2025年08月11日

経営戦略立案に役立つSWOT分析とは

経営戦略立案に役立つSWOT分析とは

💡この記事のポイント
 ☑SWOT分析はStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字を取った、経営戦略立案に役立つフレームワーク。
 ☑外部環境と内部環境からプラス要因とマイナス要因を考え、自社の強みと弱みを明確化できる。
 ☑SWOT分析の結果を経営戦略に盛り込み実行していくことが重要。

1.SWOT分析とは

 自社を取り巻く経営環境を、「強み」「弱み」(内部環境)と、「機会」「脅威」(外部環境)の4つの観点から整理する手法です。
 1960年代にスタンフォード大学のアルバート・ハンフリーによって構築された方法で、企業の目標が明確であることを前提として、その達成に向けての現状を確認するための手法とされています。

(1) SWOT分析の特徴

 「強み」「弱み」「機会」「脅威」を列挙することで、客観的に自社の現状や業界内の立ち位置を明確にすることができます。また、それぞれ組み合わせ、経営課題をより多角的に把握することもできます。

 分析にあたって気をつけたいのは、「強み」と「弱み」は絶対的ではなく、比較する対象によっては「強み」であったとしても、ある時点では「弱み」に変わってしまうことがあるということです。例えば、大企業と比べた際に自社の「弱み」ばかりになってしまったり、あるいは自社よりも企業規模が小さな企業であれば「強み」が多くなってしまいます。こうした1対1の比較だと比較対象によって自社の立ち位置が変わってしまうので、あくまでも業界全体の外部環境を一緒に考えることで、初めて自社の現状がわかります。

 具体的には、内部環境と外部環境については下記のようなものをいいます。

①内部環境

 自社の努力で解決やコントロールできる経営資源のことで、技術力、人材、ブランド力、生産性、品質などがあります。これらの要因が自社の目標を達成するうえで、「強み」、あるいは「弱み」になります。



②外部環境

 自社の努力では解決やコントロールできない社会環境のことで、経済動向、トレンド、技術革新、顧客ニーズ、法令改正などがあります。これらの要因が自社に有利(「機会」)か、あるいは不利(「脅威」)かを考えます。



(2) SWOT分析の目的

会議で分析しているイメージ

 市場における自社の可能性を考えることで、挑戦可能な経営戦略を把握したうえで事業収益拡大や新しい分野への進出を試みるとき、SWOT分析を行う価値があります。
 SWOT分析以外の主要な経営分析手法で代表的なものでは「3C分析」「PEST分析」「PPM」などがあります。

分析名 目的 分析項目 特徴
SWOT分析 4つの指標から自社の立ち位置を把握、クロス分析によって「戦略的に攻めるべきか」「撤退すべきか」を判断できる。 ・Strength(強み)
・Weakness(弱み)
・Opportunity(機会)
・Threat(脅威)
外部環境(機会・脅威)、内部環境(強み・弱み)を掛け合わせて経営戦略立案に役立つ要素を抽出する。
3C分析 3つのCをもとに、自社における経営環境の分析、課題、戦略代替案に活用する。 ・Customer(市場・顧客)
・Competitor(競合)
・Company(会社)
Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)の外部環境分析とCompany(会社)の内部環境分析を行い、マーケティング分野等で活用されていたものが経営分析でも活用されている。
PEST分析 企業を取り巻くマクロ環境のうち、現在~将来の事業活動に影響を及ぼす可能性のある要素を把握するため、フレームワークを使って影響度や変化を分析。 ・Political(政治)
・Economic(経済)
・Social(社会)
・Technological(技術)
4つの視点で外部環境に内在している、自社におけるプラスとマイナスを与えうる要因を整理し、その影響度を評価する。
PPM 複数の製品に対し、経営戦略の目標や経営資源の分配を行うこと。 ・花形商品
・金のなる木
・問題児
・負け犬
市場成長率と相対的マーケットシェアを基軸に、自社の製品をポジショニングすることで分析する。
出典:「経営承継を成功させる実践SWOT分析」(マネジメント社、2017)を基に作成

 これらの他経営手法の違いから、SWOT分析のメリットとデメリットは下記になります。

①メリット

1) どのような経営戦略に投資するべきかを把握できる。
 どのような企業であっても、財源や人員は有限です。「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4項目で経営戦略の絞り込みを行い、必要な経営戦略を検討することが可能です。

2) 客観的視点で分析することで合理性を確認できる。
 SWOT分析では「強み」や「機会」のみならず、「弱み」や「脅威」についても分析します。そのため、デメリットに目を向けず、経営者の独断的な判断においても一定の客観性を与えることができ、合理的な経営判断基準の目安になります。

②デメリット

1) 複雑な経営課題には対応できない。
 SWOT分析は各4つの要素を掛け合わせることで経営分析が可能ですが、経営課題が複雑化していくほど対応しきれなくなります。このような経営課題に対しては、問題や原因について事柄を構成している要素をツリー状に書き出し解決法を導き出す「ロジックツリー」が適しています。

2) 二元論的結果になりやすい。
 内部環境の「強み」「弱み」、外部環境の「機会」「脅威」などポジティブかネガティブかの判断基準について明確に区分けすることができますが、企業が多くの選択肢を抱える経営課題がある場合などには、その二元論のみだけでは対応しきれないことがあります。

2.「SWOT」

四象限のイメージ

(1) S(強み)・W(弱み)・O(機会)・T(脅威)

①強み

 「同業他社と比べて有利な立ち位置にいること」です。「強み」というと「良い点」をあげることが多いと思いますが、必ずしもそうとは限りません。

 例えば、「人」「資源」「技術」などがあります。「資質的なもの」「物理的なもの」の2種類に分けることができます。
 また、自社の「弱み」だと感じていたものが、勝負できる武器に変わる場面があります。例えば、狙うターゲットを変えた時です。特定の顧客やニーズに効果を発揮する経営資源も、「強み」ということができます。


②弱み

 「同業他社と比べて不利な立ち位置にいること」です。こちらも「弱み」が「悪い点」や「改善すべき点」とは限りません。
 「経営資源として活用の可能性のない資源」が「弱み」ということができます。なお、注意点として「弱み」の分析について力を入れすぎてしまうと「できない理由」を肯定してしまう恐れがあるので、深く追究しすぎる必要はありません。


③機会

 「プラスに働く方向性や市場の変化」とも言い換えることができます。「弱み」とは対照的に、この「機会」は深く追究することで自社の「強み」を活かせるチャンスを増やせます。
 「今後成長する市場は?」「利益がより出やすいビジネスモデルは?」などの出発点から考えて、「国内外の市場感」と「自社の技術レベル」を考慮に入れながら、より具体的な「機会」を考えます。


④脅威

 「どういった原因で、どれくらい自社の立ち位置が厳しくなるのか?」を想定することです。具体的には「何が脅威か?」「どのような影響のある脅威か?」を意識します。
 「脅威」については「現在の市場変化で当社のマイナス要素になり得る外部環境を列挙していくこと」を意識します。この設問に該当する主要な脅威に対して対策を考えることが重要になります。


(2) クロスSWOT分析で多角的な分析が可能に

 「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの要素のみで経営戦略を練ることもできますが、それぞれの要素を掛け合わせることで戦略の幅を広げることができます。
 具体的には、内部環境である「強み」「弱み」と、外部環境である「機会」「脅威」をクロスして(掛け合わせて)分析することがクロスSWOT分析です。


強み(Strength)×機会(Opportunity)=積極的戦略
強み(Strength)×脅威(Threat)=差別化戦略
弱み(Weakness)×機会(Opportunity)=改善戦略
弱み(Weakness)×脅威(Threat)=撤退戦略



 クロスSWOT分析は下記のように表にして作成することで、視覚的に自社の経営状況における立ち位置を一目で把握することができます。


強み 弱み
機会 積極的戦略 改善戦略
脅威 差別化戦略 撤退戦略

出典:「経営承継を成功させる実践SWOT分析」(マネジメント社、2017)


①強み(Strength)×機会(Opportunity)=積極的戦略

 どういった分野や顧客層に向けて「強み」を発揮できるか、または効果が期待されるかを考えます。ここで注意したいのは、自社に都合のいい解釈になっていないか、「強み」と「機会」に客観性があるかどうかが重要です。また、予算、人材などを考えても実現可能な経営戦略かどうかも把握する必要があります。

 見つけた「機会」に自社の経営上における「強み」を掛け合わせ、その「強み」を伸ばしていく独自の戦略を見出していきます。


②強み(Strength)×脅威(Threat)=差別化戦略

 市場やニーズにおいてすでに限界を迎えている中、「強み」をどのように活かしていくか戦略を練ることが差別化戦略です。

 同業他社にはない徹底した差別化を図ることを目標にして具体策を練ります。例えば、「他社が撤退するまで事業を継続し残存利益を狙う」「自社のみの解決だけでなく、提携なども視野に入れて追い風に乗る」など。より幅広く差別化できる点を模索することが重要になります。


③弱み(Weakness)×機会(Opportunity)=改善戦略

 「機会」に恵まれているが、「弱み」が足を引っ張ることで積極的に経営戦略を打ち出すことができない場合は、時間をかけてでも改善戦略によって克服する必要があります。

 「弱み」はすぐに解消できるものではありません。年単位の時間をかけて改善を図れる計画を立て、着実に実行していくことが必要になります。

 例えば、社内人材において「弱み」があれば新規採用を行う、新規採用以外では教育プログラムの徹底化を図り社員全体の業務レベル底上げを目指すなど。「弱み」を克服するために「機会」を活かせれば少しずつでも改善を図ることが可能です。


④ 弱み(Weakness)×脅威(Threat)=撤退戦略

 「弱み」と「脅威」に対する戦略というと、後ろ向きな経営戦略がイメージされやすいですが、クロスSWOT分析における撤退戦略は、生き残るための前向きな経営戦略だといえます。つまり、積極的戦略と撤退戦略は密接に関わっており、「同業他社に勝てる戦略」の方向性が決まったうえで撤退戦略を立てます。つまり、「総合的な経営戦略」における撤退戦略です。

3.SWOT分析のやり方

(1) 各項目にはどんなことを書くのか

 SWOT分析では、「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4要素を正しく記述することが重要です。それぞれ例を挙げながらどのようなことを書くか考えます。


①S(強み)

 強み(Strength)は、「自社が他社よりも優れた・勝てる・得意なところは何か?」について考えます。


〈強みの例〉
 古くからの優良顧客が多い、大手が苦手とする小ロットの注文に強い、短期・中長期経営計画を立て予実管理ができている、金融機関からの借入金が少ない等


②W(弱み)

 弱み(Weakness)は、「自社が他社よりも劣った・負ける・苦手なところは何か?」について考えます。


〈弱みの例〉
 償却間近の老朽設備が多い、独自技術が少なく他社への依存が多い、いつも資金繰りに追われている、経営に計画性がない等


③O(機会)

 機会(Opportunity)は、「自社にとって有利な・安全な・役立つ市場の変化は何か?(どのように機会を利用するか?)」について考えます。


〈機会の例〉
 高速料金値下げによる観光客増加、高品質商品の需要の高まり、関連市場の拡大、同業者の倒産による市場拡大等


④T(脅威)

 脅威(Threat)は、「自社にとって不利な・危険な・負担増となる市場の変化は何か?」について考えます


〈脅威の例〉
 原材料費の高騰、規制緩和による他業種からの参入が増加、低価格競争の激化、ライバル企業や大手企業の進出等


(2) 分析結果に基づき、打ち手を検討する

 SWOT分析は、客観性をより高めるためにも、社長のみならず従業員の意見や仕入先、得意先、金融機関、顧客など外部者の評価も参考にします。これらの分析結果から次に打つべき施策を考えます。

 自社における「強み」「弱み」「機会」「脅威」について棚卸しした後は定期的に会議等を開き、従業員と一緒に話し合ってみることが共通認識を持つためにも大切です。


4.SWOT分析の例

分析資料のイメージ

 実際に自動車メーカーとハンバーガーチェーン店を例に、SWOT分析を実践してみます。

(1) 業界3番手の自動車メーカー

強み(Strength) 弱み(Weakness)
・グローバルブランドによる顧客の定着化・高い営業利益率の確保 ・自動車需要の低下・キャッシュフローの脆弱性・自社製品のラインナップが少ない
機会(Opportunity) 脅威(Threat)
・EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)の成長・自動運転などの新技術の導入 ・国内大手の同業他社や、急成長している海外メーカーとの熾烈な価格競争・インフレや為替リスクの影響

(2) 大手のハンバーガーチェーン店

強み(Strength) 弱み(Weakness)
・市場浸透率の高さ・多店舗展開による高い集客率・他フード商品と比べて手頃な価格設定 ・ライバルチェーン店との差別化の難しさ
・原材料費などの高騰によるコスト増加
機会(Opportunity) 脅威(Threat)
・多彩なメニュー拡充による顧客層のターゲット増加
・セルフレジやモバイルアプリによる注文時における効率化
・強力な同業他社やフードデリバリーの登場・健康志向による消費者嗜好の変化

 上記のように業界ごとに各項目で上げられる内容にも傾向があります。同じ業界でも、会社ごとに各項目内容はその立ち位置ごとに変わってきます。

 各項目について列挙できたら、「強み」「弱み」「機会」「脅威」のそれぞれで具体例を挙げていきます。例えば、自動車メーカーの「強み」における「グローバルブランドによる顧客の定着化」の具体例として、「海外での売上高が全体の80%超(国内不況による影響が比較的少ない)」。ハンバーガーチェーン店の「機会」における「セルフレジやモバイルアプリによる注文時における効率化」の具体例だと、「対人接客と比較して1人あたり平均2分の短縮が見込める」など。このような、各項目をより細分化し具体性を持たせることで、経営戦略についても実のある戦略内容で立案することができます。

5.まとめ

 SWOT分析はわかりやすく今後の経営課題に対しても検討を進めやすい経営戦略立案に役立つフレームワークです。内部環境の自社における「強み」と「弱み」、外部環境の自社に対する「機会」と「脅威」を掛け合わせることで、現時点で「できること」と「できないこと」を明確にできます。また、経営コンサルタントやコーディネーターなどの専門家が助言するのではなく、自らで考え進められるので納得感を持って経営戦略を進めることができます。SWOT分析をもとに自社の経営戦略を立ててみましょう。


【参考文献】

事務所通信2010年5月号
経済産業省「知的資産経営マニュアル」
「経営承継を成功させる実践SWOT分析」(マネジメント社、2017)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

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