメリットもありますが、注意点もあります。まず企業版ふるさと納税のメリットについて説明します。

(1) メリット1:法人関係税の軽減

 企業版ふるさと納税を利用し寄附すると、法人関係税から税額控除を受けることができます。
 法人関係税とは法人が納める法人税、法人事業税、法人住民税の3種の税を指し、下表の通りそれぞれ異なる点があります。

【法人税】【法人事業税】【法人住民税】
・納税先自治体自治体
・税のかかる対象会社の所得会社の所得会社の所在
・損金算入有無不可不可
出典:総務省「法人事業税」 を基に作成

 企業版ふるさと納税で控除上限額まで寄附を行うと、法人関係税において、税額控除では最大6割と法人事業税の損金算入3割を合わせた9割が控除されます。それぞれ税額が控除される割合は下記のとおりです。

損金算入(約3割)
国税+地方税
(4割)
法人住民税+法人税
(2割)
法人事業税
(1割)
企業負担
出典:内閣官房「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

 上表のとおり、各法人関係税の税額控除割合は法人住民税+法人税4割、法人事業税2割ですが、控除方法については下表のように各税で決まっています。

法人住民税寄附額の4割を税額控除(法人住民税法人税割額の20%が上限)。
法人税法人住民税で4割に達しない場合、その残額を税額控除。
ただし、寄附額の1割が限度(法人税額の5%が上限)。
法人事業税寄附額の2割を税額控除(法人事業税額の20%が上限)。
出典:内閣官房「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

 法人税については法人住民税が4割に届かない場合のみ、寄附額の1割を限度にしてその残額を控除します。
 また、税額控除のほかに3割分の損金算入が行われます。詳細は「2.法人関係税の税額控除」の「(1)税額控除」「(2)損金算入」の項目で説明します。

(2) メリット2:寄附先の自治体とパートナーシップを構築できる

握手している経営者

 企業は寄附をすることで寄附先の自治体とビジネス関係を持ち、パートナーシップを構築することができます。自治体と企業のパートナーシップ構築例として、全国でも特徴的な3例を紹介します。

・北海道夕張市×株式会社ニトリホールディングス
 市内に点在している公共施設の老朽化や人口減少対策として、コンパクトシティ化に取り組む夕張市は「コンパクトシティ拠点施設整備事業」や関連事業実施のため、寄附の募集を開始。この募集に関して、4年間で5億円の寄附を実施したのが家具用品大手の株式会社ニトリなどを傘下に持つ、株式会社ニトリホールディングス。本事業への寄附を通じて、夕張市が取り組む事業を後押ししました。北海道で創業した同社は夕張市に桜の植樹を実施するなど以前より親交がありましたが、今回の寄附を経てその繋がりはさらに強くなりました。

参考:地方創生「企業版ふるさと納税活用事例集 全国の特徴的な取組」

・福島県いわき市×東日本旅客鉄道株式会社
 いわき市は東日本大震災による原子力災害の風評等により、観光地として旅行者に安心して訪れてもらうこと、旅行者への信頼回復が課題でした。そこで、複合型農業テーマパーク「ワンダーファーム」を中心に周遊するモニターツアー「首都圏住民を対象とした観光施設周遊ツアーの実施」、「観光ハイシーズンにおける周遊シャトルバスの運行」プロジェクトを開始。本事業について、いわき市内に所在する農業生産法人 JR とまとランドいわきファームに出資する東日本旅客鉄道株式会社が本事業に寄附をしました。今後の寄附企業募集に向けては、市内に工場等を有するいわき市外企業に事業を案内し、観光のハイシーズンに観光施設を周遊するシャトルバスの運行を展開、市のイメージ向上も図っています。

参考:地方創生「企業版ふるさと納税活用事例集 全国の特徴的な取組」

・埼玉県所沢市×株式会社KADOKAWA
 高齢化が進み、市内の4人に1人以上が高齢者となり、労働生産人口が減少している所沢市は地域経済の縮小化が問題になっています。そこで市は、住んでみたい・訪れてみたいまち所沢プロジェクトとして、また、官民が取り組む「COOL JAPAN FOREST構想」の一環として、同市の魅力を高めるための事業を開始。市内に製造・物流拠点を持つ株式会社KADOKAWAは本事業に対し寄附を行ったほか、市と共同でプロジェクトを推進したり、建設した「ところざわサクラタウン」を通じて市の魅力発信に貢献しています。

参考:地方創生「企業版ふるさと納税活用事例集 全国の特徴的な取組」

 こうした自治体と企業のパートナーシップ構築以外にも、寄附活用事業に関連する自治体以外の民間団体などと協力関係を構築できる機会もあります。企業は企業版ふるさと納税を通じて、自治体や協力会社とビジネスで連携することで、新たなビジネスチャンスとなる繋がりを得ることができます。

 寄附可能な自治体かどうかを調べる際には、企業版ふるさと納税のポータルサイトの活用が便利です。これは内閣府の特別機関である地方創生推進事務局が運営しているサイトで、寄附ができる全国の自治体を検索したり寄附募集事業を調べたりすることができます。実際に寄附をする場合は、同ポータルサイトにある各自治体の担当部門に連絡を取ってみましょう。
 ほかにも、制度概要や関連法令、税制改正による改正内容を確認することができます。

企業版ふるさと納税ポータルサイト - 地方創生推進事務局

(3) メリット3:人材派遣型の貢献も可能

 令和2年度(2020年度)から、企業が専門的な知識を有していたり、ノウハウが豊富な人材を自治体に派遣する「人材派遣型」の自治体貢献も可能になりました。
 金銭による寄附との違いは、寄附活用事業に専門的知識やノウハウをもって地方創生の事業に直接的に貢献することで、より一層間近に事業を後押しできる点です。また、自治体側も人件費を気にせず人材を活用できる利点があります。一方の企業側も人材育成の一環として自治体への人材派遣が活かされ、新たな業務経験や機会を社員に与えることができます。
 企業版ふるさと納税を通じて、自治体に人材を派遣した2社の事例を紹介します。

<人材派遣型を利用した企業の事例>

・奈良県葛城市×リコージャパン株式会社
  奈良県葛城市とリコージャパン株式会社は、長年にわたり地域課題の解決を目指して一緒に活動を行っていたこともあり、スマート自治体の実現に向けた人材派遣を実施。
 派遣されたSE人材が中心となり、住民サービス改革及び庁内業務改革のためのアプリを開発。オンライン手続きによる住民サービスなど、DX推進の取り組みが成果を上げました。

出典:内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

・熊本県×九州電力株式会社
 九州電力株式会社は地球温暖化対策を推進するため、熊本県と包括連携協定の締結し、カーボンニュートラルのノウハウを有する社員を派遣。派遣人材は同社の知見を活かし、県内企業等の省エネ及びエネルギーシフトの検討支援、県有施設の再エネ導入等に従事し、官民一体で脱炭素社会の実現に取り組みました。

出典:内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

2.法人関係税の税額控除

税額控除のイメージ

(1) 税額控除

 法人税の課税所得の金額に税率を掛けて算出できるのが法人税額。その税額から直接控除することを税額控除と呼びます。
 企業版ふるさと納税では、法人関係税(法人税・法人事業税・法人住民税)から税額控除を行います。

(2) 損金算入

 法人税の金額は、税法上の収益である「益金」から税法上の費用である「損金」を差し引くことにより算出された課税所得の金額をもとに算出されますが、その損金に算入することを損金算入といいます。損金算入により、課税所得を減らすことができるので、法人税の金額も減らすことが可能です。
 企業版ふるさと納税で自治体に寄附をすると税務処理上で損金算入されますが、自治体への寄附の場合、寄附金全額が損金算入されます。そのため、企業が負担する実質の税率である実効税率の税額が軽減されます。
 法人税の実効税率は各企業の資本金や所在地等によって変わるものの、およそ3割前後であることが多いため、法人税額についても約3割の軽減が見込まれます。

(3) 控除上限額

 税額控除を受けられる控除上限額は、企業の課税所得の1%前後になります。
 例えば、課税所得が1億円であれば、100万円が目安になります。1%を基準にして税額の上限額を知っておきましょう。

 企業版ふるさと納税における控除額の基準は2種あります。それぞれの法人関係税の上限基準額を2種算出し、そのすべてにおいて最小金額を採用し控除します。

税目上限基準計算の方法
(下記3つの合計額が控除合計額)
法人住民税
(地方税)
1)寄附額の4割
2)法人住民税法人税割額の20%
1)と2)のいずれか小さい方
法人税
(国税)
1)寄附額の1割
2)法人税割額の5%
※法人住民税で4割に満たない場合、その残額
1)と2)のいずれか小さい方
法人事業税
(地方税)
1)寄附額の2割
2)法人住民税法人税割額の20%
1)と2)のいずれか小さい方

※法人税割額とは、法人が法人税の金額を基準にして自治体に支払う税です。高い法人税を支払っているほど税額が高くなります。

(4) 税額控除の例

【資本金1,000万円、課税所得1億円の企業が、100万円の寄附をした場合】
・法人関係税における税額控除の内訳

法人住民税
寄附額の4割400,000円
法人住民税法人税割額の20%312,368円
上記の最小額312,368円
法人税
寄附額の1割100,000円
法人税額の5%1,115,600円
法人住民税で4割に満たない場合、その残額87,632円
上記の最小値87,632円
法人事業税
寄附額の2割200,000円
法人事業税の20%1,436,680円
上記の最小額200,000円
合計
600,000円
出典:バトンパス 企業版ふるさと納税税額控除シミュレーションを基に作成

シミュレーション条件
① 資本金が1億円以下であり、外形標準課税(※1)の対象とならない法人である
② 連結決算を行っていない独立企業である
③ 標準課税率(※2)で計算
④ 繰越欠損金(※3)は考慮しない

※1 法人の事業規模に応じて課税される法人事業税の一種。
※2 地方税法で定められた税率。
※3 法人税の計算において過去の赤字を繰り越し利益が出た年に差し引ける制度。

 上記のとおり税額控除額が600,000円で、損金算入による税額軽減が323,040円なので、合算すると923,040円の税負担の軽減となり(自己負担額は寄附額の約7.7%に当たる76,960円)になります。このケースのように、企業の自己負担額が1割を切ることもあります。

3.令和7年度税制改正での変更点

 令和7年度の税制改正では、企業版ふるさと納税に関して、下記2点の改正が行われました。

(1) 税額控除の特例措置延長

 企業版ふるさと納税は2020年度(令和2年度)に税制改正が行われ、法人住民税+法人税4割、法人事業税2割の合計法人関係税6割の税額控除が5年間継続する形で開始されました。そして、2025年度(令和7年度)に現行制度の3年間の延長が決まりました。この税制改正によって、2027年度(令和9年度)まで現行制度が継続することになります。

(2) 寄附金活用事業の透明化

 現行制度の延長に関する本改正は、制度改善策を実施することを前提に決定しました。この制度改善策に盛り込まれた内容には、寄附金の活用事業における透明化が含まれています。これは自治体に多額の金額が寄附されているにもかかわらず、寄附者を含み一般公開されていなかったことが改善すべき点として挙げられています。

4.企業版ふるさと納税に関する注意点

 企業がふるさと納税を行うには、主な注意点として下記2点があります。寄附を行う際は注意しましょう。

注意点のイメージ

(1) 10万円以上の寄附が必要

 企業版ふるさと納税の下限は10万円です。企業が利用しやすいよう、企業における寄附下限金額としては低めに設定されています。

(2) 本社が所在する自治体と地方交付税不交付の自治体には寄附できない

 企業版ふるさと納税では、本社が所在する自治体(都道府県と市区町村)には寄附ができません。
 また、下記の都道府県と市区町村に対しては寄附先の対象外になります。

①地方交付税の不交付団体である都道府県
②地方交付税の不交付団体であって、その全域が地方拠点強化税制の支援対象外地域(首都圏整備法で定める既成市街地・近郊整備地帯など)とされている市区町村

参考:内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

5.まとめ

 企業版ふるさと納税は自治体が推進する事業を支援し、地方に資金の流れを創出したり、人材還流を促す狙いがあります。こうした、地方にとっての事業を力強く推進できるメリットと企業のビジネスチャンス拡大は、経済的にも大きな意味があるといえます。
 企業版ふるさと納税には金銭による寄附だけにとどまらず、官民の「人材交流」を図れる人材派遣型の貢献も可能です。企業の人材派遣によって、寄附活用事業に関する専門的知識を、地方創生における各事業のより一層の充実のため企業が「人材」という形で社員を派遣することで、企業は事業への貢献を果たせます。

【参考文献】

・事務所通信デジタル版2024年10月号
・内閣府「企業版ふるさと納税をぜひご活用ください!」
・内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税ポータルサイト 内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生」
・内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税活用事例集」
・内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

・内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」
・総務省「法人事業税」

株式会社TKC出版

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 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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