💡この記事のポイント
☑「子ども・子育て支援金制度」は、子育て家庭を応援するために、毎月みんなで少しずつお金を出し合う仕組みで、2026年(令和8年)4月からスタートします。集めたお金は、児童手当の増額や保育サービスの充実などに使われます。
☑公的な医療保険(健康保険・国民健康保険など)に入っている被保険者が支援金を負担する対象となります。
☑支援金の負担額は、所得に応じた標準報酬月額×支援金率によって決まり、月々の健康保険料に含まれる形で引かれます。
☑支援金は社員と会社が半分ずつ負担する仕組み(労使折半)です。会社側は負担額を前もって計算して準備しておくことが大切です。
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- 1.「子ども・子育て支援金制度」とは
- (1) 制度の概要
- (2) 制度創設の背景
- (3) 支援金を負担する対象者
- (4) 一部からは「独身税だ!」という批判も……
- 2.支援金の負担割合
- 3.今後のスケジュールと保険者ごとの増額幅
- (1) これまでの流れと今後の主なスケジュール
- (2) 「保険者」ごとの平均徴収額
- 4.企業が準備すべきこと
- (1) 給与計算システムの改修
- (2) 給与明細への記載有無
- (3) 事業主の負担がどれぐらいになるのかを事前に確認
- 5.まとめ
1.「子ども・子育て支援金制度」とは
(1) 制度の概要
「子ども・子育て支援金制度」(以下、「支援金制度」)は、深刻化する少子化問題に対応するため、子育て世代を社会全体で支えることを目的とした新しい仕組みです。2026年(令和8年)4月からスタートすることになっています。
この制度では、子育て支援に必要な財源を確保するため、公的医療保険(健康保険・国民健康保険など)に加入している被保険者から支援金を拠出(負担)してもらうことになっています。
集められた支援金は、児童手当の拡充や妊娠・出産期の支援、保育サービスの充実など、子育て家庭への各種給付や支援策の財源として活用されます。
支援金の徴収は、健康保険料などと同様に、加入している医療保険を通じて行われ、個人の所得に応じた「標準報酬月額×支援金率」により金額が決まります。会社員の場合は、健康保険料と同様に労使折半(会社と従業員が半分ずつ負担)となり、給与から自動的に天引きされます。
支援金制度により、社会全体で子育てを支えるための安定的な財源を確保し、将来的に安心して子どもを生み育てられる環境づくりを目指しています。
(2) 制度創設の背景
①深刻化する少子化問題
日本では出生数の減少が続き、少子化が深刻な社会問題となっています。2024年(令和6年)に厚生労働省が実施した「人口動態統計」では、合計特殊出生率(一人の女性が生涯生む子どもの数)は1.15、出生数は統計開始以降初めて70万人を下回りました。人口を維持するためには、少なくとも合計特殊出生率が2.07必要であるといわれているため、現状大きく下回っている状況です。
その背景には働き方の多様化や経済的不安、子育てと仕事の両立の難しさなどがあり、「結婚・出産を希望していても実現できない」「子どもを持つことをためらう」といった若者や家庭が増えています。このまま少子化が進むと、将来的な労働力人口の減少や社会保障制度の維持が難しくなるなど、社会全体の持続可能性にも影響を及ぼすことが懸念されています。
こども家庭庁は、「若年人口が急激に減少する2030年(令和12年)代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と明言し、「こども未来戦略」をはじめとした施策に乗り出しています。
【出典】厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
②3つの理念を掲げた「こども未来戦略」
こうした状況を受け、政府は「子育てを社会全体で支える仕組みをつくることが急務」と位置づけました。そして、2023年(令和5年)に「こども家庭庁」の主導のもとで策定されたのが「こども未来戦略」です。
「こども未来戦略」では、「若者・子育て世代の所得を増やす」「社会全体の構造や意識を変える」「すべての子どもと子育て世帯を切れ目なく支援する」という3つの理念を掲げ、少子化対策を“社会全体の最重要課題”として位置づけています。
具体的に「こども未来戦略」では、年間約3.6兆円規模の政策パッケージを通じて、次のような総合的な取り組みを推進するとしています。
○児童手当の拡充(高校生まで支給、所得制限撤廃、第3子以降増額)
○妊娠・出産期の支援(出産・子育て応援給付金など)
○保育・教育サービスの充実(こども誰でも通園制度の導入)
○育児と就労の両立支援(育休給付・時短勤務給付の拡充)
○育児期間中の国民年金保険料免除 など
こども未来戦略 加速化プラン(給付拡充と子ども・子育て支援金制度)」
を基に作成
このように、「こども未来戦略」は、すべての子どもと家庭が安心して暮らせる社会の実現を目指す包括的な取り組みです。
なお、「こども未来戦略」の内容については、こども家庭庁の下記リンクから概要を知ることができます。
こども家庭庁「こども未来戦略|こども家庭庁」
③「加速化プラン」としての実行フェーズ
「こども未来戦略」を現実の政策として早期に実現するため、政府は2024年度(令和6年度)から2026年度(令和8年度)までの3年間を「加速化プラン」期間と定め、重点的に施策を実施することとしました。
この加速化プランでは、前述の給付拡充や支援制度の強化を通じて、子ども・子育て世帯を社会全体で支援する枠組みを早期に整備します。
④「支援金制度」の位置づけ
こうした大規模な子育て支援を実現するには、安定した財源の確保が不可欠です。そのために創設されたのが、「子ども・子育て支援金制度」です。
つまり、「支援金制度」は、「こども未来戦略」および「加速化プラン」で示された施策を実行するための財源の一部を賄う仕組みとして位置づけられているということです。「社会全体で子育てを支える仕組み」を制度として具体化したものといえるでしょう。
なお、こども家庭庁では「支援金制度」について下記のように紹介しています。
・2026年(令和8年)度に創設、2028年(令和10年)度までに段階的に導入(2026年(令和8年)度0.6兆円、2027年(令和9年)度0.8兆円、2028年(令和10年)度1兆円※ 。公的医療保険料とあわせて徴収。
・歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で構築。
・2024年~2028年(令和6~10年)度の各年度に限り、つなぎとして子ども・子育て支援特例公債を発行。
※支援納付金総額のうち公費負担分を除いた被保険者・事業主の拠出額の目安。
(3) 支援金を負担する対象者
支援金を負担する対象者は、協会けんぽや各健康保険組合、国民健康保険や後期高齢者医療制度などに加入し公的医療保険料を支払う公的医療保険の被保険者です。
なお、この支援金が公的医療保険料と合わせて徴収される理由として、こども家庭庁は下記の点を挙げています。
○他の社会保険制度と比較して賦課対象者が広いこと。
○現行制度においても、後期高齢者支援金や出産育児支援金など、世代を超えた支え合いの仕組みが組み込まれていること。
○急速な少子化・人口減少に歯止めをかけることが、公的医療保険制度の持続可能性を高めること。
(4) 一部からは「独身税だ!」という批判も……
子育て支援における財源不足も支援金制度を導入した理由の1つです。政府は児童手当や保育無償化などを推し進めていますが、毎年数兆円規模の予算がかかっています。これとは別に、「異次元の少子化対策」を掲げる「こども未来戦略」に盛り込まれている児童手当の拡充、出産・育児支援の強化等により、さらに数兆円規模での予算が必要になる見込みです。こうしたなか、国債依存の抑制方針や財源の恒久化の観点から、すべての公的医療保険の被保険者から支援金を徴収する形になりました。
しかし、一部では子どもがいない独身者等から“税”負担が増加するだけとして、「独身税」であるといった批判もあります。しかし、支援金制度は独身者のほかにも子育てが終わった世代等も保険料(拠出金)方式で支払う仕組みになっているなど、決して独身者等だけの課税ではありません。
なお、こども家庭庁は子育て世代以外から支援金を負担してもらうことについて、「全世代で子育て世代を支援することは日本経済全体の問題であり、全世代で支援することで国民皆保険制度の持続可能性を高め、事業主にとっても少子化対策を支援してもらうことは労働力確保や国内市場の維持からも重要であるため」との見解を述べています。
2.支援金の負担割合
(1) 支援金の負担額を算出する仕組み
毎月の負担額は『標準報酬月額×支援金率』で計算します。
標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料を決定する際の基準となる給与目安額のことです。
支援金率については、2026年(令和8年)度は約0.3%の見込みですが、段階的な引き上げを予定しており、2028年(令和10年)度は約0.4%が見込まれています。
負担額の算出方法の例は下記の通りです。
例:標準報酬月額30万円・支援金率0.4%の場合、月1,200円(労使折半で本人600円・事業主600円)。
なお、支援金制度がスタートすることで国民の経済的負担がさらに大きくなることになりますが、政府は国民に新たに支援金の拠出をお願いする代わりに、ほかの社会保障の無駄を減らし、実質的な社会保険料の負担である「社会保障負担率※」が大きくなりすぎないよう調整するとしています。
※社会保障負担率とは、所得に占める社会保険料負担割合のことです。算出方法は、[社会保険料負担÷国民所得]で算出します。
(2) 年収によって支援金の負担額はどのように変わるのか
実際、支援金の負担額は年収によって変わります。また、賞与・地域差・等級幅により変動があること、また実額は標準報酬月額と支援金率により決まるため、明確に提示することはできませんが、参考として年収別の負担額を下記に紹介します。
なお、前述したように、年度を経るごとに支援金率は大きくなることが見込まれていることを確認しましょう。
■年収ごとの被用者保険(協会けんぽ・健保組合・共済)の被保険者のみの1人当たり負担額(月額)
※【参考(試算)】実額は《標準報酬月額×支援金率》で決定します。同じ年収でも年度により支援金率が変動するため増減します。
《単位:円/月》
| 年収 | 2026年(令和8年)度 | 2027年(令和9年)度 | 2028年(令和10年)度 |
| 200万円 | 200円 | 250円 | 350円 |
| 400万円 | 400円 | 550円 | 650円 |
| 600万円 | 600円 | 800円 | 1,000円 |
| 800万円 | 800円 | 1,050円 | 1,350円 |
| 1,000万円 | 1,000円 | 1,350円 | 1,650円 |
3.今後のスケジュールと保険者ごとの増額幅
(1) これまでの流れと今後の主なスケジュール
支援金制度は、2024年(令和6年)6月に成立し、2026年(令和8年)4月開始見込みです。厚生労働省やこども家庭庁では、ガイドライン等を作成し、制度の方向性を示しつつ、各保険者との事務連携、各企業への支援金制度の周知活動等を行ってきました。企業、保険者、給与計算システム会社等が2026年(令和8年)4月からの制度開始に向けて準備を進めています。
なお、これまでの流れと今後の主なスケジュールは下記の通りです。
■2023年(令和5年)
・少子化対策の財源確保として支援金制度の導入を検討。
・少子化対策などの政策実施機関としてこども家庭庁が設立。
■2024年(令和6年)
・6月に子ども・子育て支援金制度が含まれた「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が成立。
・こども家庭庁等が制度設計を具体化。
■2025年(令和7年)
・各企業、各保険者等が支援金制度の開始に向けた準備を開始。
■2026年(令和8年)
・4月に制度開始(各保険者の納付サイクルに準じる見込み)。
■2027年(令和9年)
・1回目の支援金率上昇。
・運用に関する見直し、調整が入る可能性。
■2028年(令和10年)
・2回目の支援金率上昇。
・支援金制度の段階的な導入が終了。必要に応じて変更等を行いながら長期的な運用に移る可能性。
(2) 「保険者」ごとの平均徴収額
下記は毎月の負担額について、保険者ごとの月額徴収見込み額です。正確に自身の負担額を計算する際は、標準報酬月額を用いた算出方法で徴収額を求める必要がありますが、この表をもとに自身の加入する保険者の平均徴収額を知っておくと便利です。
なお、同じ保険者であっても徴収金額は年度を経るごとに支援金率が上昇するため、前年度より高くなることが見込まれます。
■被保険者1人当たりの支援金額(被用者の本人負担分。事業主負担は含みません)
《単位:円/月》(年次で支援金率が上昇見込み)
| 令和8年度見込み額 | 令和9年度見込み額 | 令和10年度見込み額 | ||
| 全制度平均 | 250円 | 350円 | 450円 | |
| 被用者保険 | 300円 | 400円 | 500円 | |
| 協会けんぽ | 250円 | 350円 | 450円 | |
| 健保組合 | 300円 | 400円 | 500円 | |
| 共済組合 | 350円 | 450円 | 600円 | |
| 国民健康保険 (市町村国保) |
250円 | 300円 | 400円 | |
| 後期高齢者医療制度 | 200円 | 250円 | 350円 | |
特に被用者保険において、各保険者ごとに金額差があるのは、保険者属性による違いです。例えば、協会けんぽは中小企業の従業員が中心に加入しているため、大企業を中心に加入している健保組合より金額が低い傾向にあります。共済組合についても公務員を中心に加入している関係で標準報酬月額が高い傾向にあるため、平均の月額徴収額が高めに算出されています。
4.企業が準備すべきこと
支援金制度の導入において、企業側が準備しておくべきことは何でしょうか。支援金制度は社会全体で少子化対策を講じていく制度です。このような意味があることを認識した上で、企業としてあらかじめ準備しておくことが重要です。
(1) 給与計算システムの改修
支援金制度は従業員の給与から徴収し、事業主負担分と合わせ納付する形になります。また、標準報酬月額によって徴収額が変動します。そのため、その徴収額を算出できるように給与計算システム等を改修しておきましょう。
(2) 給与明細への記載有無
給与明細に支援金制度によって徴収されたことがわかる項目について、こども家庭庁は、給与明細上は公的医療保険料と区分して表示するよう協力依頼が示されていますが、義務ではありません。社内周知の観点から「医療保険料(支援金含む)」と一本化するか、「医療保険料」「子ども・子育て支援金」を分けて表示するか、方針を早期に決定して就業規則・給与規程上の記載整備も検討しましょう。
(3) 事業主の負担がどれぐらいになるのかを事前に確認
支援金は労使折半での納付になるため、企業は支援金制度が導入される前に自社全体でいくらかかるのかを把握しておきましょう。企業負担の増加分をあらかじめ確認しておくことで、その影響を把握でき、対応策などの検討につなげることができます。
なお、毎月の従業員1人における事業主負担の金額は下記の計算方法で求めることができます。
事業主負担 = 従業員の標準報酬月額 × 支援金率(労使合計)÷ 2
例えば、標準報酬月額が30万円で支援金率が0.4%の場合、30万円×0.4%により、労使合計で毎月1,200円が本支援金として徴収されます。つまり、その内訳は労使折半により事業主、労働者ともに600円となります。
5.まとめ
「子ども・子育て支援金制度」は、加速度的に進む少子化対策や子育て世代を社会全体で支援するための制度です。国が推し進める財源確保のために2026年(令和8年)度から2028年(令和10年)度にかけて、段階的に支援金率が引き上げられ、実質負担額も増額される予定です。企業としては徴収される控除項目が追加されることや、事業主負担もあるため、あらかじめ確認しておくと安心でしょう。また今後、制度内容が変更される可能性もあります。本制度が始まった後も動向を注視し、最新の告示・通知に基づき更新できるようにしておきましょう。
【参考資料】
・e-Gov 法令検索「子ども・子育て支援法 | e-Gov 法令検索」
・こども家庭庁「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要」
・こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度のQ&A|こども家庭庁」
・こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について|こども家庭庁」
・こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について」
・こども家庭庁「こども未来戦略|こども家庭庁」
・こども家庭庁「こども・子育て世帯を応援! こども未来戦略 加速化プラン(給付拡充と子ども・子育て支援金制度)」
・読売新聞オンライン「子育て支援金、年収600万円なら月1000円負担…800万円なら1350円 : 読売新聞」
・こども家庭庁「こども未来戦略 加速化プラン施策のポイント」
・厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
・大正大学地域構想研究所「合計特殊出生率と人口減少のモメンタム | 大正大学地域構想研究所」
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