2025年08月18日

「どこからどこまでが交際費?正しい判断ポイントを押さえておこう」

「どこからどこまでが交際費?正しい判断ポイントを押さえておこう」

💡この記事のポイント
 ☑交際費とは得意先や仕入先など、事業関係者との接待・贈答などに使う費用を指す。
 ☑会計上は費用でも、税法上は「損金不算入」となるケースがある。
 ☑令和6年度改正から「1人あたり10,000円以下の飲食費」は交際費に含まれず、損金算入が可能。
 ☑福利厚生費、会議費、広告宣伝費、寄附金、給与などと正しく区別することが重要。
 ☑支出の内容・目的・相手・金額などを明記した書類を残し、分類に迷ったら税理士に相談を。

1.はじめに

 令和6年度の税制改正により、交際費の取り扱いが一部見直されました。改正前は「1人あたり5,000円以下」だった少額な飲食費の基準が、令和6年4月以降の支出から「10,000円以下」に引き上げられています。
 交際費は、得意先との関係づくりや営業活動の一環として活用される大切な費用ですが、制度の内容を正しく理解していないと、税務上のトラブルを招くおそれもあります。国税庁は、実態のない飲食や人数の水増しといった処理について、重加算税の対象になる可能性があると注意を促しています。
 本コラムでは、交際費の基本的な考え方や関連する費用との違い、実務で注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

2.交際費とは?

(1) 基本的な意味

 交際費とは、会社が事業に関連して行う接待・贈答・慰安などのための支出を指します。たとえば、取引先との会食や、贈答品の提供、イベントの招待などが該当します。

 税法では、交際費を次のように定義しています。

(2) 税法上の定義

 税法では、交際費を次のように定義しています。
法人が事業に関係のある者(仕入先、得意先、株主、社員など)に対して接待、供応、慰安、贈答等のために支出する費用
 つまり、「誰に」「何の目的で」支出したかが交際費とそうでないものを判断するうえで重要です。

(3) 交際費のようで、実は該当しない費用

 接待や飲食に関するすべての支出が交際費として扱われるわけではありません。税法では交際費に該当しない(=損金算入できる)支出として定められているものがあり、「隣接費用」と呼ばれています。詳しくは『4.交際費と間違えやすい「隣接費用」とは?』で解説します。

3.損金不算入制度とは何か

 交際費に関して避けて通れないのが、「損金不算入」という税務上のルールです。この制度を理解しておかないと、「会計上は費用として処理しているのに、税金の計算では経費として認められない」ということが起こり得ます。

費用を計算するイメージ

(1) 会計と税務では「費用」の扱いが異なる

 会社の利益は、会計上は「収益-費用」で算出されますが、法人税の申告においては「益金-損金」で所得金額を計算します。
 このとき、会計上の費用のうち税法上では認められない項目は、「損金不算入」とされ、所得に加算する必要があります。
 たとえば以下のようなものが損金不算入に該当します。
・会計上処理された交際費(要件を満たさない場合)
・税務上の上限を超えた役員報酬
・税法上の減価償却限度額を超える部分など

(2) 交際費は「原則として」損金不算入

交際費は、法人税法上、原則として全額損金不算入とされており、税金計算の際にはその金額を会社の所得に加算しなければなりません。つまり、会計上は費用計上できても、法人税の計算では経費として認められず、税負担が減らないということです。
 しかしながら、すべての交際費が無条件に不利な扱いを受けるわけではなく、一定の条件を満たせば「損金に算入できる」特例措置が設けられています。

(3) 損金算入が認められる交際費のルール(令和6年度改正対応)

 法人の規模や交際費の内容によって、次のような損金算入のルールが適用されます。
 令和6年度の税制改正では、これらの交際費の取扱いが見直され、特に少額飲食費の除外基準が緩和されたことが注目されています。

①1人あたり10,000円以下の飲食費

 飲食の費用を、参加者数で割った金額が1人あたり10,000円以下であれば、交際費等から除外され、全額が損金算入可能です。
※「1人あたり5,000円以下」だった基準が、令和6年4月1日以降の支出から「10,000円以下」に引き上げられました。

 以下の点には注意が必要です。
●社員同士のみで行う社内飲食(いわゆる社内接待費)は対象外
●飲食に関する記録書類の保存が必須

 この取り扱いを適用するには、下記のような情報を記載・保存した書類が必要です。
・飲食を行った年月日
・参加者の氏名および関係
・飲食等に参加した人数
・支出金額
・飲食店名、所在地

②中小法人の特例(資本金1億円以下)

 中小企業に該当する法人については、年間の交際費等のうち800万円までは全額損金算入できる特例制度があり、令和9年3月31日開始事業年度まで延長されています。飲食費に限らず、贈答や慶弔費なども含めた交際費全体が対象です。
 中小企業はこの制度を活用することで、一定額までの交際費を税負担なしで事業経費として計上することができます。
 また、中小法人は下記③も選択適用が可能ですが、一般的には、交際費の総額が800万円以内であればこちらの定額控除のほうが有利です。

③資本金1億円超〜100億円以下の法人

 中堅・大企業に該当する法人では、交際費等のうち接待飲食費の50%相当額までは損金に算入できます。ただし、全体の交際費ではなく、飲食費部分の50%という制限があるため、制度の効果は限定的です。

(4) 交際費は「損金になるかどうか」で結果が変わる

 交際費の内容によって、税務上の損金になるかどうかは大きく違います。仮に年間で1,000万円の交際費を使っていても、中小企業であれば800万円まで損金になり、残り200万円は損金不算入として所得に加算されます。
 損金にならなかった金額分については法人税が課されることになるため、実質的にはその分「税負担が増える」ということになります。

(5) 覚えておきたいポイント

●1人あたり10,000円以下の飲食費は交際費等から除外(令和6年4月以降の支出)
●中小法人は800万円までの交際費を損金算入可(特例)
●中小法人は「飲食費×50%」と「定額控除制度」を選択適用できる
●制度の適用には記録書類の保存が不可欠

4.交際費と間違えやすい「隣接費用」とは?

 交際費に似た支出でも、実際には交際費に該当しないものがあります。これらは「隣接費用」と呼ばれ、目的や内容に応じて会計処理や税務上の扱いが異なります。交際費と混同しやすいため、支出の内容を正しく判定することが重要です。

広告宣伝費(試供品)のイメージ

(1) よくある隣接費用の例

分類 概要 主な判断基準・注意点
寄附金 寄附金、拠出金、見舞金など事業と関係のない団体等への提供 名義でなく「実態」をよく検討した上で判断する
会議費 商談や打合せ時の茶菓・弁当代など 飲食の目的が会議であり、会議としての実態を備えているか、場所・内容で判断。
広告宣伝費 ノベルティや試供品の配布、景品など 不特定多数への宣伝的な効果を伴う提供は広告扱い
給与 従業員への昼食・福利厚生・立替精算など 業務に基づく支給かが判断基準
福利厚生費 従業員が対象の社員旅行・運動会・慶弔金など 社員全体に一律の恩恵があるかどうか
売上割戻し 成果に応じた金銭・物品の提供 実績に基づいて明確な場合は交際費に該当しない

(2) 判断のコツ

支出の目的が「取引先との関係維持・強化」のためか、「従業員の福利厚生」や「販売促進」など他の目的かをまず確認
対象者が社外か社内か、不特定多数か特定かで、費目が変わる可能性あり
●飲食を伴う場合でも、会議・打合せに付随していれば「会議費」になることがある

(3) なぜ重要か?

交際費と判定されるかどうかで、損金算入の可否や税負担が大きく変わるためです。たとえば、同じ飲食費でも「会議の茶菓代」と「接待の飲食代」とで処理が異なります。

(4) 実務上のアドバイス

●領収書だけでなく、支出の目的・相手・人数・内容をメモしておく
●税務調査でもよく確認される項目のため、日頃からの記録整備が大切
●判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談するのが安心です

5.飲食費の取り扱い

 「飲食費」とひとことで言っても、誰と・どこで・いくら使ったかによって、税務上の取り扱いが大きく異なります。分類は主に次の3つです。

社内で飲食する様子

(1) 飲食費の範囲と分類

①社内飲食費

●定義:もっぱら自社の役員・従業員・その親族に対する飲食
●主な例:社員同士の懇親会、社内打ち上げ、昼食代など
●取扱い:原則として交際費に含まれる(福利厚生費になる場合もあり)
●注意点:親会社の役員は「社外」扱いになるため、社内飲食には該当しません

②接待飲食費

●定義:取引先など事業関係者を招いた飲食
●主な例:得意先との会食、仕入先との懇親、営業後の飲み会など
●取扱い:交際費に該当(ただし少額飲食費に該当すれば除外可能)
●記録の要件:以下の内容を明記した書類を保存
日付/相手先の氏名・社名とその関係/金額、飲食店名・所在地/飲食の目的など

③少額飲食費(1人あたり10,000円以下)

●定義:接待飲食費のうち、参加者1人あたりの金額が10,000円以下で、保存要件を満たすもの
●取扱い:交際費から除外され、全額損金算入が可能
●追加の記録要件:上記②の要件に加え、「参加人数」の記載が必要

飲食費に含まれるかどうかの分類

項目 飲食費に含まれる 飲食費に含まれない(交際費)
接待後のお土産代 ◯(飲食費扱い)
社外打合せの弁当代 ◯(会議費扱い)
中元・歳暮の食品 ◯(贈答品として交際費)
飲食店までのタクシー代 ◯(飲食に付随する交際費)
ゴルフ旅行中の食事代 ◯(一体的支出として交際費)

(2) 実務上の注意点

税込・税抜方式で「10,000円基準」の計算方法が異なる
●税込経理を採用している場合:税込金額で10,000円を判定
●税抜経理を採用している場合:税抜金額で判定(インボイス方式に注意)
※記録書類や経理方式によって適用可否が異なるため、必ず社内ルールと照らし合わせて確認を。

1次会・2次会が分離されていれば、別々に判定可能
ただし、同じ店舗で連続した飲食の場合は合算で判断

交際費に該当した場合の消費税の扱いに注意
控除対象外消費税は法人税申告時に加算が必要(別表処理)

(3) 分類と帳簿整備が鍵

 「飲食費」は内容・金額・相手次第で、交際費にもなれば損金にもなります。特に少額飲食費の範囲(1人あたり10,000円以下)に該当させるには、書類の整備と正確な記録が不可欠です。
 誤った処理を避けるためにも、支出時点での分類意識を高めましょう。

6.「これって交際費?」

 「飲食費」とひとことで言っても、誰と・どこで・いくら使ったかによって、税務上の取り扱いが大きく異なります。分類は主に次の3つです。交際費か、それ以外か。実務では判断に迷うことが多くあります。以下に代表的な事例を示し、「誰に・何の目的で・どんな内容か」という観点から、処理区分がどのように変わるのかを解説します。

■Case1:取引先との接待で飲食(1人10,000円超)+タクシー利用

状況:得意先と会食後、タクシーで移動。帰りに現金(タクシー代名目)も渡した。
判断:飲食費・タクシー代・現金ともに交際費
ポイント:飲食・送迎・金銭提供はいずれも接待目的の支出であり、交際費に該当。

タクシー代のイメージ

■Case2:社内で暑気払い+一部の社員と2次会へ

状況:全社員向けに暑気払いを開催。その後、一部社員と2次会へ。
判断:暑気払い→福利厚生費/2次会→交際費
ポイント:全社行事は福利厚生、一部対象の飲食は交際費。

■Case3:忘年会欠席者に10,000円を現金支給した

状況:忘年会を欠席した社員に「お詫び」として現金支給。
判断:給与扱い
ポイント:実体のないイベント支給や現金給付は給与課税対象。

■Case4:商談中に弁当と缶ビールを提供

状況:得意先との商談で軽食+少量の酒類を提供。
判断:会議費
ポイント:会議が主目的なら、軽飲食は会議費扱い。酒類は少量ならOK。

■Case5:ライオンズクラブの年会費を会社が負担

状況:法人がクラブに入会し、会費を支払った。
判断:交際費
ポイント:役員個人の名義で加入し、会社が費用を負担した場合は役員給与

■Case6:スポーツクラブ年会費を会社が負担

状況:会社で契約し、社員利用可。
判断:社員全体用→福利厚生費/社長個人用→給与
ポイント:役員個人の名義で加入し、会社が費用を負担した場合は役員給与

スポーツクラブのイメージ

■Case7:地元の神社に現金を寄付

状況:地域の祭礼に合わせて寄附金を提供。
判断:寄附金
ポイント:事業と関係のない支出は交際費ではなく寄附金扱い。

■Case8:残業中の社員に夕食の出前を提供

状況:会社が出前代を負担。
判断:福利厚生費
ポイント:社員全体の生活支援目的であれば福利厚生費として認められる。

■Case9:得意先の社長の葬儀に香典を持参

状況:葬儀に出席し、香典を渡した。
判断:交際費
ポイント:社内の慶弔費は福利厚生費となることもあるが、社外対応は交際費。

■Case10:駅前でティッシュ入りの広告を配布

状況:自社広告付きティッシュを街頭で配布。
判断:広告宣伝費
ポイント:不特定多数に向けた配布は交際費ではなく広告費として扱われる。

■Case11:社長の母校に寄附金を会社から支出

状況:社長の意向で出身校に寄附金を振込。
判断:役員給与
ポイント:会社との業務関連性がなく、個人的な理由での支出=給与扱い。

まとめ

区分 主な例 会計処理
交際費 接待飲食、香典、限定的な社員2次会など 原則損金不算入(特例あり)
福利厚生費 暑気払いや残業食、社員全体向けの健康支援 損金算入可能
広告宣伝費 街頭でのノベルティ配布、不特定多数向け配布 損金算入可能
給与 金銭支給や個人目的の費用 給与課税対象
寄附金 神社祭礼、社長個人の寄附 損金不算入(制限あり)

7.最後に

交際費の基本をおさらい

•交際費とは、事業関係者との接待・贈答・慰安等の支出のこと
•会計上の費用でも、税務上は「損金不算入」となる場合がある

制度のポイントを理解しよう

•中小企業は年間800万円まで交際費を損金算入できる特例あり
•1人あたり10,000円以下の飲食費は、交際費から除外可能
•書類保存(参加者、金額、店舗名等)は必須要件

隣接費用との違いを見極める

•福利厚生費、会議費、広告宣伝費、寄附金、給与などとは明確に区分
•実態・目的・対象者に基づいて正しく分類することが重要

処理に迷ったら

•支出目的や状況を記録し、証憑をしっかり保存する
•判断が難しいケースや金額が大きい場合は税理士に相談

 交際費のルールを正しく理解することで、無駄な税負担を回避し、安心して経費を活用できます。経理担当者・経営者双方にとって、制度をよく知っておくことが最大の防御策です。

参考文献

「Q&A知っておきたい交際費の基本〈令和6年度税制改正対応版〉」(TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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