2025年11月25日

“カスハラ”対策が義務に! 労働施策総合推進法改正のポイントは?

“カスハラ”対策が義務に! 労働施策総合推進法改正のポイントは?

💡この記事のポイント
 ☑最大の改正ポイントはカスハラ対策の義務化!
 ☑2026年(令和8年)中までにカスハラ対策の方針を明確化し、相談窓口の設置や体制整備が必要!
 ☑2026年(令和8年)4月には「治療と就業の両立支援対策」が施行予定。

1.カスハラ防止が義務化! 労働施策総合推進法が施行されます

 2025年(令和7年)6月11日に労働施策総合推進法が改正され、カスハラ防止義務化を含む改正法が公布されました。改正法は「公布の日から起算して1年6カ月以内に施行」とされているため、遅くとも2026年(令和8年)12月中までに施行予定です。

 本改正では、いわゆる顧客から受けたカスタマーハラスメント、通称「カスハラ」に対する防止策が盛り込まれています。
 カスタマーハラスメントとは具体的にどのようなハラスメントなのか、厚生労働省は以下の3つの要素を満たすものであると定義しています。

①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、②社会通念上許容される範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境を害すること。

【参考】厚生労働省>「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内」

 このように、主に「お客様」という立場を利用して過剰なサービスを求めたり、暴言や暴力などの攻撃的な振る舞いをする人、威圧して要求を押し通す、といったケースも散見されます。このような不当で悪質なクレームをカスハラと呼びます。
 これまで会社側はこのようなクレームに対しても「顧客対応の一環」として捉え、従業員に対してフォローしない場合もありました。しかし、昨今の「働き方改革」の推進や、少子高齢化に伴う深刻な人手不足により、従業員の立場が重んじられるようになったこともあり、顧客対応のあり方も見直されています。
 顧客は、会社の成長に欠かすことのできない存在であり利益を与えてくれる存在だからこそ、どうしても強く言いづらい立場です。今回の改正では、悪質な顧客によるダメージを受けないよう従業員を守る意図があります。

2.2026年(令和8年)中に行うべき企業のカスハラ防止策に関する対応

 労働施策総合推進法にカスハラ防止策が盛り込まれたことにより、企業が行うべき対応は主に下記の3点です。いずれも厚生労働省が指針として示している内容です。

 ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
 カスハラ防止策について事業主の方針を明確化することが求められます。組織のトップがカスタマーハラスメント対策の取組の基本方針を明確化することが必要です。
 また、その内容を従業員に周知・啓発することも必要になります。この方針に沿うためには、定期的に社内における研修等を実施することで、社員間でカスハラ防止策に対する認知を上げることが必要です。

 ②相談体制の整備・周知
 本改正により、企業はカスハラに関する相談窓口の設置と体制整備を求められます。従業員が相談しやすい環境をつくることで、事業主としてもいち早く事態を把握することができます。また、その窓口を広く周知させることも必要です。相談窓口担当者をあらかじめ決めておくことも有効だといえます。

 ③発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置
 これは、事実関係の正確な確認や事案に対する対応、被害を受けた従業員への配慮、再発防止の取組等を指します。これらを総合的に行うことで、事案を解決し同じことが起こらないように措置を講じます。

【参考】厚生労働省「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内」

【参考】厚生労働省「カスタマーハラスメント対策について」

3.そもそも労働施策総合推進法ってどんな法律?

パワハラ防止を含む労働施策総合推進法をイメージした『ハラスメント』の文字と人形

 経営者にとって、人手不足が深刻化する中パワーハラスメントをはじめとした労働環境問題における従業員の離職防止を図ることは、喫緊の課題の一つです。そのためには、労働環境を支援する職場づくりが不可欠です。
 このような様々な労働環境問題に対応しているのが、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称:労働施策総合推進法)です。本法律は2020年(令和2年)に施行されました。本法律の目的については下記のように「第一章」の「総則」の中の「第一条」に記載されています。

この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。

【出典】e-Gov 法令検索
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 」

 なお、本法律は2025年(令和7年)6月に改正されました。一部は2026年(令和8年)4月から施行されます。詳細は下記の通りです。

①2025年(令和7年)6月11日施行の主な内容
(2025年(令和7年)6月4日成立、2025年(令和7年)6月11日公布)
1)職場における労働者の就業環境を害する言動に関する規範意識を醸成するための国による啓発活動
2)「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(通称:女性活躍推進法)の一部改正(基本原則と基本方針の改正)、同法律の有効期限を令和18年3月31日まで延長
3)特定受託事業者が受けた業務委託に係る業務における顧客等の言動に起因する問題に関する施策の検討(カスハラに対する対応策の検討)

【参考】厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の
充実等に関する法律等の一部を改正する法律について」

②2026年(令和8年)4月1日施行の主な内容
(2025年(令和7年)6月4日成立、2025年(令和7年)6月11日公布)
1)治療と就業の両立支援対策
2)特定事業主行動計画の変更手続の見直し
3)女性の職業選択に資する情報の公表の義務の適用拡大等

 本記事ではその改正内容を中心に解説します。

4.2025年(令和7年)の改正ポイント

 本項では、2025年(令和7年)6月11日より施行の改正点を解説します。

(1) 労働者の就業環境を害する規範意識を醸成するための啓発活動

 本改正により、従業員の労働環境問題を解決するために国が施策を講じていく旨が明記されました。
 改正の背景としては、パワハラ・カスハラ・セクハラなどのハラスメントが社会問題化し、そのことが原因で離職したりメンタル不調などにかかる従業員が増加傾向にあることが挙げられます。こうした諸問題に対して国全体で取り組むことで、さらなる悪化の抑止力になり、今後改善を図る意図があるといえます。

(2) 女性活躍推進法の一部改正、有効期限の延長

女性の職業生活における活躍推進をイメージした都市背景と人物シルエット

 労働施策総合推進法における女性活躍の推進に特化したものが、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(通称:女性活躍推進法)です。この法律についても一部改正がされました。改正されたのは基本原則と基本方針における下記項目です。

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の一部改正(改正法第4条関係)
①基本原則
女性の職業生活における活躍の推進に当たり留意すべき事項として、女性の健康上の特性を加えるものとすること。(第2条第1項関係)
②基本方針
女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針において定める事項として、職場において行われる就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な措置に関する事項を加えるものとすること。(第5条第2項第3号関係)

【出典】厚生労働省「・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の
一部を改正する法律について〔女性の職業生活における活躍の推進に関する法律〕
(◆令和07年06月11日基発第611001号雇均発第611001号) 」

 また、本法律は時限立法(一時的な事態に対応するために、あらかじめ有効期間を定めて制定される法律のこと)であり、当初は2026年(令和8年)3月末に終了する予定でした。しかし、本改正により、その有効期限が2036年(令和18年)3月末まで延長されることになりました。国内における女性管理職比率や男女の賃金格差が十分に改善されていないことが要因の一つとされ、実効性のある施策や取組の定着を今後も図る方針です。

5.2026年(令和8年)の改正ポイント

 本項では、2026年(令和8年)4月1日より施行の改正点を解説します。

(1) 治療と就業の両立支援対策

 医療技術の進歩により入院することなく通院治療のまま働き続ける人や、企業における、離職によって再就職が困難になることを恐れて治療を続けながら仕事をする人が増加していることなどを背景に、治療と就業の両立支援が新たに実施されることになります。具体的な施行内容は下記の通りです。

第八章 治療と就業の両立支援
第二十七条の三 事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によつて疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項に規定する措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針(以下この条において「治療と就業の両立支援指針」という。)を定め、これを公表するものとする。

3 治療と就業の両立支援指針は、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第七十条の二第一項に規定する指針と調和が保たれたものでなければならない。

4 厚生労働大臣は、治療と就業の両立支援指針に従い、事業主又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

【出典】e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

(2) 特定事業主行動計画の変更手続の見直し

女性活躍推進法の改正で見直しが求められる特定事業主行動計画をイメージしたブロックとノート

 本改正では、「女性活躍推進法」における「第三節 特定事業主行動計画」の第十九条の3と4内で、下記下線箇所に「又はその変更(内閣府令で定める軽微な変更を除く。)」が追加されました。内閣府令で定める軽微な変更以外は、情報公表を義務付ける旨が明記されています。

第十九条
3 特定事業主は、特定事業主行動計画を定め、又はその変更(内閣府令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは、内閣府令で定めるところにより、採用した職員に占める女性職員の割合、男女の継続勤務年数の差異、勤務時間の状況、管理的地位にある職員に占める女性職員の割合その他のその事務及び事業における女性の職業生活における活躍に関する状況を把握し、女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情について分析した上で、その結果を勘案して、これを定めなければならない。この場合において、前項第二号の目標については、採用する職員に占める女性職員の割合、男女の継続勤務年数の差異の縮小の割合、勤務時間、管理的地位にある職員に占める女性職員の割合その他の数値を用いて定量的に定めなければならない。
4 特定事業主は、特定事業主行動計画を定め、又はその変更(前項の内閣府令で定める軽微な変更を除く。)をしたときは、遅滞なく、これを職員に周知させるための措置を講じなければならない。

【出典】e-Gov 法令検索「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」

(3) 女性の職業選択に資する情報の公表の義務の適用拡大等

 下表のように、一定以上の規模を持つ企業には「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」をベースに、女性の職業選択に関する情報を公表することが義務付けられました。

企業規模改正前改正後
301人以上男女間賃金差異に加えて、2項目以上を公表男女間賃金差異及び女性管理職比率に加えて、2項目以上を公表
101人~300人1項目以上を公表男女間賃金差異及び女性管理職比率に加えて、1項目以上を公表

【出典】厚生労働省「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内

 本改正により、公表義務が生じる企業において情報公表数が増加することになります。なお、100人以下の企業については努力義務となります。
 情報公表企業の範囲が広がった背景としては、男女間賃金差や女性管理職の割合についての格差を解消するのが主な目的です。公表企業の幅を広げることで、企業の現状をさらに可視化することが可能になり、女性のさらなる活躍推進を図る狙いがあります。

6.まとめ

 労働施策総合推進法は、「従業員をハラスメントなどの労働環境問題から守るための法律」です。今回の改正におけるカスハラ防止策では企業に対応が求められる場合がありますので、あらかじめ確認し準備を進めておくことが重要です。また、本法律の内容を詳しく知り従業員をハラスメント等から守っていくことが企業の役割ともいえます。従業員にとって、よりよい労働環境にするためには何が求められるのか、今回の改正を機に理解を深めておきましょう。

【参考資料】

・厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について|厚生労働省
・厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要
・厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年6月11日付)
・厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業 生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年9月8日付)
・厚生労働省「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内
・厚生労働省「カスタマーハラスメント対策について
・厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について〔女性の職業生活における活躍の推進に関する法律〕(◆令和07年06月11日基発第611001号雇均発第611001号)
・e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 | e-Gov 法令検索」「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律 | e-Gov 法令検索
・「事務所通信」2025年6月号

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