相続財産や贈与財産が災害によって被害を受けた場合、その相続財産等の価値が大きく下がったり、納税資金の確保ができなくなったりするケースが想定されます。そうしたケースに活用できる税制措置が国によって設けられており、万が一被災した場合にはこれらの税制措置を活用することで納税の負担を減らすことができます。この記事では被災者が活用できる相続税と贈与税に関する税制措置および申告・納付の期限猶予措置について紹介します。
💡この記事のポイント
☑申告や納付の期限を延長できる措置と、納税額の軽減ができる措置の2つがある。
☑相続財産等の約20%以上の被害があるときは納期限の猶予制度が利用可能。
☑相続財産等の10%以上の被害があるときには災害減免措置で納税負担を減らすことができる。
☑特定非常災害発生日前に相続・贈与した特定株式等や特定土地等は取得時の時価によらず、「特定非常災害の発生直後の価額」で評価。
1.はじめに
相続もしくは遺贈、または贈与により取得した財産(この記事では以下「相続財産等」という)が、災害によって被害を受けた場合、その相続財産等の価値が大きく下がったり、納税資金の確保ができなくなったりするケースが想定されます。そうしたケースに活用できる税制措置が国によって設けられており、万が一被災した場合にはこれらの税制措置を活用することで納税の負担を減らすことができます。
この記事では、相続税と贈与税に関する税制措置に絞って解説します。
相続税の申告・納付は、被相続人が亡くなった日(相続の開始があったことを知った日)の翌日から10カ月以内に、贈与税の申告と納付は財産の贈与があった年の翌年の2月1日から3月15日に、それぞれ行うこととされています。
災害によって被害を受けた際に利用できる税制措置は、大きく分けて、申告や納付の期限を延長できる措置と、納税額の軽減ができる措置の2つです。
なお、災害とは、「震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害および火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害ならびに害虫、害獣その他の生物による異常な災害」とされており、税制措置の適用を受けるにはこれらの災害に見舞われただけでなく、一定の被害があったことが要件となるためご注意ください。また、東日本大震災や令和6年能登半島地震のように、「特定非常災害※」に指定された災害については災害発生直後から個別の措置が検討される場合があるため必要な情報を取捨選択することが重要となる場合もあります。
※特定非常災害とは、「著しく異常かつ激甚な非常災害」をいい、具体的には①死者・行方不明者、負傷者、避難者等の多数発生、②住宅の倒壊等の多数発生、③交通やライフラインの広範囲にわたる途絶、④地域全体の日常業務や業務環境の破壊、の4つの要件に基づき、総合的に判断された上で指定されます。
2.相続財産等の約20%以上の被害があるときの納期限の猶予制度
災害その他やむを得ない理由によって、期限内に申告や納付など(申告・申請・請求・届出その他書類の提出・納付・徴収)ができない場合にその期限を延長できる制度があります。
(1) 相続財産等の約20%以上の被害があり納期限が到来していないとき
災害により相続財産等に相当な損失を受けた場合には、税務署に申請をすることによって、以下の「災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予」を受けることができます。
| 災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予(国税通則法46①) | |
| 対象国税 | 災害のやんだ日以前に納税義務が成立しており、災害により財産に損失を受けた日以降1年以内に納期限が到来する国税 ※例えば、納税義務の成立は申告所得税であれば暦年終了の時(12月 31日)、法人税であれば事業年度終了の時となり、その後納期限までに災害を受けた場合が対象となります。 |
| 要件 | 1 災害により財産に相当な損失を受けたこと(保険金等により補てんされる金額は損失額から控除) ※相当な損失とは被害額が全資産額のおおむね20%以上である場合をいいます。 2 災害のやんだ日から2月以内に申請があること |
| 申請方法 | 「納税の猶予申請書」を税務署へ提出 ※納税の猶予申請書には被災の状況の記載が必要になりますが、被災状況が判明するまでに日時を要するときは、後日、補正してください。なお、被災の状況の記載に代えて、市町村が発行するり災証明書又は申請者の方への聴き取りによる方法でも確認を行っています。 |
| 納税の猶予 の期間 |
その納期限から1年以内。 国税通則法第11条により納期限が延長されている場合は、延長後の納期限から1年以内。 被害額が全資産の額の50%を超える場合・・・原則1年 被害額が全資産の額の20~50%である場合・・・原則8月 ※予定納税に係る所得税並びに中間申告の法人税及び消費税は、最長で確定申告期限まで猶予。 |
| 猶予金額 | 対象国税の全部又は一部 |
| 担保 | 不要 |
| 延滞税 | 猶予期間に対応する延滞税の全額を免除(国税通則法63①) |
(2) 上記(1)の納税猶予期間内に納付できなかったとき
上記の「災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予」の猶予期間内に納付できなかった場合には、「災害等により納付困難となった場合の納税の猶予」を受けることができます。これらの納税の猶予制度を利用すれば、最大3年間の納税の猶予を受けることができます。
なお、原則として猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供が必要ですのでご注意ください。
| 災害等により納付困難となった場合の納税の猶予(国税通則法 46②) | |
| 要件 | 1 災害その他やむを得ない理由に基づき、国税を一時に納付することが困難なこと 2 申請があること |
| 申請方法 | 「納税の猶予申請書」及び添付書類を税務署へ提出 ※添付書類は次のとおりです。 1 災害などの事実を証する書類 2 「財産収支状況書」 (猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、「財産目録」及び「収支の明細書」) 3 担保の提供に関する書類 4 納税の告知がされていない源泉徴収等による国税の猶予を申請する場合には、所得税徴収高計算書、登録免許税の猶予を申請する場合には、登録等の事実を明らかにする書類 |
| 納税の猶予 の期間 |
1年以内。やむを得ない理由があると認められるときは、申請に基づき、延長することができる。ただし、既にこの規定による納税の猶予を受けた期間と合わせて2年以内(国税通則法46⑦) |
| 猶予金額 | 災害等により被害を受けたことに基づき一時に納付することが困難と認められる金額 |
| 担保 | 原則として必要(猶予金額が100万円以下の場合、猶予の期間が3カ月以内の場合、又は担保として提供することができる種類の財産がないといった事情がある場合は不要)(国税通則法46⑤) |
| 延滞税 | 猶予期間に対応する延滞税の全部又は一部を免除(国税通則法63①、③) |
3.相続財産等の10%以上の被害があるときには災害減免措置の活用を
相続財産等が災害によって被害を受け、その被害の大きさが次の①または②のどちらかに当てはまる場合は、相続税・贈与税の災害減免措置が適用できます。この減免措置は、被災したのが申告期限前だった場合は課税財産価額の減額(相続税等の課税価格に算入する価額について、被害を受けた部分の価額を減算)を、被災したのが申告期限後だった場合は納付予定の税額の一部免除(税額に被害を受けた割合を乗じて免除分を算出)を行う措置です。
相続税・贈与税の災害減免措置の適用要件
① 相続税等の課税価格の計算の基礎となった財産の価額(相続税については債務控除後の価額)のうちに被害を受けた部分の価額の占める割合が10分の1以上であること
② 相続税等の課税価格の計算の基礎となった動産等の価額のうちに当該動産等について被害を受けた部分の価額の占める割合が10分の1以上であること
※1 「被害を受けた部分の価額」は、下記の「◇被害を受けた部分の価額の計算」をご覧ください。
※2 「動産等」とは、動産(金銭及び有価証券を除く)、不動産(土地及び土地の上に存する権利を除く)及び立木をいいます。
※3 贈与により取得した財産について災害により被害を受けた方で、この財産の取得に対する贈与税について、災害減免措置の適用を受けようとする、または受けた場合には、「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例」は適用できません。
◇被害を受けた部分の価額の計算
被害を受けた部分の価額は、個々の相続財産等ごとに次の算式で計算します。
被害割合は、被害額等が明らかな場合とそうでない場合とで算式が異なります。
被害額等が明らかな場合は次の算式で計算します。
被害額が明らかでない場合の算式は、国税庁「相続税又は贈与税の災害減免措置について(令和6年1月)」
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/r6/0023001-073/pdf/01.pdf)
をご確認ください。
(1) 申告期限の前に被害を受けた場合(課税財産価額が減額される場合)
被災したのが申告期限前だった場合には課税財産価額の減額を受けることができます。相続税等の課税価格に算入する価額は、次の算式により計算した金額とされます。
※1 「相続財産等の価額」は、相続税の場合は、申告書第11表の「価額」(相続税の評価額)となります。 なお、小規模宅地等の特例などの課税価格の計算の特例の適用を受けている場合は、適用後の価額となります。
(2) 申告期限の後に被害を受けた場合(税額が免除される場合)
被災したのが申告期限後だった場合は納付予定の税額の一部免除を受けることができます。被害を受けた日以後に納付すべき相続税等のうち、次の算式により計算した税額が免除されます。
※2 「被害のあった日以後に納付すべき相続税額又は贈与税額」とは、延納中の税額や延納又は物納の許可前の徴収猶予中の 税額、農地等についての相続税等の納税猶予の特例の適用を受けている税額等をいい、例えば、延納中の税額の場合には、 被害のあった日以後に分納期限が到来する税額となります。なお、延滞税、利子税及び加算税のほか、既に納付済の税額や滞納となっている税額は含まれません。
※3 「課税価格の計算の基礎となった財産の価額」は、相続税の場合は、申告書第1表の「④純資産価額」の金額に相当する金額となります。なお、相続税の申告書第1表の「②相続時精算課税適用財産の価額」の金額がある場合には、「④純資産 価額」から「②相続時精算課税適用財産の価額」を差し引いた後の金額となります。
4.相続時精算課税で贈与を受けた土地や建物がある場合
災害により被害を受けた土地や建物が相続時精算課税で贈与を受けたものである場合に、「被災割合」が10分の1以上で税務署長の承認を受けたときは、災害により被害を受けた部分に対応するものとして計算した金額(被災価額)を課税財産価額から控除することができます。
要件や算式が複雑であるため、詳細は以下の資料、および税理士などの専門家や税務署にお尋ねください。
・参考資料「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例について」
5.法人版事業承継税制の適用を受けている企業が被災したとき
非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)には災害により被害を受けた場合に一定の要件のもとで適用される緩和措置等があります。具体的には以下の3つです。
(1) 破産等しても納税猶予税額が免除
贈与税・相続税の納税猶予の適用を受けていて次の①または②の者は、経営承継期間に破産等した場合でも納税猶予税額が免除されます。
① 災害等の発生前に贈与によりその非上場株式等を取得した者
② 災害等の発生した日から1年を経過する日の前日までにその非上場株式等を相続・遺贈により取得した者
(2) 納税猶予期間中の事業継続要件等の緩和
上記(1)の①または②の者は、納税猶予期間中の要件のうち、「雇用の8割を下回った場合」および「一定の資産保有型会社または資産運用型会社に該当することとなった場合」の要件が緩和されます。
(3) 相続税の納税猶予の適用要件の緩和
災害が発生した日から同日以後1年を経過する日までの間に相続・遺贈より取得した会社の非上場株式等について、後継者が相続税の納税猶予の適用を受ける場合には、その適用要件のうちの一部が不要とされます。
6.特定非常災害発生日前に取得した株式等があるとき
特定非常災害発生日前に相続・遺贈または贈与により取得した特定株式等※1 および特定土地※2 で、その特定非常災害発生日において所有していたものについては、その取得の時の時価によらず、「特定非常災害の発生直後の価額」によることができます。なお、「特定非常災害」に指定されるのは災害による被害状況を政府が把握できてからになるため、災害発生からこの税制措置が適用できるかどうかを判断できるまでには時間差があることにご注意ください。
※1「特定株式等」とは、「特定地域内にあった動産(金銭および有価証券を除く)、不動産、不動産の上に存する権利および立木の価額の合計額が保有資産の合計額の10分の3以上である法人」の株式等(上場株式等を除く)をいいます。
※2「特定土地等」とは、特定地域内にある土地または土地の上に存する権利をいいます。また、被害の内容に応じて、上記3.の災害減免措置も適用できる場合があります。
7.おわりに
本記事では、災害により被害を受けた際に適用できる相続税・贈与税の税制措置を紹介しました。
こうした税制措置は、自分が対象となるかわからず活用に踏み出せないでいる方もいることでしょう。情報収集を行うだけでなく、早めに税理士などの専門家に相談し、自分が対象であるかどうか、税制措置の適用を受けるために具体的に何をすればよいかを確認するようにしましょう。
また、法人版事業承継税制の適用を受けている経営者は、緊急時に利用可能な措置について平時から把握しておくことがポイントです。もしもの際の不安がある場合は税理士に税制措置の内容を詳しく問い合わせてみるのもよいでしょう。
参考文献
・「事務所通信2024年9月号」(TKC出版)
・国税庁「相続税又は贈与税の災害減免措置について(令和6年1月)」
・国税庁「災害を受けた場合の納税の緩和制度について」(令和6年1月)
・国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除 (法人版事業承継税制)に係る災害等に関する措置の概要」(令和7年5月)
記事提供
株式会社TKC出版
1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。


