2026年02月12日

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被災した事業者が活用できる税制措置

被災した事業者が活用できる税制措置

災害発生時の税制上の措置には、常設されている措置と、災害ごとに個別に設けられる措置があります。これらの措置は、早期の復旧を目指す被災企業にとっての追い風であり、常に情報収集を行い、積極的に活用していくことが大切です。被災時における法人税・所得税・消費税(インボイス制度)・車体課税の取扱いおよび納期限の猶予制度等の税制措置の概要を、常設の措置を中心に紹介します。BCP策定にもお役立てください。

💡この記事のポイント
 ☑法人の資産が被害を受けたときの損害額や復旧費用、被災した従業員や取引先を支援したときの支出等の多くは損金に算入できる。
 ☑個人事業者の事業用資産についても同様に損金に算入できるほか、特定非常災害発生時には5年間の繰越控除が認められている
 ☑保存していた帳簿や請求書が被災によって消失した場合でも仕入税額控除が適用可能。
 ☑全資産額の約20%以上の被害がある場合は納期限の猶予制度あり。

1.はじめに

 災害発生時の税制上の措置には、常設されている措置と、災害ごとに個別に設けられる措置があります。特に、東日本大震災や令和6年能登半島地震のように、「特定非常災害※」に指定された災害については災害発生直後から個別の措置が次々と検討されるため必要な情報を取捨選択することが重要となる場合もあります。
 この記事では常設されている措置の一部と、過去の特定非常災害の発生時に設けられた個別の措置の一部を紹介しています。常設の措置についての詳細は国税庁ウェブサイトをご覧ください。有事に備えて内容を把握しておきましょう。また、個別の措置については特定の災害で被災された事業者等を対象としているものです。実際に災害が発生した際に最新情報を取得する際は、過去の措置の情報と取り違えないよう、対象者にご注意ください。

※特定非常災害とは、「著しく異常かつ 激甚な非常災害」をいい、具体的には①死者・行方不明者、負傷者、避難者等の多数発生、②住宅の倒壊等の多数発生、③交通やライフラインの広範囲にわたる途絶、④地域全体の日常業務や業務環境の破壊、の4つの要件に基づき、総合的に判断された上で指定されます。

2.(法人税)損害額や復旧費用、従業員への見舞金等は損金算入できる

 災害により法人の資産が被害を受けたときの損害額や復旧費用、被災した従業員や取引先を支援したときの支出等の多くは、損金とすることができます。

(1) 被災した自社の資産の撤去や修理等を行ったとき

①災害で滅失・損壊した資産等

 商品、原材料等の棚卸資産や、店舗、事務所、工場、備品、車両等の固定資産が被災したことによる損害額は、評価損や除却損として損金にすることが認められます。被害を受けた店舗・事務所等の取壊しや除去のための費用、土砂等の障害物を除去するための費用も同様です。

②被災した資産を復旧させるために支出した費用

 災害により被害を受けた固定資産の原状回復をするための費用は、修繕費とする処理が認められます。
 また、通常は、資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする部分の支出は資本的支出とされますが、被災資産については、次のような支出も修繕費として処理することが認められます。
 ・被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水または土砂崩れの防止等のための支出(例:地震により地盤沈下や地割れした土地への地盛り、二次災害の回避のために耐震性を高める補強工事等)
 ・被災資産についての支出が修繕費か資本的支出かが明らかでないとき、その支出金額の30%相当額(残額を資本的支出として処理する必要があります)

(2) 災害で被災した従業員や取引先等を支援したとき

 法人が取引先の売上債権を免除したり、慶弔等に際して金品を贈ったりした場合、通常は寄附金や交際費等に該当し、損金算入できません。ただし、被災した取引先に対する、取引関係の維持、回復を目的とした復旧支援やお見舞いのための支出等は、損金算入することが認められます。災害時によくあるケースを確認してみましょう。

①被災した自社の従業員等へ支給した災害見舞金品

 被災した自社の従業員やその親族等に対して、慶弔規程などの合理的な基準に基づき支給した災害見舞金品は、福利厚生費になります。これは、自社の従業員等と同等の事情にある専属下請先の従業員等やその親族等に支給する災害見舞金品についても同様です。

②取引先等へ贈った災害見舞金等

 被災して通常の業務ができなくなった取引先に対して、取引関係の維持や回復のために災害見舞金等を贈ったときは、その支出は損金算入が認められます。
 ただし、法人が被災した取引先の役員や従業員個人に対して支出する災害見舞金等は、交際費等になります。これは、取引先救済のための費用には該当せず、慰安や贈答に該当すると考えられるためです。

③被災地への自社製品等の提供

 食品や衣料品のメーカーなどが、不特定または多数の被災者を救援するために自社製品等を提供した際の費用は、損金算入することが認められます。

④取引先等へ供与した事業用資産

 災害見舞金等を送った場合と同様に、被災した取引先へ事業用資産を供与した場合も、その支出は損金算入することが認められます。
 供与する事業用資産は、自社が製造した製品等だけでなく、他から購入した物品でも構いません。また、その資産が取引先の事業に利用されるもののほか、取引先の従業員等の福利厚生の一環として利用されるものも含まれます。なお、取引先の役員や従業員個人へ資産を供与した場合は交際費等になります。

⑤取引先の売掛金等で免除したもの

 被災した取引先の復旧支援のために売掛金や貸付金等の債権をその復旧過程期間内に免除したとき、その免除による損失は損金算入することが認められます。

3.(所得税)法人と同様に、損害額等の損金算入が可能

 上記2.で紹介した法人税における取扱いのうち、(1)の「①災害で滅失・損壊した資産等」、「②被災した資産を復旧させるために支出した費用」、(2)の「①被災した自社の従業員等へ支給した災害見舞金品」については個人事業者も同様に損金算入ができます。

4.(消費税)災害で帳簿や請求書等が消失しても仕入税額控除は可能

(1) 被災により課税仕入れに係る帳簿書類を消失したとき

 インボイス制度では、通常は、公共交通機関の運賃や自動販売機からの購入など一定の場合を除き、帳簿と請求書等の保存がなければ仕入税額控除が認められていません。
 ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合は、帳簿や請求書等を保存することができなくても仕入税額控除が認められています。この災害その他やむを得ない事情とは、震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災、火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害とされます。
 よって、保存していた帳簿や請求書が被災によって消失した場合でも仕入税額控除が適用可能です。なお、消失してしまった帳簿等は可能な範囲で、取引先や金融機関へ取引内容を照会して復元するなどの方法を試みることとされています。

(2) 売手のインボイス発行事業者が被災したとき

①売手からインボイスの交付がなく買手がインボイスを保存できなかったとき

 被災した取引先からインボイスの交付がない場合も、上記の(1)と同様に、災害その他やむを得ない事情に該当するため、仕入税額控除が認められています。

②(参考)売手がインボイス発行事業者の登録の取消しを行うとき

 インボイス制度開始後に発生した特定非常災害「令和6年能登半島地震」では、被災したインボイス発行事業者の登録の取消しについて、定められた期限までに「登録の取消しを求める旨の届出書」を提出すれば提出日の翌日から登録を取り消すことができ、その提出日の属する課税期間は免税事業者となる個別の措置が設けられました。
 この措置では取引先側の仕入税額控除を鑑み、被災したインボイス発行事業者が適用によってその課税期間の初日から免税事業者となった場合でも、インボイス発行事業者の登録を受けてからその登録の取消しを受けるまでの間の取引について交付するインボイス等は有効なものとされました。よって、取引先(買手)においては、その交付を受けたインボイス等に基づいた仕入税額控除を行うことができました。今後の特定非常災害でも同様の措置が設けられる可能性があるため、有事の際は最新の情報をご確認ください。

5.被災による損失が大きい場合は納期限の猶予制度の活用を

 緊急事態下では、国税や地方税について災害等に対する猶予制度があり、一定期間の納付延期が認められます。以下に国税の納税の緩和制度を紹介します。これらの措置を活用することで、短期的なキャッシュアウトを抑えることが可能となります。

迫っている期限のイメージ

(1) 被災して全資産額の約20%以上の被害があり納期限が到来していないとき

 災害により財産に相当な損失を受けた場合には、税務署に申請をすることによって、以下の「災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予」を受けることができます。

災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予(国税通則法46①)
対象国税 災害のやんだ日以前に納税義務が成立しており、災害により財産に損失を受けた日以降1年以内に納期限が到来する国税
 ※例えば、納税義務の成立は申告所得税であれば暦年終了の時(12月31日)、法人税であれば事業年度終了の時となり、その後納期限までに災害を受けた場合が対象となります。
要件 1 災害により財産に相当な損失を受けたこと(保険金等により補てんされる金額は損失額から控除)
 ※相当な損失とは被害額が全資産額のおおむね20%以上である場合をいいます。
2 災害のやんだ日から2月以内に申請があること
申請方法 「納税の猶予申請書」を税務署へ提出
 ※納税の猶予申請書には被災の状況の記載が必要になりますが、被災状況が判明するまでに日時を要するときは、後日、補正してください。なお、被災の状況の記載に代えて、市町村が発行するり災証明書又は申請者の方への聴き取りによる方法でも確認を行っています。
納税の猶予の期間 その納期限から1年以内。
国税通則法第11条により納期限が延長されている場合は、延長後の納期限から1年以内。
被害額が全資産の額の50%を超える場合・・・原則1年
被害額が全資産の額の20~50%である場合・・・原則8月
 ※予定納税に係る所得税並びに中間申告の法人税及び消費税は、最長で確定申告期限まで猶予。
猶予金額 対象国税の全部又は一部
担保 不要
延滞税 猶予期間に対応する延滞税の全額を免除(国税通則法63①)

(2) 上記(1)の納税猶予期間内に納付できなかったとき

 上記の「災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予」の猶予期間内に納付できなかった場合には、「災害等により納付困難となった場合の納税の猶予」を受けることができます。これらの納税の猶予制度を利用すれば、最大3年間の納税の猶予を受けることができます。
 なお、原則として猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供が必要ですのでご注意ください。

災害等により納付困難となった場合の納税の猶予(国税通則法 46②)
要件 1 災害その他やむを得ない理由に基づき、国税を一時に納付することが困難なこと
2 申請があること
申請方法 「納税の猶予申請書」及び添付書類を税務署へ提出
 ※添付書類は次のとおりです。
1 災害などの事実を証する書類
2 「財産収支状況書」
(猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、「財産目録」及び「収支の明細書」)
3 担保の提供に関する書類
4 納税の告知がされていない源泉徴収等による国税の猶予を申請する場合には、所得税徴収高計算書、登録免許税の猶予を申請する場合には、登録等の事実を明らかにする書類
納税の猶予の期間 1年以内。やむを得ない理由があると認められるときは、申請に基づき、延長することができる。ただし、既にこの規定による納税の猶予を受けた期間と合わせて2年以内(国税通則法46⑦)
猶予金額 災害等により被害を受けたことに基づき一時に納付することが困難と認められる金額
担保 原則として必要(猶予金額が100万円以下の場合、猶予の期間が3カ月以内の場合、又は担保として提供することができる種類の財産がないといった事情がある場合は不要)(国税通則法46⑤)
延滞税 猶予期間に対応する延滞税の全部又は一部を免除(国税通則法63①、③)

6.自動車税・自動車重量税の還付

 災害によって所有する自動車が廃車となった場合、自動車税と自動車重量税の還付手続きにおいて以下の点が措置されています。

(1) ナンバープレートや車検証を提出できなくても手続きが可能

 軽自動車税は年単位で課税されるため廃車時の還付はありませんが、自動車税については月単位で廃車後の残りの期間分の自動車税が還付されます。通常は、運輸支局でナンバープレートおよび車検証等の必要書類を揃えて抹消登録等の廃車手続きを終えることで自動車税が還付されますが、ナンバープレートや車検証が災害、盗難等で損壊・紛失した場合でも、警察署へ紛失届出を行い、その書類を添えて抹消登録時に提出できない理由を申し出ることで手続きが可能となります。

(2) (参考)自動車重量税は特定非常災害発生時に特例措置が創設された

 また、自動車重量税については、自動車リサイクル法に基づいて解体された自動車に限り、解体車検証の有効期間の残存状況に応じて還付されます。なお、これまで東日本大震災や能登半島地震など特定非常災害が発生した際には、発生日を基準日とした還付が行われる特例措置が創設されました。通常の措置よりも基準日が早まり、還付金が増加する可能性があります。通常の措置を適用済みでも増加分を還付される場合があります。

7.おわりに

 本記事では、災害により被害を受けた際に適用できる税制措置を紹介しました。
 こうした税制措置は、早期の復旧を目指す被災企業にとっての追い風であり、情報収集を行い、必要に応じて活用していくことが大切です。また、事業用資産に相当な損失を受けて資金繰りが悪化した場合であっても、納期限の猶予制度を活用することで、落ち着いて対策を検討する気持ちの余裕が生まれることもあります。
 緊急時に利用可能な支援制度は、補助金・融資制度等含めて平時から把握しておくことがポイントです。気になる制度がある場合は、顧問税理士に詳しい内容を問い合わせてみるのもよいでしょう。

参考文献

・「事務所通信2024年9月号」(TKC出版)
・国税庁「令和6年能登半島地震による被害を受けた事業者の方へ 消費税の届出等に関する特例等について(令和6年12月改訂)」
・国税庁「災害を受けた場合の納税の緩和制度について」(令和6年1月)
・国税庁「相続税又は贈与税の災害減免措置について」(令和6年1月)
・「Q&A社長がおさえておきたい資金繰り改善に必要な視点」(TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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