静岡県内で炭火焼きが特徴の居酒屋を2店舗経営するココロオドル。同社の永田尚路社長は、腕の良い料理人としての顔と、変動損益計算書を毎日チェックする経営者としての顔を合わせ持つ。巡回監査を担当しているしん会計事務所の小田泰佑氏を交え、TKCシステムの活用状況や経営戦略について聞いた。
──ご経歴と経営のモットーを教えてください。
永田尚路社長 26歳で飲食業界に飛び込んでから、ずっと居酒屋で働いてきましたが、4年前に独立を果たしました。「よいものをいかに安く顧客に提供できるか」を追求することで、他社との差別化を図っています。

永田尚路社長
──店舗とメニューの特徴を教えてください。
永田 袋井市の初号店『炭焼きと酒スタンド ナナマルヤ(七丸家)』、今年5月に2店舗目としてオープンした浜松市の『SUMI base やおや』ともに、炭火焼き料理が看板料理です。ナナマルヤは炭の上で焼く一般的な炭火焼きで、やおやは囲炉裏のように炭火の周りに串を刺して焼くのが特徴です。幅広いお客さまにご利用いただいており、客単価は4,500円前後でしょうか。客席数はナナマルヤが最大50席程度、やおやが同40席程度になります。
──飲食店の経営では売上高に占める食材費と人件費の比率(FL比率)が目安になるとされますが、御社の場合はいかがでしょう?
永田 通常の飲食店は、まず原価率と人件費率を抑えることを考えると思いますが、私は真っ先に売り上げを上げる努力をします。分母が増えればFL比率も下がりますからね。またFL比率の目安は食材原価30%、人件費30%といわれていますが、当社ではお客さまにできる限りよいものを食べていただくため、食材原価を40%くらいと高めに設定しています。その一方で、オペレーションの工夫により人件費率を下げる努力をしています。
──人件費率を下げるにはどうしていますか。
永田 とにかく少人数でフロアをまわす工夫をしています。例えばメニューの注文は、QRコードを読み取ってスマホでお客さま自ら行ってもらうやり方を採用しています。また配膳するスタッフ、ドリンクを入れるスタッフなど役割分担を明確にすることで、別々のスタッフで同じ作業が重複し待ち時間が発生してしまうことのないようにしました。時間のロスを防ぐこうした小さな工夫の積み重ねで、両店とも少人数で運営できる店舗になっていると思います。確かに1人当たりの仕事量は多いかもしれませんが、その分、時給を高めに設定しています。
小田泰佑氏 『賃金BAST』の同じ業種、同じ規模の企業平均と比べると確かにやや高い水準になっています。また居酒屋業界のスタッフの離職率は高いのが普通ですが、同店では学生の卒業や就職などをきっかけに退職するときなどをのぞき、ほとんど辞める人はいません。それぞれの個性を尊重し一定の裁量権を付与しているので、皆のびのびと働いている印象を受けています。

コンクリート打ちっぱなしと和のテイストを融合させた店舗デザイン
1.正確な財務データをもとに適時適切に値上げを判断
──SNSの発信にも力を入れているとか。
永田 2店舗ともに人気メニューになっているのが、「おすすめ日替わり料理」。シェフが独自に考案した創作料理をオープン30分前くらいにインスタグラムにアップしています。やおやの料理を担当している私も、その日のインスピレーションに応じてメニューを考えています。
──修業時代から会計に興味を持っていたそうですね。
永田 もともと数字で確認するのが好きなタイプで、独立前に勤務していたある店舗の料理長を任されていたときに、売り上げや原価率、人件費率を常に確認する癖がつきました。数字でしっかりと裏付けをとれれば、社長に「これだけ利益が出ているのだから、スタッフのみんなにもっとボーナスを出せるのではないか」と言うことができますからね(笑)。当社でも月1回の職員会議では、売り上げ予想に基づき原価、人件費、1日当たりの人件費の目標値を公表し、両店舗で毎日その数字と実績を比較しながら目標値を達成できるよう努力しています。
小田 永田社長は毎日《365日変動損益計算書》の画面を開いて、原価率や人件費率に異常が発生していないかチェックしています。その数字をもとに月に1回「職員会議」を開催し、値上げの判断などを行うようにしています。飲食業界は競合が厳しいので、本来は値上げの判断は非常に怖いことです。数字に基づいたしっかりとした根拠があるからこそ、適切なタイミングに適切な値上げができるのです。

小田泰佑氏
──変動損益計算書を毎日チェックされているのはすごいですね。
永田 大企業など経理体制が充実している会社は毎日数字の変動をリアルタイムで把握しているのに、私たちのような小さな企業がやらないでいいはずがないと思っています。月に1回の業績確認でも間隔が空きすぎて不安になります。最低週に1回、できれば毎日確認しなければ安心できません。
小田 できるだけ頻繁に業績をチェックしたいという社長の要望に応える形で、仕入れの仕訳入力は請求書ではなく納品書ベースで行っています。
2.店舗別の業績管理で異常値に素早い対応
──2店舗目を立ち上げるタイミングで、『FXまいスタークラウド』から『FX2クラウド』に切り替えられました。理由についてお聞かせください。
永田 スリランカ出身で抜群の料理の腕前を持つ社員が店長を務めているナナマルヤ(袋井市)と、私が店長をしているやおや(浜松市)は車で40分程度離れています。物理的に距離が離れているナナマルヤの毎日の数字の動きだけでも正確に把握しておきたいと考え、クラウドを通じて店舗別の業績管理が行える『FX2クラウド』の導入を決めました。
──部門別業績管理をどのように経営に生かしていますか。
永田 ナナマルヤの原価率が、全社で目安に設定している値を大幅に超えてしまうことがあります。店長に確認してみると、在庫を抱えすぎてしまっているのが原因であることがほとんど。想定値を超えた分の在庫調整をしなければなりませんが、一気にすることはできないので、毎日少しずつ落としていくことになります。
──仕訳入力の効率化についてはいかがでしょう?
永田 納品書ベースで入力しているので、月の仕訳数はだいたい700くらいでしょうか。AIを使った「証憑からの仕訳計上機能」、銀行やカード会社との取引データをインターネットで自動受信する「銀行信販データ受信機能」などで効率化できているので、そんなに負担には感じていません。
──月次巡回監査の流れをお聞かせください。
小田 仕訳の内容は事務所で確認してから会社におうかがいし、業績の報告をさせていただいています。前年同月との比較、予算と実績との比較を中心に詳細な報告をして巡回監査を完了するのですが、その後社長のスマホに「月次決算速報サービス」により送信される業績データもよくご覧いただいています。同サービスのコメント欄にはなかなか手厳しい文章が書かれているときもあって、例えば昨年法人成りしたタイミングには「限界利益率が低下した」とコメントされていました。すぐに永田社長から「大丈夫か」と電話がありました。その際は「法人成りで引き継いだ資産が理由で一時的に原価率が上昇したもので、心配ないでしょう」とお答えし、安心していただきました。巡回監査における報告の補足資料として、有効活用していただくとともにコミュニケーションのツールにもなっていると感じます。
──今後の目標を教えてください。
永田 スリランカ出身の方がもう1人、現在ビザの申請中で正社員として入社予定です。ゆくゆくはさらに増員する計画で、それにともなって店舗数も増やしていきます。地域の客層に合わせて既存の2ブランドを使い分け、遠州エリア5市(磐田市、掛川市、浜松市、袋井市、菊川市)すべてで1店舗以上出店するのが目標です。
(取材協力・しん会計事務所/本誌・植松啓介)
名称 | ココロオドル株式会社 |
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業種 | 飲食業 |
設立 | 2024年1月 |
所在地 | 静岡県袋井市高尾町12-6 |
従業員数 | 20名(パート含む) |
顧問税理士 |
しん会計事務所
顧問税理士 進史雄 静岡県袋井市堀越1-10-6 URL: https://www.mytaxpro.jp/eqamsd615tte |
掲載:『戦略経営者』2025年9月号

記事提供
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