貸付用不動産の評価の適正化および課税の公平性を図る観点から、貸付用不動産の評価方法の見直しが行われます。これにより、一棟売り賃貸マンションなどを取得する相続税対策に歯止めがかけられたこととなります。本記事では、貸付用不動産を利用した相続税対策の概要と、国税当局のこれまでの対応および今回の評価方法の見直しについて取り上げます。
※なお、今回の評価方法の見直しは、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用されます。
💡この記事のポイント
☑市場価格と相続税評価額の差額が大きい貸付用不動産に組み換えることで、評価額を圧縮し、効率良く相続税を軽減させることが可能。
☑国税当局は、評価の差額を用いた租税回避行為に対して、「財産基本通達の総則第6項」に基づいて、別途、外部の鑑定評価に出すなどにより時価を算定して課税を行っている。
☑相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法および商品として小口化された貸付用不動産の評価方法の見直しが行われる。
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1.財産評価の圧縮による相続税対策と国税当局のこれまでの対応
(1) 市場価格と相続税評価額の差額が大きい資産
相続税の評価額は、原則として財産評価基本通達の定めによって評価した価額によることとされています。この評価額は実際の時価(市場価格)よりも低いことが多く、特にマンションやアパートなどの貸付用不動産の相続税評価額は市場価格の30%前後ということが珍しくありません。
不動産市場における貸付用不動産の価額は、主に収益性によって価値判断が行われることから、一般的に貸家の稼働状況などが良好で賃貸の割合が高くなると市場価格は高くなります。
一方で、評価通達における貸付用不動産の価額(相続税評価額)は、借家人の支配権による利用の制約(誰かがその不動産のすべてまたは一部を借りていることによって、その不動産を家主が自由に売買などできない)等を考慮して評価するため、借家人がおり、賃貸の割合が高くなると相続税評価額は低くなります。
したがって、貸家の稼働状況などが良好なほど市場価格と相続税評価額の差額が広がり、市場価格が高額であっても相続税評価額はその3分の1程度(相続開始前の駆け込み取得事例での中央値。国税庁調べ)となります。こうした市場価格と相続税評価額の差額が大きい貸付用不動産に組み換えることは、評価額を圧縮して効率良く相続税を軽減させる対策の一つとされてきました。
(2) 相続税評価額と市場価格が大幅に異なる事例
ここで、2件の事例を紹介します。2件とも、相続税評価額と市場価格が大幅に異なる事例で、申告を受けた国税当局が鑑定評価によって相続税額を算定し直しています。
1件目は、相続開始の直前にマンション2棟を続けて取得した事例です。概要は以下のとおりです。
【事例1の概要】
・被相続人は、銀行から10.1億円を借り入れ、相続開始前約3年4カ月前に一棟賃貸マンションを8.3億円で、相続開始前約2年5カ月前に賃貸用分譲マンション(区分所有)を5.5億円で取得。取得価額は合計13.8億円。
・相続発生後、相続人らは各不動産を評価通達に基づき合計3.3億円と評価。
・相続人らは、各不動産取得に係る借入金残高10億円を債務控除し、相続税額を0円として申告。
・この申告に対して国税当局は、鑑定評価額が約12.7億円であり、相続税額は約2.4億円であるとして課税。
この事例では、都外に居住する被相続人が90歳を超えて、都内の一棟賃貸マンションと賃貸用分譲マンションを合計13.8億円で取得しました。その後購入者が死亡(享年94歳)した際に、相続人がマンション2棟を財産評価基本通達の定めによって評価した価額約3.3億円とし、借入金を差し引いて基礎控除などを差し引いた結果、相続税額をゼロとして申告しました。なお、これらの物件のうち分譲マンションのほうは、相続開始9カ月後に取得価額とほぼ同額の5億円超で売却をされていました。
2件目は、相続開始の直前に一棟賃貸マンションを21億円で取得した事例です。
【事例2の概要】
・被相続人は、主宰法人から22億円を借り入れ、相続開始前約2年8カ月前に一棟賃貸マンションを21億円で取得。
・相続発生後、相続人らはその一棟賃貸マンションを評価通達に基づき4.2億円と評価し、ほかの財産や債務を含めて計算した相続税額を4.4億円として申告。
・この申告に対して国税当局は、一棟賃貸マンションの鑑定評価額が18.5億円であり、相続税額は約12.3億円であるとして課税。
この事例では、関西に居住する被相続人は、相続開始直前に21億円で一棟賃貸マンションを購入しました。財産評価基本通達の定めによって評価した価額は4.2億円となり、相続人らは他の財産や債務を含めて計算した相続税額を4.4億円として申告しました。国税当局は鑑定評価額が18.5億円であり、この鑑定評価を踏まえた相続税額が約12.3億円であるとして課税を行いました。この事例における財産評価基本通達の定めによって評価した価額4.2億円は市場価格の約20%であり、申告された相続税額は本来申告すべき相続税額の35%でした。
(3) 国税当局は財産評価基本通達6項に基づく課税処分などで個別に対応してきた
国税当局は、上記の2件の事例のように評価の差額を用いた租税回避行為に対して、「財産評価基本通達の総則第6項」の「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」旨の規定に基づいて、別途、外部の鑑定評価に出すなどにより時価を算定して課税を行っています。また、令和4年にはタワマン節税への対応として、いわゆるマンション通達を公表しています。
しかしながら、実際の節税事例に頻繁に利用される一棟賃貸マンションがこの通達の対象になっていないことなどから、評価の差額を利用した節税対策は引き続き有効とされていました。
2.貸付用不動産の評価方法の見直しが行われる
今回、相続税等の財産評価の適正化として、相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮した見直しが新たに行われます。
具体的には、今回の貸付用不動産の評価方法の見直しは、大きく以下の2つに分かれています。
・相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価
・商品として小口化された貸付用不動産の評価
いずれの見直しも令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用となっています。
(1) 相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法
まず、1つ目の、相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法です。被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産を対象として、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価されることとなります。なお、上記の「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができることとされます。
この評価方法の見直しが行われることにより、1.(2)で紹介した2つの事例のような、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価額は、市場価格を基に算定され、市場価格と相続税評価額の乖離が解消されることとなります。
この改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用されます。ただし、当該改正を通達に定める日までに被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む)には適用されません。
■相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法の見直しの概要
| 項目 | 内容 |
| 【対象】 | 相続開始・贈与前5年以内に有償で取得または新築した一定の貸付用不動産 |
| 【評価】 | (現 行)路線価等による評価 (見直し)通常の取引価額に相当する金額(原則、取得価額を基に算定)によって評価 *減価償却(定額法)による減価を反映するなど、各不動産の実態に即して評価 *取得価額を基に評価額を算定する場合には、原則、取得時から課税時期までの地価変動の影響等を加味するとともに、評価の安全性を考慮(斟酌(しんしゃく)割合「0.8」) *今回の見直しによる通達の改正(公開)日までに、被相続人等が同日の5年前から所有している土地の上に家屋を新築・建築中の場合には、従前のとおり評価 |
(2) 商品として小口化された貸付用不動産の評価方法
次に、相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法です。いわゆる不動産小口化商品のうち任意組合型、賃貸借型、信託型のもの(「令和8年度税制改正の大綱」では「不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産」と表現されていた)については、その取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価されることとなります。
なお、上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額または定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額によって評価することができることとされます。ただし、これらに該当するものがないと認められる場合には、(1)の相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法に準じて評価(取得時期や評価の安全性を考慮)されます。
この改正についても、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用されます。
■商品として小口化された貸付用不動産の評価方法の概要
| 項目 | 内容 |
| 【対象】 | 小口化された貸付用不動産 |
| 【評価】 | (現 行)路線価等による評価 (見直し)取得時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額(次の①、②または③に掲げる価格等を参酌して算定)によって評価 ①出資者の照会等により、販売会社等から提示される適正な処分・買取価格等 ②販売会社等が把握している適正な売買実例価額 ③定期報告書等に記載された不動産の価格等 上記①、②または③に該当するものがない場合には、相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法に準じて評価 |
3.今後の貸付用不動産取得による相続税対策の注意点
(1) 死期が迫ったタイミングでの貸付用不動産取得・新築に注意
今回の評価方法の見直しでは、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産が対象とされており、相続発生直前に相続税対策として貸付用不動産を取得しようとする動きを規制したものとなっています。もし、貸付用不動産の取得や新築を考えている場合には、元気なうちに計画し早めに実行することで、適用対象から外れ、節税対策として有効となります。
(2) 不動産小口化商品を利用した節税効果は取得時期にかかわらず縮小
不動産小口化商品については、その取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価されるとされており、評価方法の見直し後は取得時期を早めたとしても適用対象から外れることはありません。したがって、相続税対策としての効果は縮小することとなります。
また、過去には任意組合型の不動産小口化商品を3,000万円で取得して孫に贈与し、孫に課せられた贈与税を、財産評価基本通達の定めによって評価した価額480万円に基づいて申告した事例(贈与税額を1,146万円減額)がありましたが、このような贈与についても今回の評価方法の見直しの対象となります。
4.おわりに
本記事では、貸付用不動産を利用した相続税対策の概要と、国税当局のこれまでの対応および貸付用不動産の評価方法の見直しについて紹介しました。貸付用不動産の取得・新築でも相続発生時期より5年以上前であれば今回の評価方法の見直しの対象から外れるため、これまでどおりの節税効果となります。しかしながら、国税当局が財産評価基本通達6項に基づく課税処分を引き続き個別で実施する姿勢は変わりません。相続税の負担が著しく軽減されている事案や、相続税の負担を減じまたは免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、購入・借入れを企画して実行していると判断される事案については、合理的理由があるとして鑑定評価を適用されてしまう可能性がありますのでご注意ください。
参考文献
・「財産承継ニュース」不動産評価特集号 投資用不動産取得による相続税対策の効果と注意点~分譲マンションの評価方法も大きく変わりました~(TKC出版)
・国税庁「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(第4回)」〔財産評価をめぐる諸問題〕説明資料
・財務省「令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)」
記事提供
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