長引く物価高を背景に、食事補助の現物支給に関する所得税の非課税限度額が42年ぶりに見直されました。ただし、非課税として処理するためにはいくつかの要件があります。本記事では今回改正された点と、現物支給・現金支給にかかわらず食事補助を制度として導入する際に確認しておきたいポイントを解説します。
💡この記事のポイント
☑2026年4月から食事補助の現物支給に関する所得税の非課税限度額が引き上げ。
☑従業員負担が食事価額の50%以上、かつ会社負担額(税抜)が月額7,500円以下の場合に非課税。
☑制度として導入する際は社内規定で明文化し、月額単位で集計する制度作りが不可欠。
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1.食事補助とは?2026年4月からの改正点も解説
(1)食事補助の概要
食事補助とは、会社が役員・従業員の食事にかかる価額の全部または一部を負担する仕組みをいいます。
食事補助には大きく現物支給と現金支給があります。現物支給は「弁当を会社で一括購入して配る」「社員食堂を設ける」「会社の提携飲食店で利用できる食事券を配布する」、現金支給は「従業員に一定額の食事代を支給する」「給与に食事手当を上乗せして支給する」といった形が代表的です。今回の非課税限度額の引き上げは、現物支給が対象です。
ここでいう「食事にかかる価額」とは、現物支給の食事補助における食事の価額を指します。例えば弁当などを購入して支給している場合は業者への支払額、会社が社員食堂などで作った食事を支給している場合は材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額です。そのため、「食事代」や、所得税の課税有無に関わってくる「食事の支給方法」等もきちんと把握する必要があります。
(2)2026年4月から何が変わる?
①所得税における非課税限度額の引き上げ
2026年4月1日以後に会社が役員・従業員に支給する食事補助から、食事の現物支給に関する所得税の非課税限度額が、「月額3,500円以下」から「月額7,500円以下」へ引き上げられました。長引く物価高を背景に、1984年以来42年ぶりの非課税限度額の見直しになります。なお、今回の見直しの対象は食事の現物支給に係る取扱いです。現金による食事補助は原則として給与課税となります。
②深夜勤務者の夜食代の取り扱い
午後10時から午前5時までに勤務する深夜勤務者に関する夜食代の非課税限度額も引き上げられています。深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について、所得税を課税しないこととされる1回の支給額を従来の「300円以下」から「650円以下」に引き上げています。
なお、この取り扱いはあくまで深夜勤務に伴う夜食の現物支給ができないため、その代わりに金銭を支給する「夜食手当」として支給している場合に適用されます。例えば、夜勤体制のある工場や警備、医療・介護関連等の会社では、この取り扱いが関係してくるケースがあります。
2.食事補助制度を導入するメリットと税務上のポイント
(1)福利厚生として導入するメリット
会社が食事補助を導入するメリットは、福利厚生を通じて従業員の働きやすさを高めることができる点が挙げられます。
制度として整備しておけば「会社が公平なルールのもとで負担している」ことが明確になり、従業員の納得感も得やすくなります。また、「出勤日だけ利用できる」「会社指定の方法で提供する」「従業員にも一定額を負担してもらう」といった形にしておけば、単なる給与の上乗せではなく、福利厚生として位置づけやすくなります。その結果、制度の目的や運用ルールを社内で共有しやすくなり、会社としても継続的かつ公平に運用しやすい点がメリットです。
なお、一定の要件を満たせば、従業員側で給与課税されず、福利厚生制度として運用しやすくなります。従業員としても、食事補助をはじめとする福利厚生の充実は定期昇給やベースアップに続く「第3の賃上げ」とも呼ばれ、メリットも大きいです。
しかし、会社にとって見逃せないのは、「食事補助の支給方法」で税務上の扱いが変わることです。福利厚生として導入する場合においても、この点に注意したうえで検討するようにしましょう。
(2)「現物支給」と「現金支給」の違い
食事補助で重要なのが、「現物支給」と「現金支給」の違いです。この点は税務上の取り扱いが変わる点なので、必ず押さえておきたいポイントです。
現物支給は会社が食事そのもの、または食事の提供に関するサービスを支給しますが、現金支給では会社が食事代の一部または全部を現金で補填する形をいいます。
以下に現物支給と現金支給の違いを示します。
| 支給方法 | 支給方法の例 | 課税有無 |
| 現物支給 | 社員食堂、自社調理、仕出し弁当を会社が購入して配布 | 原則非課税(従業員負担が食事価額の50%以上、かつ会社負担額(税抜)が月額7,500円以下の場合) |
| 現金支給 | 毎月の食事手当、昼食補助を給与と一緒に支給 | 原則、全額が給与課税 |
国税庁「No.2594 食事を支給したとき|国税庁」
国税庁「使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合|国税庁」
国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて|国税庁」
(3)現物支給の食事補助が非課税となる2つの要件と具体例
現物支給型の食事補助として役員・従業員に支給する食事は、以下の2つの要件をどちらも満たしていれば、給与として課税されず、非課税となります。
①役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
②次の金額が1か月当たり7,500円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
この要件を満たしていなければ、食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額が給与として課税されます。
なお、上記②の「7,500円」以下であるかどうかの判定は、消費税および地方消費税の額を除いた金額をもって行うこととなりますが、その金額に10円未満の端数が生じた場合にはこれを切り捨てることとなります。
ここで重要なのは、要件の一つである「役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担」についてです。この負担率は「50%超」ではなく「50%以上」です。例えば1食800円の弁当の場合、役員・従業員が400円(食事価額の50%)を負担していれば所得税における非課税の要件は満たします。
また、会社が負担する金額は1食400円ですから、月の提供回数によっては会社負担額の合計額が7,500円を超える可能性があります。したがって、1食単位で見るだけでなく、月額でも管理する必要があります。
上記を踏まえて、以下に具体例を提示します。
①「給与」とされる場合
〇弁当の価額:800円(税抜)
〇従業員負担額:350円 〇企業負担額:450円
〇1か月の支給日数:20日
(800円-350円)×20日間=9,000円
→従業員負担額が食事価額の50%を下回っているため、従業員負担額を差し引いた9,000円分が「給与」とされる
②「給与」とされない場合(会社側が「福利厚生費」として処理できる場合)
〇弁当の価額:800円(税抜)
〇従業員負担額:450円 〇企業負担額:350円
〇1か月の支給日数:20日
(800円-450円)×20日間=7,000円
→従業員負担額が食事価額の50%以上であり、企業負担額が7,000円<7,500円であるため、7,000円分が「福利厚生費」として処理できる
3.中小企業はどう対応する?制度を導入する際にチェックしておきたいポイント
(1)就業規則や社内の福利厚生制度の整備
現物支給の食事補助は日常的に運用される制度であるため、利用対象者、対象となる勤務日、提供方法、従業員負担額、会社負担額の非課税限度額、利用できる食事の範囲などは就業規則そのもの、あるいは福利厚生の規程等に明文化しておきましょう。また、制度を作る際は、欠勤日・在宅勤務日・出張日など利用対象外となる日の扱いや、月途中の入退社者の精算方法まで決めておくと制度の運用が安定します。申請方法や申請日の締切、利用記録の方法も合わせて定めておくとよいでしょう。
重要なのは、現物支給の制度として設計されていることがわかるようにしておくことです。「会社が弁当を発注するのか?」「社員食堂を使うのか?」「契約している飲食店に会社が直接支払うのか?」等を具体化させることです。また、「役員・従業員負担分はどのように徴収するか?」についても明確にしておきたい点です。
(2)給与計算や源泉徴収への影響
現物支給の食事補助における非課税の要件を満たしているなら給与課税は不要ですが、要件を外れた部分は給与として源泉徴収の対象になります。したがって、制度導入時には非課税に該当する要件を総務や経理、給与担当の間で共通認識にしておくことが重要です。
特に気をつけたい点は、「会社負担額は月額単位で確認する」という点です。また、税込金額ではなく税抜金額で判定される点も注意が必要です。また、支給日数が多い月や食事価格の改定があった月等は、想定以上に非課税限度額へ近づくことがあるため、給与システムや集計表で月次管理ができるかを制度開始前に確認しておくと安心でしょう。
また、所得税だけでなく、消費税や経理処理についても合わせて確認しておくと安心です。
特に社員食堂のほか、契約している飲食店で使える食券等を利用する場合は、役員・従業員から受け取る金額をどのように経理処理するかによって、会計上の整理が変わることがあります。社員食堂で会社が無償で食事を提供し、役員・従業員から代金を受け取らない場合には会社が食事の提供にあたって対価を受け取っていないため、当該食事の提供について消費税は発生しません。役員・従業員から食事代を受け取る場合には、その受け取った金額が課税の対象になります。さらに、外部の特定の食堂と契約し、従業員にその食堂で利用できる食券を交付するケースでは、従業員から受け取る代金を売上として処理するのか、預り金として処理するのかで扱いが異なります。
この点は、制度の設計段階では見落とされやすいものの、日々の運用と合わせて重要な要素です。例えば、従業員負担分を給与天引きにするのか、別途徴収にするのか、会社がサービス提供会社へまとめて支払うのかによって、毎月の仕訳や証憑管理が変わってきます。
食事補助は福利厚生として導入しやすい制度ですが、税務上の要件を満たしていても、請求書の内訳や従業員負担分の処理方法が誤っていると、経理処理が煩雑になりやすい点に注意が必要です。特に、食券等のサービスを導入する場合は、契約形態、会社負担分と従業員負担分の区分、請求書の出し方も含めて事前に確認しておくと制度開始後の運用も安心でしょう。
4.食事補助の導入事例
現物支給の食事補助には、役員・従業員の福利厚生を向上させる効果があるほか、運用方法によっては社内におけるコミュニケーションの活性化や、働き方の見直しに繋がることもあります。例えば、社員食堂や共食しやすいスペースを設けることで、普段は接点の少ない他部署の従業員同士が自然に会話できるようになり、組織内の交流が深まることも期待できます。以下は税制改正そのものの事例ではありませんが、現物支給の食事補助が職場改善にどう繋がるかを確認できる参考例です。
所在地:神奈川県厚木市 従業員数:38人 設立年:1972年 業種:建築設計業(主に保育・福祉施設)
①深夜に及ぶ長時間労働の常態化を改善する目的で、一般開放する“レストラン”を設置し、朝食と昼食を提供
夜遅くまで仕事をしていることもあり、最初は昼食と夕食の提供から始めました。しかし、夕食を出すとかえって残業の助長になることが分かり、3か月後に朝食と昼食の提供に切り替え、朝型の勤務にすることを目指しました。現在の営業時間は、朝食が8:00~8:40、昼食は12:00~13:00で、出張者などを除き、社内にいる人はほぼ全員食べています。
②異なる部署の社員が親しく話し合い共食できるレイアウトを取り入れ、所属部署を超えたコミュニケーションも活発化
レストランでは、異なる部署の社員が隣り合わせや対面で共食を楽しむことも多く、所属部署を超えたコミュニケーションに繋がっている面もあります。
③朝食提供前に比べ、平均2時間程度の労働時間短縮を実現
レストラン開設前は深夜0時以降まで残っているのが常態でしたが、朝食提供後は20~21時くらいに帰る社員が多くなり、1人当たりの労働時間が平均2時間程度は短くなりました。総労働時間は減っているにもかかわらず、売上高は増加し、生産性が向上しました。
食事補助や食事提供の仕組みは、単に食費負担を軽減するだけでなく、働き方や社内における同僚や上司との関係づくりにも影響することがあります。制度の導入を考える際は、「自社の勤務実態や職場環境の改善に繋がるのか?」という視点から設計することも重要といえます。
5.まとめ
食事補助は、単に従業員の食事代を支えるためのものではなく、人材確保や定着、働きやすい職場づくりにも繋がる制度です。今回の非課税限度額に関する見直しは導入や見直しを検討するよい機会ですが、重要なのは非課税限度額の拡大だけに目を向けるのではなく、自社の勤務形態や運用体制に合った仕組みとして設計することです。他社事例をそのまま取り入れるのではなく、継続しやすさや社内管理のしやすさも踏まえて整備することで、食事補助を実効性のある制度として活かしやすくなるでしょう。
参考
・「事務所通信」2026年5月号
・国税庁「No.2594 食事を支給したとき|国税庁」
・国税庁「No.6471 従業員に対する食事の提供|国税庁」
・国税庁「食事を支給したときの非課税限度額の判定|国税庁」
・国税庁「使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合|国税庁」
・国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて|国税庁」
・国税庁「深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭に対する所得税の取扱いについて|国税庁」
・農林水産省「従業員等の健康に配慮した企業の食育推進事例集」
・読売新聞オンライン「従業員の食事代補助、42年ぶり非課税枠拡大で企業が関心…日本生命など商機探る : 読売新聞」
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