💡この記事のポイント
☑年末調整は、給与所得者の1年間の所得税額を精算する手続きで、源泉徴収税額と本来納めるべき年税額との過不足を調整する制度。
☑「扶養控除等(異動)申告書」等の各種申告書を正確に作成・提出し、これに基づいて年末調整を実施する。
☑2025年(令和7年)以降は、「年収の壁」の見直しや「年収の壁・支援パッケージ」に関する制度改正などに注意が必要。
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- 1.年末調整とはどんなもの?
- (1) 年末調整を実施するわけ
- (2) 年末調整の対象に「なる人・ならない人」を確認!
- 2.年末調整の流れ
- (1) 申告書の作成、回収
- (2) 年税額を算出後、過不足金額を精算
- (3) 源泉徴収票を交付
- 3.年末調整に影響する「年収の壁」見直し
- (1) 基礎控除の改正
- (2) 給与所得控除の改正
- (3) 扶養親族等の所得要件の改正
- (4) 特定親族特別控除の新設
- 4.実務における主な注意点
- (1) 申告書の記載ミスによる控除漏れ
- (2) 扶養親族の範囲、適用控除の誤り
- 5.まとめ
1.年末調整とはどんなもの?
毎年10月頃から、従業員が提出する各種申告書の準備が始まり、12月の給与支給時に実施される年末調整。そもそもどのような目的で、どういった手順に沿って行われるのでしょうか。本記事は年末調整の基本について一から解説するとともに、「年収の壁」の見直しにともなう変更点についても説明していきます。
(1) 年末調整を実施するわけ
年末調整とは、端的に言うと、事業主等の給与支払者が従業員(給与所得者)に代わって実施する税金の精算手続きです。
給与から毎月差し引かれている「所得税」と「復興特別所得税」(※1)の合計額が、1年間の所得に基づいて計算した“本来の年税額”と一致しない場合に、その差額(過不足分)を還付または追加納付によって調整します。この年末調整は、原則として、従業員が事業主に「扶養控除等(異動)申告書」(※2)等を提出している場合に行われます(ただし、後掲する「年末調整の対象とならない人」に該当する場合を除きます)。
つまり、給与所得者は確定申告をしなくても、年末調整によって1年間の所得税額を正しい金額に精算することができるということです。
※1 「復興特別所得税」とは、東日本大震災の復興のための財源確保を目的とした税のことです。所得税額の2.1%が上乗せされて課税されます。
※2 「扶養控除等(異動)申告書」は、雇用形態にかかわらず給与所得のある従業員が主たる給与支払者の勤務先に提出しなければならない申告書です。
なお、月々の源泉徴収税額の合計額と年税額に過不足が生じる理由は、主に下記の点があります。
①源泉徴収税額表(※)は月ごとの給与額に基づき税額を概算するため、年の中途で給与額に変動があっても、年間を通じた変動までは正確に反映されないから。
②年の中途で控除対象扶養親族の数などに異動があった場合でも、異動後の支払分からのみ修正されるため、過去の月に遡って再計算されないから。
③生命保険料控除や地震保険料控除などの一部の所得控除は、年末調整の時点でまとめて控除されるため、毎月の源泉徴収額に反映されないから。
※「源泉徴収税額表」とは、企業が給与金額から所得税額を求めるために参照する税額表です。
【出典】国税庁「Ⅱ 年末調整とは」を基に作成(2) 年末調整の対象に「なる人・ならない人」を確認!
年末調整の対象に「なる人・ならない人」の違いは下記の通りです。
| 年末調整の対象となる人 | 年末調整の対象とならない人 |
|
次のいずれかに該当する人 ① 1年を通じて勤務している人 ② 年の中途で就職し、年末まで勤務している人 ③ 年の中途で退職した人のうち、次の人 1) 死亡により退職した人 2) 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人 3) 12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人(本年最後の給与を受け取って退職した人) 4) いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払を受けると見込まれる場合を除きます。) ④ 年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人をいいます) |
次のいずれかに該当する人 ① 左欄に掲げる人のうち、本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人 ② 左欄に掲げる人のうち、災害により被害を受けて、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、本年分の給与に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予又は還付を受けた人 ③ 2か所以上から給与の支払を受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等(異動)申告書を提出している人や、年末調整を行うときまでに扶養控除等(異動)申告書を提出していない人 ④ 年の中途で退職した人で、左欄の③に該当しない人 ⑤ 非居住者 ⑥ 継続して同一の雇用主に雇用されないいわゆる日雇労働者など |
また、通常、年末調整は本年最後に給与を支払うときに実施しますが、下記に該当する場合はそれぞれ次の時に年末調整を実施します。
| 対象者 | 年末調整を行う時期 |
| ○年の中途で死亡により退職した人 | ○退職の時 |
| ○著しい心身の障害のため年の中途で退職した人で、その退職の時期からみて本年中に再就職ができないと見込まれる人 | ○退職の時 |
| ○12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人(本年最後の給与を受け取って退職した人) | ○退職の時 |
| ○いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払を受けると見込まれる人を除きます) | ○退職の時 |
| ○年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人 | ○非居住者となった時 |
なお、その年最後に給与の支払をする月中に賞与以外の普通給与と賞与とを支払う場合で、普通給与の支払よりも前に賞与を支払うときは、その賞与を支払う際に年末調整を行っても良いことになっています。この場合には、後で支払う普通給与の見積額及びこれに対応する見積税額を加えたところで年末調整を行いますが、後で支払う普通給与の実際の支給額がその見積額と異なることとなったときは、その実際の支給額によって年末調整のやり直しを行う必要があります。
【出典】国税庁「Ⅱ 年末調整とは」を基に作成2.年末調整の流れ
年末調整は具体的にどのような方法で行うのでしょうか。本項ではその内容を解説します。
(1) 申告書の作成、回収
年末調整を行う際には、まず従業員に各申告書を作成・提出してもらい、各控除額を決定する必要があります。主な書類は次の通りです。
①扶養控除等(異動)申告書
②基礎控除申告書
③配偶者控除等申告書
④特定親族特別控除申告書
⑤所得金額調整控除申告書
⑥保険料控除申告書
⑦住宅借入金等特別控除申告書
各申告書の詳しい記載方法については国税庁の下記ウェブサイトを確認しましょう。
国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」
ミスのない年末調整を行うためにも、従業員には正確に各申告書を記載のうえで提出を求めることが不可欠です。
なお、上記にある申告書を記載する際に混同しやすいのが「年収(年間給与収入)」と「給与所得」の違い。両者の違いを理解し、正しく申告書を記載できるようにしておきましょう。
・年収(年間給与収入)
1月1日から12月31日までの1年間に、会社から支払われる総支給額のこと。税金や社会保険料等が引かれる前の金額を指します。
・給与所得
年収(年間給与収入)から、給与所得者の「必要経費」とされる「給与所得控除」を差し引いたものが給与所得です。その年の収入が給与所得のみの場合、給与所得=合計所得金額となります。
(2) 年税額を算出後、過不足金額を精算
従業員から各申告書の提出を受け、所得控除額と税額控除額が確定したら、年間の給与総額をもとに最終的な年税額を計算し、源泉徴収済の税額と比較して年末調整を行います。
年末調整の結果、年税額と源泉徴収済の税額とに過不足金額が発生する場合、原則会社と従業員の間で精算します。源泉徴収された税額が年税額を上回っている場合はその差額を還付(年末調整月の給与の源泉徴収額から差し引いて本人に還付)します。一方、源泉徴収された税額が年税額に満たない場合は不足分を徴収(年末調整月の給与で、本来の源泉徴収税額に差額を加算して徴収し、税務署へ納付)します。
(3) 源泉徴収票を交付
年末調整の処理が終わったら、源泉徴収票を交付します。年末調整を実施した翌年1月31日までに交付する義務があるので注意しましょう。
源泉徴収票には主に、その年の支払金額、源泉徴収税額、給与所得控除後の金額等が記載されており、従業員にとっても年間収入と納税額を証明する大切な資料となります。間違いのないように交付することが重要です。
3.年末調整に影響する「年収の壁」見直し
2025年(令和7年)度の税制改正により、「年収の壁」に変更が生じました。本項ではそれぞれ「年収の壁」がどのように変わったのか、年末調整にどのような影響があるのか解説します。
(1) 基礎控除の改正
税額算出時に総所得金額から差し引くことができる基礎控除額が改正されました。
改正内容は下表の通りです。合計所得金額が132万円以下であれば95万円の基礎控除を受けることができ、それぞれの収入範囲によって控除額が変わります。
| 合計所得金額(収入が給与だけの場合の収入金額(※3)) | 基礎控除額 | ||
| 改正後(※1) | 改正前 | ||
| 2025・2026年(令和7・8年)分 | 2027年(令和9年)分以後 | ||
| 132万円以下(200万3,999円以下) | 95万円(※2) | 48万円 | |
| 132万円超336万円以下(200万3,999円超475万1,999円以下) | 88万円(※2) | 58万円 | |
| 336万円超489万円以下(475万1,999円超665万5,556円以下) | 68万円(※2) | ||
| 489万円超655万円以下(665万5,556円超850万円以下) | 63万円(※2) | ||
| 655万円超2,350万円以下(850万円超2,545万円以下) | 58万円 | ||
※1 改正後の所得税法第 86 条の規定による基礎控除額 58 万円に、改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。
※2 58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額となります。なお、この加算は、居住者についてのみ適用があります。
※3 特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
※4 合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません。
なお、基礎控除額の改正に伴い、2026年(令和8年)分以後の「源泉徴収税額表」が改正されています。最新の源泉徴収税額表は国税庁ウェブサイトで確認することができます。
(2) 給与所得控除の改正
給与所得控除では、控除の最低保障額が55万円から65万円に改正されました。
| 給与の収入金額 | 給与所得控除額 | |
| 改正後 | 改正前 | |
| 162万5,000円以下 | 65万円 | 55万円 |
| 162万5,000円超180万円以下 | その収入金額×40%-10万円 | |
| 180万円超190万円以下 | その収入金額×30%+8万円 | |
※給与の収入金額190万円超の場合、給与所得控除額に改正はありません。詳細は最新の国税庁HP『年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表』をご参照ください。
上記の通り、基礎控除額と給与所得控除額の引き上げによって所得税の「年収の壁」は160万円に変更されています。2024年(令和6年)度までは「103万円の壁」であったため、2025年(令和7年)度の年末調整では所得税の還付対応が増えるとされています。
(3) 扶養親族等の所得要件の改正
本改正により、従業員が扶養する配偶者や親族の控除を受けるための扶養控除に関する「年収の壁」は「123万円の壁」に変わりました。
| 扶養親族等の区分 | 所得要件※1 (収入が給与だけの場合の収入金額※2) |
|
| 改正後 | 改正前 | |
| 扶養親族同一生計配偶者ひとり親の生計を一にする子 | 58万円以下(123万円以下) | 48万円以下(103万円以下) |
| 配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 58万円超133万円以下(123万円超201万5,999円以下) | 48万円超133万円以下(103万円超201万5,999円以下) |
| 勤労学生 | 85万円以下(150万円以下) | 75万円以下(130万円以下) |
※1 合計所得金額(ひとり親の生計を一にする子については総所得金額等の合計額)の要件をいいます。
※2 業務に係る費用である特定支出が多い場合に控除できる特定支出控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
(4) 特定親族特別控除の新設
特定親族特別控除とは、所得者が特定親族※を有し、その所得者の総所得金額等からその特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じて一定金額を控除することです。
本改正により、特定扶養控除を受けられる従業員の子等(19歳~23歳未満)の「年収の壁」は150万円になりました。「150万円超188万円以下」の場合も新設された特定親族特別控除により、下表の通り控除を受けることができます。
※特定親族とは、所得者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除く)で合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。
| 特定親族の合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額※) |
特定親族特別控除額 |
| 58万円超85万円以下 (123万円超150万円以下) |
63万円 |
| 85万円超90万円以下 (150万円超155万円以下) |
61万円 |
| 90万円超95万円以下 (155万円超160万円以下) |
51万円 |
| 95万円超100万円以下 (160万円超165万円以下) |
41万円 |
| 100万円超105万円以下 (165万円超170万円以下) |
31万円 |
| 105万円超110万円以下 (170万円超175万円以下) |
21万円 |
| 110万円超115万円以下 (175万円超180万円以下) |
11万円 |
| 115万円超120万円以下 (180万円超185万円以下) |
6万円 |
| 120万円超123万円以下 (185万円超188万円以下) |
3万円 |
※特定支出控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
【出典】国税庁「Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の見直し等)」控除枠の拡大により年末調整における控除額の計算方法等も変わるため、注意が必要です。
4.実務における主な注意点
(1) 申告書の記載ミスによる控除漏れ
従業員が提出する申告書には記載ミスが起こる場合もあります。そのため、事前に間違いやすい箇所を周知し、正しい記載を依頼することが重要になります。特に2025年(令和7年)度税制改正によって改正された内容には注意が必要です。提出された申告書を確認するうえでの主な注意点には次のようなものがあります。
①基礎控除申告書における「あなたの本年中の合計所得金額の見積額」に記載された金額は給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられている点に留意する。
②配偶者控除等申告書における「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額」について正しく計算されているか確認し、配偶者の年収が昨年と変わらなくても給与所得控除の最低保障額が65万円になったことで配偶者の合計所得金額は異なる可能性がある点に注意する。
③特定親族特別控除申告書における「特定親族特別控除の額」の金額が「控除額の計算」に沿った正しい数字であるか確認する。
(2) 扶養親族の範囲、適用控除の誤り
従業員が間違った申告書を作成してしまう原因としては、扶養親族の範囲と適用控除の認識を誤っているパターンもあります。年末調整において控除対象かどうかは従業員から提出された申告書と、給与や控除税額等を記録している源泉徴収簿を確認し、年収や年齢等から扶養親族の範囲と適用できる控除の内容が正しいかチェックしましょう。
特に扶養親族の範囲について、2025年(令和7年)度税制改正により変更が生じています。各申告書内での主な変更点は下記に挙げる申告書です。従業員から提出を受けた各申告書内の該当箇所に、下記のように適切な扶養親族等の範囲をもとに内容が記載されているか確認しておきましょう。
①特定親族特別控除申告書
特定親族特別控除を受ける場合の申告書が新設されたため、該当箇所には年齢19歳以上23歳未満で、合計所得58万円超123万円以下(給与収入のみの場合、年収123万円超188万円以下)の親族を記載します。
②扶養控除等申告書
1)申告書に記載する源泉控除対象配偶者の範囲が変わります。2025年(令和7年)分からは、合計所得の見積額が95万円(給与収入のみの場合、年収160万円)以下の場合に記載します。
2)申告書に記載する扶養親族、障害者控除を受ける同一生計配偶者、ひとり親控除を受ける場合の生計を一にする子の範囲が変わります。2025年(令和7年)分からは、合計所得の見積額が58万円(給与収入のみの場合、年収123万円)以下の場合に記載します。
5.まとめ
年末調整は給与所得者の1年間の所得税額を精算する手続きであり、源泉徴収税額と本来納めるべき年税額との過不足を調整する制度です。年末調整にはどのような種類の申告書が必要か、税制改正ではどのような変更点があり、年末調整の作業時にはどのような注意点があるか等を事前に確認しておきましょう。また、今後も税制改正等により、年末調整時における注意点は変更になる可能性があります。国税庁ウェブサイト等から最新情報も合わせて確認しておきましょう。
参考文献
・国税庁「Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の見直し等)」
・国税庁「Ⅱ 年末調整とは」
・国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和7年分)|国税庁」
・国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」
・財務省「令和7年度税制改正」
・TKCグループ「「年収の壁」見直しで、令和7年分年末調整は何が、どうなる?【わかりやすく解説】 | TKCグループ」
・「事務所通信」2025年12月号
記事提供
株式会社TKC出版 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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