2025年11月25日

「iDeCo」の特徴と仕組み 中小企業における導入のメリットとは

「iDeCo」の特徴と仕組み 中小企業における導入のメリットとは

💡この記事のポイント
 ☑iDeCoは個人で老後資産を形成できる制度。
 ☑iDeCoを利用すると「掛金控除」「運用益非課税」「受取時に控除」の優遇がある。
 ☑中小企業はiDeCo+で事業主拠出した掛金を全額損金算入可能。

1.iDeCoの仕組みと3つの税制優遇

 iDeCo(イデコ)は、毎月自分が決めた掛金を運用し、資産を形成する個人型確定拠出年金制度です。名称は“individual-type Defined Contribution pension plan”の単語の一部から構成されています。掛金の上限額は就労状況等に応じて変わります。
 老後の資産づくりを目的とした個人型確定拠出年金は、公的年金に上乗せできる私的年金制度のひとつであり、国民年金や厚生年金の公的年金とは異なり加入は任意です。個人型確定拠出年金を利用した場合、掛金を自分で決めて積み立てていき、その掛金を自分で決めた金融商品で運用し、その運用結果を60歳以降に年金や一時金として受け取る、といった流れになります。年金と一時金を併用して受け取ることも可能です。受け取り方法については自分のスタイルに合わせて選択しましょう。

■私的年金制度の主な種類

確定給付企業年金制度(DB) 従業員の受け取る企業年金の給付額があらかじめ約束されている企業年金制度であり、運用結果が悪い場合は企業が不足分を補填する。
企業型確定拠出年金制度(企業型DC) 企業が掛金を毎月積み立てし、従業員自身が年金資産の運用を行う企業年金制度。運用結果によって将来の受給額が変動する。
個人型確定拠出年金制度(個人型DC) 個人が掛金を毎月積み立てし、自ら年金資産の運用を行う私的年金制度。運用結果によって将来の受給額が変動する。
厚生年金基金制度 国に代わって厚生年金の給付の一部を代行して行う(代行給付)とともに、企業の実情に応じて独自の上乗せ給付を行うことができる。
国民年金基金制度 自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が、老後の所得保障の充実を図るため任意で加入する。
【参考】 厚生労働省「私的年金制度の概要(企業年金、個人年金) |厚生労働省」 企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金|企業年金連合会」

 個人型確定拠出年金であるiDeCoには税制優遇措置が講じられています。本項ではiDeCoの仕組みと3つの税制優遇措置を解説します。

(1) 主な仕組み

 iDeCoは月5,000円から1,000円単位で自由に掛金を設定して始めることができますが、拠出限度額については国民年金の第何号被保険者かによって異なります。拠出限度額を含めた、iDeCoの主な概要は下記の表の通りです。

■iDeCoの主な概要

実施主体 国民年金基金連合会
主な加入対象者 1.農業者年金の被保険者、国民年金の保険料免除者を除く、国民年金第1号被保険者(自営業者等)
2.公務員や私立学校教職員共済制度の加入者を含む、国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)※
3.国民年金第3号被保険者(専業主婦(主夫)等)
4.国民年金任意加入被保険者
掛金 加入者個人が拠出
拠出限度額 1.国民年金第1号被保険者(自営業者等):68,000円/月※国民年金基金の掛金、または国民年金の付加保険料を納付している場合は、それらの額を控除した額
2.国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)■企業年金等(確定給付型の年金及び企業型DC)に加入していない場合(公務員を除く):23,000円/月
■企業年金等(確定給付型の年金(他制度)・企業型DCのみ)に加入している場合(公務員を含む):20,000円/月(ただし、企業型DCの事業主掛金額と他制度ごとの掛金相当額の合計額が55,000円の範囲内)
3.国民年金第3号被保険者(専業主婦(主夫)等):23,000円/月
4.国民年金任意加入被保険者:68,000円/月(国民年金基金の掛金、または国民年金の付加保険料を納付している場合は、それらの額を控除した額)

 ※企業年金加入者においては、以下の全てにあてはまる場合に限る。
 [1]iDeCoの掛金額が、企業型DCの事業主掛金額と確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金、石炭鉱業企業年金、私立学校教職員共済制度を指す企業型DBの他制度掛金相当額と合算して各月の拠出限度額を超えていない。
 [2]掛金(企業型DC・iDeCo)が各月拠出である。
 [3]企業型DCの加入者掛金を拠出していない。

【参考】 厚生労働省「iDeCoの概要 |厚生労働省」 企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金|企業年金連合会」

 なお、2027年(令和9年)1月には国民年金第1号被保険者の月額の掛金上限額が7,000円引き上げられる予定です。第2号被保険者については一律62,000円に引き上げられ、第2号被保険者内での金額差がなくなりました。
 加入年齢の上限については「65歳未満まで」から「70歳未満まで」に引き上げられることが決定し、これまでは運用期間が短いため加入しづらかった50代以降の人にとって利用しやすくなります。

■iDeCo改正内容

2026年(令和8年)12月まで 2027年(令和9年)1月から
第1号被保険者 月の掛金上限68,000円 月の掛金上限75,000円
第2号被保険者 ・企業年金無加入:月の掛金上限23,000円
・企業型DBや企業型DC等に加入:月の掛金上限20,000円
・企業型確定拠出年金と併用している場合:月の掛金上限55,000円
月の掛金上限は共通して62,000円
第3号被保険者 月の掛金上限23,000円 月の掛金上限23,000円(変更なし)
【参考】財務省「令和7年度税制改正の大綱の概要 : 財務省」 企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金|企業年金連合会」

(2) 税制優遇① 掛金全額を所得控除

iDeCoの掛金全額所得控除を説明する給与明細書

 iDeCoでの掛金は全額を所得控除することができます。掛金を所得から控除すると、所得金額をもとに算出される所得税や住民税の負担を軽くすることができます。
 例えば、掛金が毎月1万円で、所得税が20%、住民税が10%の税率の場合、月々合計3,000円、年間36,000円の税が軽減されることになります。

(3) 税制優遇② 運用益は非課税で再投資も可能

 通常、金融商品の運用益には20.315%の源泉分離課税がかかりますが、iDeCoの場合は非課税となり、運用益はそのまま自身の所得になります。また、その運用益は、再度金融商品に自動的に再投資されます。このように同じ口座内で複利運用(投資で得た利益を再び投資に回すことで、利益がさらに利益を生む運用方法)されていきます。

(4) 税制優遇③ 年金で受け取りの場合は公的年金等控除、一時金で受け取る場合は退職所得控除を受けられる

 iDeCoにおける運用益を年金で受け取る際は「公的年金等控除」、一時金で受け取る際は「退職所得控除」を受けることができます。

①公的年金等控除

年金や退職所得控除をイメージした『年金』の文字と人形の写真

 年金として受け取る場合、本来であれば雑所得として所得税が課されますが、公的年金等控除が適用されることで、iDeCoの受取金額を含むすべての年金収入に応じて、一定額までが非課税となります。
 具体的に公的年金等控除が適用される金額は下記の通りです。

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満の方 60万円以下 0円
60万円超130万円未満 収入金額―60万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5千円
1,000万円以上 収入金額-195万5千円
65歳以上の方 110万円以下 0円
110万円超330万円未満 収入金額-110万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5千円
1,000万円以上 収入金額-195万5千円
【参考】国税庁「高齢者と税(年金と税)|国税庁」

 上表の通り、65歳未満であれば年金収入60万円以下、65歳以上であれば年金収入110万円以下までは全額非課税となります。この控除額を超えると、超過分については雑所得として所得税の課税対象となります。

②退職所得控除

 一時金として受け取る場合は、退職所得として扱われます。この受け取りの際に適用されるのが退職所得控除です。
 退職所得控除はiDeCoの加入年数に応じて非課税枠の控除額が設定されており、その範囲内であれば所得税がかかりません。非課税枠の控除額の計算方法は下記の通りです。

■退職所得控除額の計算方法

勤続年数(=A)※ 退職所得控除額
20年以下 40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (A-20年)

 ※iDeCo加入年数の端数については切り上げて計算する。
 例えば、加入年数が10年1か月の人の場合の退職所得控除額は加入年数11年となる(端数の1か月は1年に切上げ)

【参考】国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁」

 上記の計算方法によって控除額を超えた場合、控除の超過部分については次の計算方法で課税対象金額が算出されます。

(iDeCo一時金受取額-退職所得控除額)×1 /2=退職所得の金額

【参考】国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁」

 上記計算方法に当てはめて算出された金額をもとに所得税および住民税が算出されます。課税対象は控除を超えた部分の半分であるため、優遇された課税制度となっています。

2.iDeCoのここに注意

 iDeCoには税制優遇等のメリットがありますが、注意点もあります。下記項目で確認しておきましょう。

(1) 60歳未満は原則引き出し不可

通帳記帳中の手元とATM、iDeCoは60歳まで引き出せないことを示唆

 iDeCoは原則60歳にならないと引き出すことができません。これは本制度が老後資金の形成を目的にしているため、途中引き出しを想定していないためです。なお、iDeCoの引き出しには、最初に掛金を拠出してから10年経過していることが必要です。そのため、60歳時点で10年を満たない場合は、その分引き出し可能年齢が繰り下がるため注意が必要です。
 ただし、例外的に死亡や障害などやむを得ない場合にのみ解約し引き出すことができます。

(2) 元本割れをする可能性がある

 iDeCoには投資できる金融商品から選んで運用していく形になりますが、「投資信託型」の金融商品を選んで運用していく場合は、元本割れをするリスクがあります。元本割れを避けたい場合は、元本割れのリスクがない「元本確保型」の商品を選んで運用するようにしましょう。

3.中小企業を後押しするiDeCo+とは

 2018年(平成30年)に新設されたiDeCo+(イデコプラス)は「中小事業主掛金納付制度」と呼ばれる、中小企業を後押しする制度です。
 iDeCoを利用する企業と従業員双方にメリットのある制度になっています。なお、iDeCo+を導入できる事業主は下記の通りになります。

■iDeCo+を導入可能な事業主の要件

 ①従業員数が300人以下であること。
 ※同じ事業主が複数事業所を運営している場合、全事業所の従業員合計が300人以下
 ②企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金を実施していないこと。
 ③従業員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、従業員の過半数で組織する労働組合がないときは従業員の過半数を代表する者※に、iDeCo+を実施することや掛金額について同意を得る(労使合意をする)こと。
 ※過半数を代表する者の要件として、過半数代表者は、「管理・監督の地位にある者でないこと」「労使協定の締結等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、事業主の意向に基づき選出されたものでないこと」のいずれにも該当しなければならない。

【参考】iDeCo公式サイト「よくあるご質問|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】」

 そのほか、拠出対象者・掛金設定・納付方法については下記の通りです。

項目 内容
拠出対象者 iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金を拠出されたことに同意した加入者(拠出対象者に、職種や勤続年数などの一定の資格を設けることも可能)。
掛金設定 加入者掛金と事業主掛金の合計額は、月額5,000円以上23,000円以下の範囲で、加入者と事業主がそれぞれ1,000円単位で決定する。加入者掛金を0円とすることはできないが、事業主掛金が加入者掛金を上回ることは可能である。また、資格ごとに掛金額を設定することも可能。
納付方法 加入者掛金と事業主掛金を事業主がとりまとめて納付。
【参考】厚生労働省「中小企業の従業員のiDeCoに上乗せ iDeCo+」

(1) 従業員の掛金に事業主が上乗せで拠出できる

 「iDeCo+」は従業員が自身で設定した掛金に上乗せして、事業主が掛金を上乗せすることができます。この方法により、従業員の老後資金形成をサポートすることができます。
 あくまで従業員の掛金に上乗せする制度のため、企業型確定拠出年金(企業型DC)等とは異なり、事業主が運営管理機関である金融機関と個別契約を結ぶ必要もありません。そのため、運用面での手間やコストが抑えられるとともに、手続きが簡易・金融機関変更や契約交渉が不要といった理由から、無理なく継続しやすい制度となっています。

(2) 事業主が拠出した掛金は全額を損金算入できる

 事業主はiDeCo+で拠出した掛金を全額損金算入することができます。損金算入できると、その金額を経費(費用)として計上できます。そのため、法人税などの課税対象となる所得を減らす効果が期待できます。

4.まとめ

 iDeCoは老後資金を形成するために個人で掛金を拠出する私的年金制度であり、税制優遇も受けられるお得な制度です。「年金を増やしながら、税金を軽減できる制度」ともいえます。また、中小企業は「iDeCo+」を導入すると従業員の掛金に上乗せでき、その全額を損金算入することができます。
 今後も制度改正により、掛金拠出限度額等が変更になる可能性があります。最新情報は随時確認するようにしましょう。

【参考資料】

・厚生労働省「個人型確定拠出年金の愛称が「iDeCo(イデコ)」に決定しました|厚生労働省」
・厚生労働省「iDeCoの概要 |厚生労働省」
・厚生労働省「「iDeCo+」のご案内|厚生労働省」
・厚生労働省「中小企業の従業員のiDeCoに上乗せ iDeCo+」
・厚生労働省「年金制度改正法が成立しました|厚生労働省」
・厚生労働省「私的年金制度の概要(企業年金、個人年金) |厚生労働省」
・iDeCo公式サイト「iDeCo 老後のために、いま、できること。イデコ」
・iDeCo公式サイト「iDeCo+(イデコプラス)とは|iDeCo+(イデコプラス) |iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】」
・iDeCo公式サイト「よくあるご質問|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】」
・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁」
・国税庁「高齢者と税(年金と税)|国税庁」
・財務省「令和7年度税制改正の大綱の概要 : 財務省」
・企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金|企業年金連合会」
・「事務所通信」2022年2月号
・TKC出版「令和7年度 すぐわかるよくわかる税制改正のポイント」

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