2026年03月24日

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2026年2月運用開始の「所有不動産記録証明制度」とは?

2026年2月運用開始の「所有不動産記録証明制度」とは?

2026年2月に運用が開始されている「所有不動産記録証明制度」とは、不動産を所有している個人や法人等が、登記上どのような不動産を持っているかを、法務局が登記情報に基づき一覧表を作成して証明書として交付する制度です。同制度の活用のメリットやポイント、留意点等を確認しましょう。

💡この記事のポイント
 ☑本人または故人(被相続人)、法人の所有不動産を一括で調べられるようになる
 ☑個人の相続や、中小企業における事業承継、不動産売却等の際の所有不動産確認が容易になる
 ☑この制度はあくまでも登記情報の「現状把握」のためのものであり、制度を活用して得た情報をもとに必要な対策を検討する必要がある

1.「所有不動産記録証明制度」とは

(1) 所有する不動産が一覧でわかる!

 2026年(令和8年)2月2日から「所有不動産記録証明制度」の運用が開始されています。この制度は、不動産を所有している人あるいは法人等が法務局に請求することで、所有する不動産の一覧が証明書として発行されるというものです。
 従来の不動産登記制度では、土地ごと、建物ごとに登記簿が作られており、「個人」や「法人」単位で全国の所有不動産をまとめて調べる仕組みはありませんでした。しかしこの制度では、不動産の「所有者本人」「相続人」「法人」等の請求に基づいて、法務局が登記情報をもとに不動産を抽出して一覧表を作成し、「所有不動産記録証明書」として交付されます。
 ただし、請求人の氏名・住所と不動産の登記簿上の氏名・住所が一致していない不動産については抽出されません。

(2) なぜこの制度ができたのか

制度のイメージ

 この制度が新設された背景として、全国的に「所有者不明土地」が増加していることが挙げられます。「所有者不明土地」とは、下記のような土地のことです。

 ・登記簿を見ても、現在の所有者がわからない
 ・所有者が分かっていても、その所在が不明で連絡がつかない

 上記のようなケースだと、その土地を利用したり管理したりするのが難しくなります。国土交通省の調査によると、全土地のうち23%が、こうした「所有者不明土地」に該当する可能性があるとのことです(2024年時点)。
 そもそも「不動産の所有者や連絡先がわからないということがあるのか」と疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし、「所有者不明土地」が発生する理由として、例えば下記のような例が挙げられます。
 ・不動産を取得してから何十年も経ち、購入者本人でも記憶にない
 ・親や先代社長の代で取得し、相続した不動産を把握できていない
 ・市区町村をまたいで複数の不動産を所有しており、所在が不明確
 ・登記簿上の住所や氏名が古いままになっている など

 この制度がつくられたもう一つの理由として、2024年4月から義務化された、不動産の相続登記が挙げられます。これにより、「相続によって不動産を取得した人は、原則3年以内に相続登記をしなければならず、怠ると過料対象になる」こととなりました。
 詳細は次のとおりです。

■相続登記の義務化
 「相続登記」とは、相続した土地や建物などの不動産について、その土地や建物の不動産登記簿の名義を、被相続人から相続人へ変更する手続きのことです。
 名義を変更するには、法務局へ申請する必要があります。「相続登記」には「不動産を取得した相続人が単独で申請する場合」と「相続人が共同で申請する場合」があります。また、相続人が司法書士、弁護士に依頼し、代わりに申請してもらうこともできます。
 「相続登記」の手続きは案件によって異なりますが、一般的には以下のような流れで行われます。
 ①相続する不動産を特定し、法定相続人の範囲を確認する
 ②相続人の間で、亡くなった方の財産をどのように分けるか(遺産の分割)を協議し、その結果を文書にする
 ③「相続登記」の申請書を作成し、申請に必要な証明書類を用意する
 ④所轄の法務局に申請書を提出する(書類の持参、郵送、オンラインのいずれかの方法による)
 なお、不動産価格や手続き内容に応じて費用が必要となります。主に、登録免許税、戸籍謄本など各種証明書の取得費用、司法書士・弁護士へ支払う報酬(依頼した場合のみ)などがあります。(注:100万円以下の土地に係る「相続登記」に係る登録免許税については、2027年(令和9年)3月31日まで免税措置が適用されています)

【出典】政府広報オンライン「相続登記 令和6年から義務化 | 政府広報オンライン

 このように相続登記が義務化されたにもかかわらず、不動産の持ち主が亡くなった後も、前述のような理由により、相続登記がされないまま放置されているケースも少なくありません。そこで、相続登記を推進するための環境整備という意味でつくられたのが、「所有不動産記録証明制度」なのです。

2.所有不動産の探し方がこれまでと大きく変わる!

所有不動産の探し方のイメージ

 「所有不動産記録証明制度」開始にあたって大きく変わるポイントは、「所有不動産の探し方」です。
 従来は、所有不動産を探したいと思ったときには、「自治体単位で探す(名寄帳)」、または「固定資産税の課税明細書(納税通知書)を手がかりに、不動産ごとに該当資産を探す」という方法が一般的でした。それぞれの特徴を解説します。

(1) 名寄帳

 「名寄帳」は、課税の対象となっている固定資産(土地・家屋)を所有者ごとに一覧表にまとめたものです。「名寄帳」を使用して不動産を探すメリットとして「その市区町村の中で不動産を把握しやすいこと」が挙げられます。
 しかし名寄帳は自治体単位で作成されるため、その自治体内の不動産は把握しやすい一方、自治体をまたいで一覧で調べることができない、課税対象外の不動産は載らないといったデメリットがあります。
 「所有不動産記録証明制度」なら、「人または法人単位で、登記上の所有不動産をまとめて探す」ことができるので、特定の人(法人)が所有する不動産をまとめて把握したい場合に利便性が向上すると考えられています。

(2) 固定資産税の課税明細書(納税通知書)

 固定資産税の課税明細書(納税通知書)は、市区町村が毎年送付する書類で、課税の対象となっている固定資産(土地・家屋)について、所在地や地目・種類、評価額、税額などが物件ごとに記載されています。相続や資産整理の場面では、この明細を手がかりに「どの不動産が課税されているか」を整理できるため、不動産探しの出発点として使いやすいのがメリットです。
 しかし、固定資産税の課税明細書(納税通知書)は送付先(納税義務者)に届く手元資料ですが、紛失していたり、別の親族・関係者が保管していたりすると確認が難しくなります。また、記載される「所在地」は住居表示(住所)ではなく地番ベースのことも多く、そのままでは場所を把握しづらい場合があります。
 さらに、市区町村ごとの課税資料なので、複数の自治体に不動産を所有している場合は自治体ごとの資料を集める必要があり、結果として確認に手間がかかることも多いようです。
 「所有不動産記録証明制度」なら、全国にまたがって調べることができるので、上記のような手間が省けます。

(3) 「これですべて解決」というわけではない

 「所有不動産記録証明制度」には多くのメリットがありますが、注意点もあります。この制度の対象となる不動産は、あくまでも登記情報に基づいて抽出されるので、未登記の不動産や名義・住所等の登記上の情報が現状と一致しない場合には一覧に反映されません。
 この制度を利用し、きちんと登記されている不動産はどれなのかという「現状把握」をして、一覧に出てこない不動産が疑われる場合(未登記・住所氏名不一致など)は、必要に応じて名寄帳や登記事項証明書等と組み合わせて確認することが必要になるでしょう。

3.制度を活用するには?

(1) 誰が制度を利用できるのか

 この制度は誰でも利用できるというものではなく、証明書の発行を請求できる人は次の人に限られます。
 ・所有権の登記名義人として記録されている者(自然人・法人)
 ・亡くなった人の相続人
 ・法人の代表者等
 なお、名義人または相続人から委任を受けた代理人に、所有不動産記録証明書の請求を委任することもできます。その場合、相続人であればそのことを証明する資料(戸籍謄本等)や委任状が必要です。
 このように、その不動産に関係のない第三者が誰でも請求できるものではなく、権利保護やプライバシーに配慮された制度となっています。
 詳細は下記をご参照ください。

■所有不動産記録証明書の交付請求が可能な者の範囲
 ある特定の者が登記名義人となっている不動産を一覧的に把握するニーズは、より広く生存中の自然人のほか法人についても認められるとの指摘がされていることから、これらの者についても「所有不動産記録証明制度」の対象としつつ、プライバシー等に配慮して請求範囲を次のとおり限定することとしている。
 ・何人も、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について本証明書の交付請求が可能
 ・相続人その他の一般承継人は、被相続人その他の被承継人に係る本証明書について交付請求可能
 *証明書の交付請求先となる登記所については法務大臣が指定する予定。手数料の額等については政令等で定める。

【出典】法務省「法務省:相続登記の申請義務化について

(2) 申請のための必要書類

 申請のためには、下記の書類等を準備する必要があります。交付請求の際は下記の書類を忘れないように準備しておきましょう。

 ・所有不動産記録証明書交付請求書
 ・本人確認書面(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)
 ・印鑑証明書
 ・委任状
 ・変更・承継を証する書面(住民票・戸籍謄本・登記事項証明書等)
 ・法人の代表者の資格を証する書面

【出典】政府広報オンライン「不動産の相続登記義務化!過去の相続分は?所有不動産を一覧的にリスト化する新制度も開始! | 政府広報オンライン

 所有不動産記録証明書の交付には手数料がかかります。現時点の公表資料によれば、窓口請求の場合は1通あたり1,600円、オンライン請求の場合は、受領方法により1,470円(窓口交付)または1,500円(送付)とされています。なお、手数料の額は政令で定められており、今後変更される可能性があるため、利用時には法務省の最新情報をご確認ください。

4.中小企業のメリットは?

 同制度は主に個人の相続等に関係するもので、企業等にはあまり関係ないと思われるかもしれませんがそうではありません。ここでは中小企業が「所有不動産記録証明制度」を利用するメリットについて紹介します。

(1) 登記漏れによるリスク防止

企業のイメージ

 会社名義の不動産についても、住所変更登記等が未了だと検索に引っかからない場合があるため、承継・相続手続の対象から把握漏れが起きる可能性があり、経営におけるリスクになります。そのリスクを防止するためにも、「所有不動産記録証明制度」を利用して所有不動産を一覧として把握することができれば、「登記上、誰の名義で何があるか」を一度整理できるため、相続や承継の場面での登記漏れリスクを大きく減らせることができます。
 また、登記が古いままだと、名義や住所が変わっている不動産が混ざりやすく、あとで探し直す手間が増えます。早めに一覧で確認し、必要があれば変更登記も進めておきましょう。

(2) 事業承継のための相続準備

 事業承継では、承継対象の不動産について「どの不動産が登記されているか」「名義や住所は最新か」を事前に確認しておくことが重要です。「所有不動産記録証明制度」により、登記されている不動産を名義人(本人・法人)単位で一覧として確認できます。まずはこの一覧で登記上の資産を整理し、名義変更や住所変更が必要なものを整理しておきましょう。

(3) 不動産売却・資産整理を進めやすい

 事業用不動産の売却や賃貸への切り替え、遊休地の整理などを進めるときは、まずは「会社として何を持っているか」を正確に把握しておく必要があります。本制度を使えば、法人名義で登記されている不動産を全国分まとめて一覧で確認できるため、資料探しや自治体ごとの確認の手間を減らせます。さらに、倉庫・社宅・駐車場など用途が分散していたとしても、抜け漏れを抑えて候補を整理しやすくなるメリットもあります。
 不動産の売却を検討する前に、所在地・地番の確認、権利関係の見直し、必要な変更登記の整理まで一連の準備を前倒しすることが可能です。その結果、不動産会社や税理士・司法書士などの専門家との打ち合わせも具体的に進めやすくなり、スケジュールの遅れを防ぐことが可能です。

(4) 資金調達・リスク管理に役立つ

 資金繰りや設備投資の場面では、不動産を担保にするか、保有コストを見直すか等の判断が必要になることがあります。その際、登記上の不動産一覧があると、金融機関への説明資料づくりや社内の共有がスムーズです。「どの不動産が会社名義か」「所在地はどこか」を短時間で整理でき、担保候補の検討や使っていない不動産の見直しにもつながります。災害や事故が起きたときの保険対応でも、保有不動産を整理した資料があると確認作業を早くすることができます。また、代表者個人名義の土地に会社建物がある等、名義の整合性に気づくきっかけにすることもできます。早めに現状を把握しておくことで、変更登記や契約整理を計画的に進められます。

5.まとめ

 「所有不動産記録証明制度」は確かに便利ですが、不動産問題を一気に解決する万能な制度というわけではありません。しかし、「どの不動産を所有しているのかわからない」という状態から一歩踏み出し、現状把握をするためには、非常に便利な制度であるといえます。
 中小企業の社長で、自分自身や会社が所有している不動産があれば、この制度を利用して、まず自分と自社の所有不動産を再確認し、もし登記が必要な不動産があるなど対応が必要なことがわかれば、税理士や司法書士等の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

【参考資料】

・法務省「法務省:相続登記の申請義務化について
・法務省「法務省だより あかれんが vol.91
・法務省「登記手数料令の一部を改正する政令の概要
・旭川地方法務局「所有不動産記録証明制度が令和8年2月2日から運用開始:旭川地方法務局
・政府広報オンライン「不動産の相続登記義務化!過去の相続分は?所有不動産を一覧的にリスト化する新制度も開始! | 政府広報オンライン
・政府広報オンライン「相続登記 令和6年から義務化 | 政府広報オンライン
・東京財団「所有者不明土地問題と政策動向 ―新たな土地制度の普及へ―

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