2025年12月22日

相続税対策で養子縁組を行うメリットと留意点

相続税対策で養子縁組を行うメリットと留意点

💡この記事のポイント
 ☑相続税対策で行われる養子縁組は普通養子縁組で、養子は直系卑属(孫やひ孫)、子の配偶者、兄弟姉妹の子(甥や姪)などであることが多い
 ☑尊属(叔父・叔母など)または年長者を養子とすることは禁止されている
 ☑民法上は養子の数に制限はないが、相続時の「法定相続人の数」に算入する養子の数には制限がある
 ☑被相続人の意思表示が十分でない状態での養子縁組など、相続税の負担を不当に減少させると認められる場合、原因となる養子の数は法定相続人の数に含めることはできない。
 ☑養子縁組により「相続の一世代飛ばし」が可能だが、孫養子は原則、相続税額の2割加算の対象となる
 ☑養子縁組によって法定相続人が増えると「相続税の基礎控除額が増える」「生命保険金などの非課税限度額が増加する」など、さまざまな節税効果がある
 ☑ただし、安易な養子縁組は相続トラブルを生むため注意が必要である

1.はじめに

 相続税対策として「養子縁組」を検討される方は少なくありません。養子縁組は届け出をしたその日から効力が生じるため、即効性の高い相続税対策といえます。養子は具体的な血縁とは無関係に本人の子として扱われ、実子も養子も同じ相続分を有し、かつ、遺留分も認められます。また、養子が法定相続人となることで、基礎控除額の増加や累進税率の緩和など、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
 そこで、本記事では、まず養子縁組の基本的な仕組みから紹介し、その上で相続に与える具体的な影響をわかりやすく解説します。さらに、養子縁組を行う際に留意しておきたい点を踏まえた上で、養子縁組の具体的な節税効果についても解説していきます。
 養子縁組を活用した相続税対策には明確なメリットがある一方、節税目的で安易な養子縁組を行うと想定外の課税や相続トラブルを招くリスクもあります。
 本記事の内容が、養子縁組制度の全体像や留意点を正しく理解し、より安全で効果的な相続税対策を行うための一助となれば幸いです。

2.相続税対策で行われる養子縁組とは

(1) 養子縁組の種類--「普通養子縁組」と「特別養子縁組」

 まず、養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つがあります。
「普通養子縁組」と「特別養子縁組」は、実の親との親子関係を終了するかどうかで以下のように分けられます。

・普通養子縁組
実の親との親子関係を存続したまま、養親との間で新たに法律上の親子関係が生じる。
・特別養子縁組
実の親との親子関係を終了し、養親との間で実の子と同じ親子関係が生じる。

 その他、年齢の制限などの主な相違点は下の表のとおりです。

■普通養子縁組と特別養子縁組の主な相違点

普通養子縁組と特別養子縁組の違いを示した表

 一般的に、相続税対策で行われる養子縁組は普通養子縁組で、養子は直系卑属(孫やひ孫)、子の配偶者、兄弟姉妹の子(甥や姪)、または弟や妹であることが多いと思われます。
 未成年者を養子縁組する場合には、養子の年齢が15歳未満の場合は、法定代理人(通常は実親)の承諾が必要ですが、15歳以上の子は単独で養子になる能力があるとされています。しかし、いずれの場合においても原則として「家庭裁判所」の許可が必要です。
 ただし、配偶者の子や孫を養子縁組する場合には、たとえ未成年であっても裁判所の許可は不要です。そのため、祖父母が15歳以上の未成年の孫と養子縁組を行う場合は、裁判所の許可もいらず法定代理人の承諾も要らないことになります。

(2) 民法上の養子縁組の概要

 養子は、縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得することになり、実の親子と同じ関係が生じます。民法上、養子の数には制限がありませんので、何人でも養子にすることができます(相続税法上は「法定相続人の数」に含める養子の数に制限がありますので後述します)。
 ただし、尊属(例えば、叔父・叔母)または年長者を養子とすることは禁止されています。なお、双子の兄・姉が、弟・妹を養子にすることは可能です。
 また、養子縁組を行うと、養子は養親の氏を称することになるため、外孫等を養子にする場合には注意が必要です。しかし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻による氏を名乗ることとされていますので、養子縁組による改姓の必要はありません。

(3) 養子縁組の手続き

 養子縁組届は、各市区町村役場に備え付けられており、誰でも簡単に届出書を作成することができます。養子縁組届出書には、養子になる人、養親になる人、証人(養子縁組の事実を知っている18歳以上の人であれば家族、知人など誰でも可)2名の署名押印等が必要です。この場合に押印する印鑑は認印でも問題ありませんが、養子縁組という重要事項に使用する印鑑ですので、後日の紛争などの備えとして、できるだけ実印を使用されることをお勧めします。

3.養子縁組は相続にどう影響する?

 続いて、養子縁組を行うと相続にどのような影響が生じるのかを確認していきましょう。

(1) 法定相続人の変動

 養子縁組によって相続の順位が変動することがあります。
 例えば、子のいない夫婦の場合は、夫が死亡し、夫の親が健在であれば、通常は妻と夫の親が相続人となります。
 一方で、もし養子縁組を行っていた場合は、子のいる相続となり、妻と養子が相続人となります。

(2) 法定相続分・遺留分の変動

 相続人が配偶者のみであれば、配偶者がすべてを相続します。養子縁組が行われていると、子のいる相続となるため、配偶者の法定相続分は1/2となります(下の表を参照)。
 また、養子縁組が行われると、子の数が増えることになるため、子の1人当たりの最低限の遺産取得分(遺留分)も減少します。

■相続人別の法定相続分と遺留分

相続人別の法定相続分と遺留分の割合を示した表

※1 遺産全体に対して「遺留分権利者全体」が持つ遺留分の割合
※2 遺留分権利者が複数人いる場合の個人の遺留分割合
※3 兄弟姉妹には遺留分がないため、総体的遺留分が配偶者の個別遺留分となる

4.養子縁組の相続における留意点

 相続税対策で養子縁組を検討する際に留意しておきたい主な点として「法定相続人の数の算入規制」「孫養子は原則、相続税額2割加算の対象」「"養子の子"の代襲相続権の判定」が挙げられます。1つずつ詳しく確認していきましょう。

(1) 法定相続人の数の算入規制

 先ほど述べたように、民法では養子の数に制限はありませんが、相続税の総額等の算定時に用いる「法定相続人の数」に算入する養子の数については、次の措置が講じられています。
・被相続人に実子がいる場合 1人まで
・被相続人に実子がいない場合 2人まで
 なお、被相続人と養子縁組により養子となった者であっても、次の養子は、相続税の課税上、実子とみなすこととしています。

①被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となった者
②被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者
③被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた者で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった者
④被相続人の実子、養子または直系卑属が 既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子などに代わって相続人となった直系卑属(例えば、子や孫)

 また、被相続人が亡くなる直前や意思表示の十分でない状態での養子縁組など、養子を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、法定相続人の数に含めることはできません。

(2) 孫養子は原則2割加算の対象

 相続税額の2割加算制度は、被相続人が子を飛び越して孫等へ直接遺産の遺贈等を行うことにより相続税の課税を1回免れる形になることなどを考慮して設けられたものとされています。
 この2割加算の対象となるのは、被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)と配偶者を除いた、被相続人との血縁関係の疎い者や血縁関係のない者です。孫も原則2割加算の対象で、被相続人の養子となった孫(いわゆる孫養子)でも対象者となります。

(3) 「養子の子」が代襲相続人になる場合・ならない場合

 養子は「養子と養親およびその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる(民法727条)」と規定されています。そのため、養子縁組の後に生まれた養子の子は、養親の代襲相続人となります。しかし、養子縁組前に生まれた養子の子は、養親と直系の血族関係は生じず、原則、代襲相続人とはなりません。
 ただし、以下の設例のように、養子縁組前に生まれた養子の子(D)が、養親の実子(B)の子であるため養親の直系卑属にあたるときは、養親(A)を被相続人とする相続において、その養子の子(D)は死亡した養子(C)を代襲して相続人となります。その場合、法定相続分はBとDがそれぞれ1/2ずつとなり、Dは相続税額の2割加算の対象者とはなりません。

■設例

養子縁組前に生まれた養子の子が代襲相続人となるケースを示した図

5.養子縁組による節税効果

 留意点はあるものの、相続税等の計算において、養子縁組は届け出たその日から効力が発生することから、即効性のある対策といえます。養子縁組により法定相続人となることで相続税等の負担を軽減させる効果が期待できるものは次のとおりです。

①基礎控除額が増加する
 相続税の総額を計算する場合に課税価格の合計額から控除することができる基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、養子縁組により法定相続人が増えることで基礎控除額も増加することになります。

②相続税の総額を計算する場合の累進税率が緩和される
 相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分に従って分けたものとみなした場合における各取得金額に累進税率を適用して計算します。したがって、養子縁組により法定相続人が増えることで、適用される累進税率が低くなる可能性があり、結果的に相続税額が減少する可能性もあります。

③生命保険金・退職手当金の非課税限度額が増加する
 相続人が受け取った生命保険金等および退職手当金等については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています。養子縁組により法定相続人が増えることで非課税限度額も増加することとなります。

※ただし、上記①~③の規定については、前述したように法定相続人の数に算入する養子の数には制限が設けられています(被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで)。

④養子となった未成年者・障害者は税額控除の対象である
 法定相続人が、未成年者または障害者である場合には、一定の税額控除が認められています。したがって、養子縁組により未成年者または障害者が法定相続人となった場合で、一定の要件に該当するときには、これらの税額控除の適用を受けることができます。この場合、法定相続人の数に算入する養子の数の制限は設けられていませんので、養子全員が未成年者控除・障害者控除の対象となります。

⑤相次相続控除の適用が可能である
 相次相続控除とは、10年以内に開始した前回の相続で財産を取得したなどの要件を満たす場合に受けられる税額控除です。養子も要件を満たせば控除可能となります。

⑥相続税額の2割加算が適用されない(※孫養子を除く)
 被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)および配偶者以外の人が、相続または遺贈により財産を取得した場合には、その人の相続税額は2割加算されることとなっています。
 しかし、養子縁組を行うと、養子は民法上の一親等の血族に該当することになり、2割加算の適用はありません。
 ただし、前述したように、被相続人の養子となった当該被相続人の直系卑属である孫など(代襲相続人である者を除く)については2割加算の対象者とされるため注意が必要です。

⑦非課税贈与特例の適用対象である
例えば、住宅取得等資金の非課税贈与は直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与に限定された制度ですが、結婚後に義父母と養子縁組を行えば、義父母は養父母として直系尊属に該当することとなり、適用を受けることができます(令和8年12月31日までの贈与に適用)。
 また、教育資金の一括非課税贈与は直系尊属から30歳未満の子や孫への贈与に限定された制度ですが、養子縁組が成立した日から養子は養親の直系卑属となるため、この特例の適用を受けることが可能です。「養子の子」については、養子縁組後に出生した子は直系卑属となり適用対象ですが、養子縁組前に出生した子は直系卑属にならないため適用対象外となります。ただし、養子縁組前に出生した子であっても、贈与者(贈与する人)と養子縁組を行って直系卑属となれば適用を受けることが可能です(令和8年3月31日までの贈与に適用)。

⑧贈与税の特例税率が適用される
18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合に、贈与税の税率が軽減されます。子の配偶者が義父母と養子縁組を行えば、養父母は直系尊属に該当することとなり、贈与税の税率は特例税率が適用されます。

⑨登録免許税が軽減される
 不動産の所有権移転登記を行う際の登録免許税の税率は、相続人以外の者が遺贈によって取得(孫が遺言で不動産を取得など)した場合は1000分の20ですが、相続人が取得(孫が養子となって不動産を相続にて取得など)した場合には1000分の4に軽減されます。

⑩不動産取得税が課されない
 相続人以外の者が遺贈によって不動産を取得すると不動産取得税が課されますが、相続人(養子縁組をした孫などを含む)が不動産を取得した場合は、不動産取得税が課されません。

⑪「相続の一世代飛ばし」が可能になる
 孫と養子縁組をして財産を相続させると、相続税の課税を一世代飛ばすことができます。例えば、父から子へ、そして子から孫へ財産が相続される場合には、その都度相続税が課税されますが、父から直接孫へ相続させれば相続税の課税は一度で済みます(ただし、前述したように相続税額の2割加算の対象者となります)。

 このように養子縁組には、相続税や贈与税の負担軽減など多岐にわたる節税効果があります。しかし、その効果ばかりに注目して安易に養子縁組を行うことは避けるべきでしょう。
 養子縁組によって法定相続人の数が増えれば、人間関係が複雑化するリスクも高まります。相続人の間で不公平感が生じると、遺産分割協議がスムーズに進まなくなるでしょう。養子縁組の有効性を争う訴訟に発展してしまうケースもあります。親族間の関係が悪化し、いわゆる「争族」となってしまうのです。また、債務などのマイナスの資産がある場合は、養子が債務を拒否するために相続放棄を行う可能性もあります。
 節税はあくまで副次的な効果であり、何よりも大切なのは家族円満であることです。したがって、養子縁組を行う際には、トータルの資産をきちんと把握した上で、家族間の理解と合意を十分に得た上で判断することが求められます。
 さらに、将来のトラブルを防ぐためには、遺言書を作成して具体的に相続財産を指定しておくなどの配慮が必要でしょう。

6.まとめ

 これまで見てきたように、養子縁組は相続税の負担軽減や資産承継の円滑化を図る上で非常に有効な手段となり得ます。法定相続人が増えることで基礎控除額の拡大や累進税率の緩和といった具体的な節税効果が期待でき、場合によっては一世代飛ばした資産移転をスムーズに進めることも可能です。
 しかし、その反面、相続人間の取り分や遺留分の変動によって、不公平感や争いの火種を生じさせるリスクも存在します。養子縁組を行う際には、税理士や弁護士などの専門家と十分に相談し、税務的・法的な要件を踏まえた上で、慎重に検討することが求められます。
 節税効果を生かしながら家族の絆を守ることこそ、円満な資産承継を実現するために最も大切といえるでしょう。

参考文献

・『財産承継ニュースvol.12』(TKC出版)
・『財産承継ニュースvol.13』(TKC出版)
・『財産承継ニュースvol.42』(TKC出版)
・『財産承継ニュースvol.43』(TKC出版)

株式会社TKC出版

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