2025年10月06日

不動産所有が相続税対策になるのはなぜ?

不動産所有が相続税対策になるのはなぜ?

💡この記事のポイント
 ☑土地や建物は時価ではなく国税庁や市町村が定めた評価方法で財産評価するため、時価に比べて低い評価額となり、現金で相続する場合と比べて相続税が節税できる。
 ☑賃貸物件としての活用や、小規模宅地等の特例の活用により、さらなる評価額減額を見込める。
 ☑相続税以外の面でのメリット・デメリットも考慮しつつ、不動産活用による相続税対策の検討が大切。

1.はじめに

 相続が起きると、一部を除いてすべての相続財産が相続税の対象となります。このとき、相続財産は死亡時の時価で評価されますが、時価を把握するのは困難であることから、通達では財産の種類ごとに評価方法が定められています。例えば、現金や預貯金はそのままの額面で、有価証券や骨とう品などは死亡時の取引価格等で評価されます。
 土地・建物も取引価格かと思えばそうではなく、国税庁が定めた計算式を用いることとされています。よって、計算式を用いて算出された評価額が取引価格より低い額ならば、取引価格と同額の現金を持っていた場合と比較すると、課税される相続税は少なくなることになります。
 当記事では、土地・建物で相続することによって相続税額にどのような影響があるか、土地・建物の評価方法を紹介しています。また、税金面以外で不動産相続のメリット・デメリットも挙げていますので、不動産を用いた相続税対策を検討する上での参考にご一読ください。

2.不動産所有が相続税対策になる?

 相続税は、相続で取得した財産に課税される税金です。現金ではない財産であれば、国税庁が定める方法によってその財産の評価を行い、税額を決めるための財産評価額を算出します。例えば5000万円の現金と、時価(公示価格)5000万円の宅地を相続で取得した場合、財産評価の際に、現金はそのまま5000万円の評価となりますが、宅地は時価での評価はされず、「路線価」や「固定資産税評価額」等を用いた評価方法によって評価されます。
 相続で取得した土地・建物の評価方法は以下のとおりです(詳しい算出式は「4.」を参照ください)。

評価方法
土地
  1. 市街地およびその周辺の土地……路線価方式
  2. 上記①以外の土地…………………倍率方式
  3. 一部のマンションの土地等……評価乖離率を利用した方式
建物
(自用家屋の場合)
固定資産税評価額 × 1.0
すなわち評価額は固定資産税評価額と同じ額になる。

 土地の評価に用いられるもののうち、「路線価」や「評価倍率」は、国税庁が全国の民有地(公共の所有ではない土地)について、土地等の評価額の基準として定めた値で、毎年7月1日に公開しています。その年分の「路線価」「評価倍率」はその年の1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などが考慮されており、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています。
 また、土地の倍率方式や家屋の評価に用いられる「固定資産税評価額」は、市町村が、国の定めた固定資産評価基準に則って土地や家屋を評価し決定する額です。平成6年度評価替えから、宅地の場合は時価(公示価格)等の7割を目途に評価するとされています。
 このため、例えば5000万の現金と、時価5000万円の宅地を相続で取得した場合、財産評価の際に、現金はそのまま5000万円の評価となりますが、宅地は定められた算出方法によって5000万円よりも低く評価されることになります。
 すなわち、現金で相続するよりも土地・建物で相続をするほうが課税される相続税が減額されるため、一般的に土地・建物を所有することは相続税対策となるといわれます。

3.不動産を活用した相続税対策とは

(1) 現金ではなく土地・建物で相続

 2.で述べたように、土地・建物で相続することが相続税の節税となります。
 土地・建物を所有している場合は現金化しないままのほうが相続税対策となります。また、新たに土地・建物を買う場合であれば、相続税評価額と時価の差が大きいものほど、相続税の節税が見込めます。ただし、相続税対策としての購入は税務署に指摘される場合もありますので注意が必要です。

(2) 賃貸物件として活用すればさらに効果あり

 土地を他人に貸しており、その土地の上に他人の建物が建っている場合(貸宅地)は、一般に建物の所有者に借地権が生じます。借地権とは、建物を建てるために土地を借りる権利です。地主にとっては自分の土地であっても自由に処分することができない状態です。こうしたケースでは、財産評価は自用地評価額から借地権割合を控除して評価されます。すなわち自用地評価額よりも減額された額となります。
 また、土地の上に地主所有の賃貸アパート等がある場合(貸家建付地)は、地主にとって土地の使用収益権が一部制限されている状況になっており、同じく評価額が減額されます。
 貸している建物そのもの(貸家)も、借家権割合を考慮して、評価額が減額されます。
 このように、貸宅地、貸家建付地、貸家は、自用地として相続する場合と比べて評価額を抑えることができます。何も建物がない状態の遊休地がある場合には、アパートなどを建築して土地の有効活用を検討するとよいでしょう。

(3) 小規模宅地等の特例の利用で評価額の50~80%減額

 相続後も同一生計であった家族が同じ家に住み続ける場合には、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例の対象となります。特定居住用宅地等に該当すれば、宅地の評価額から80%が減額され、大幅な節税が見込めます。
 また、この特例は事業で用いている宅地についても、一定の要件を満たせば適用対象となります。自営業で店舗や事務所、倉庫等を所有していて特例事業用宅地等に該当する場合は、宅地の評価額から80%が、宅地や駐車場等を貸し付けていて事業用宅地等に該当する場合は、宅地の評価額から50%が減額されます。要件や適用上限面積などの詳細は、国税庁ウェブサイトでご確認ください。

4.土地・建物の評価方法とは

 ここで、土地・建物の評価方法について、主なものを紹介します。相続時の評価額を今知ることは厳密にはできませんが、今もし相続が起こった場合にどのように評価されてどのくらいの評価額になるのかを調べてみることは、財産の内容の見直しにも役立ちます。
 なお、土地・建物の評価は、地域的な条件に加え、広さや奥行、接する道路(公道・私道)などさまざまな要素を加味します。概算ではなく詳しい評価を望む場合には、税理士にご相談ください。

(1) 宅地(自用地)の評価方法

 宅地(自用地)の評価方法には、一般的に、「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方式があります。

路線価が定められている場合(市街地およびその周辺の土地)
●路線価方式
 まず、路線価と土地面積で評価額を算出
 次に、土地の形状等などによる加算・減算を行う

路線価が定められていない場合(上記以外の土地)
●倍率方式
 固定資産税評価額と評価倍率表で評価額を算出

① 路線価方式

 路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。その宅地が面している道路につけられた価額(路線価)をもとに評価額を計算します。
 路線価方式による評価では、路線価図を用います。道路上に、数字が矢印に挟まれるように記載されています。この数字が路線価を表し、1㎡当たりの価額が千円単位で表示されています。
 下記の路線価図では、○で囲まれた道路に正面が面している土地(宅地)があった場合、その正面路線価は1㎡当たり47万円となります。これに土地の形状等による加算・減算を行うことで、最終的な評価額が決まります。

〈路線価図の一例〉

路線価図の一例
(出典:『Q&A相続税のきほん~申告までの10カ月でしなければならないこと~』(監修:TKC全国会資産対策研究会、TKC出版))

<加算例>・2つの道路に面している(角地など)
<減算例>・間口(道路に面する部分)が狭い
     ・土地の中に崖などが含まれる
     ・奥行が異常に長い(短い)
     ・土地の形が三角形など

 例えば、もし路線価の定められた道路に面した自用宅地を2つに分割できる場合、旗竿地をつくればその分の評価額は下がり、道路に面した宅地も貸宅地にするなどの区分変更を行うことで評価額を下げることが可能です。

② 倍率方式

 路線価が定められていない土地は、その土地の固定資産税評価額に国税局長等が一定の地域ごとに定めた倍率を乗じて計算します。倍率は、評価倍率表により公開されます。

(注) 路線価や倍率方式で使用する倍率については、国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)で閲覧できる「路線価図」や「評価倍率表」で確認してください。固定資産税評価額は、市町村の税務課(東京23区では都税事務所)で調べることができます。

(2) 家屋(自用)の評価方法

 自用の家屋は、固定資産税評価額に1.0を乗じて評価されます。すなわち、固定資産税評価額と同じ額となります。一部の自用マンションの評価は(4)を参照ください。

(3) 貸宅地・貸家・借地権・借家権の評価方法

 貸宅地、貸家建付地、貸家は、以下のように自用地評価額から借地権割合等を控除して評価します。

① 貸宅地の評価方法

⚪︎貸宅地の評価額=自用地評価額×(1−借地権割合)
 借地権割合は、路線価図や評価倍率表によって、地域ごとに定められており、路線価図では価額の後にアルファベット(A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%)で表示されています(上記の路線価図の一例を参照)。

<例>
自用地評価額が1億円、借地権割合が70%のとき
貸宅地の評価額:1億円×(1−0.7)=3,000万円

② 貸家建付地の評価方法

⚪︎貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
<例>
自用地の評価額が1億円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合90%のとき
貸家建付地の評価額:1億円×(1−60%×30%×90%)=8,380万円

③ 貸家の評価方法

⚪︎貸家の評価額=固定資産税評価額※×(1−借家権割合×賃貸割合)

(4) 評価乖離率に応じた自用マンションの評価方法

 以下は、マンションの評価額と実際の市場価格との乖離を是正するための評価方法です。「築年数」「総階数」「所在階」「敷地持分狭小度」をもとに算出される評価乖離率に応じて、区分所有補正率を乗じて評価します。
⚪︎一室の区分所有権等に係る敷地利用権の評価額
 =自用地評価額×区分所有補正率
⚪︎一室の区分所有権等に係る区分所有権の評価額
 =自用家屋の評価額×区分所有補正率

区分所有補正率
(出典『Q&A相続税のきほん~申告までの10カ月でしなければならないこと~』(監修:TKC全国会資産対策研究会、TKC出版))

5.相続税の節税以外の不動産相続のメリット・デメリット

 最後に、相続税対策以外の面で不動産所有やその相続にどのようなメリットやデメリットがあるのか、主なものを紹介します。不動産を活用した相続税対策を行ううえで、広い視野で見たメリット・デメリットを把握しておくことは重要です。こんなはずではなかった、多く相続させたかったのにトラブルが起こってしまった、などとならないために、不動産を相続する際の注意点を押さえておきましよう。

(1) 不動産所有・相続のメリット

① 資産価値の維持・向上が見込める

 土地や建物は、長い目で見ると価値の上昇が見込めます。現金のまま所持しているとインフレによって1円当たりの価値が下がってしまうため、資金に余裕があれば物にしておくほうが価値の目減りを回避することができます。

② 売却時にキャッシュインフロー拡大

 単純に、土地や建物は売却すれば手元に現金が増えます。万が一、相続の前に多くの現金が必要になった場合は売却という手段を選ぶことが可能です。また、相続後にそのまま居住せず売却をして相続人の今後の生活資金・事業用資金に充てることもできます。

③ 賃貸物件ならば継続的な収入がある

 土地や建物を他人に貸していれば、地代や家賃として継続的な収入が見込めます。年齢や持病によって退職していても安定した収入源が確保できていることは、精神的な余裕も持つことができます。

(2) 不動産所有・相続のデメリット

① 維持管理コストの負担がある

 土地や建物には固定資産税がかかります。賃貸物件として活用するならば、建築時に負担したローンの返済や、計画的な修繕、入居者の募集などにも資金が必要です。
 また、相続後に誰も住まない空き家となってしまうと、崩壊の危険性や、犯罪に利用される可能性も出てきます。
 デメリット緩和策の一例として、コストも含めた計画を立てることも大切です。

② 共有名義者間でトラブルが発生する可能性がある

 遺産分割で、相続した不動産を複数の相続人で共有することは可能ですが、売却するにも回収するにも共有者全員の同意が必要となり、意見がまとまらないとトラブルになることが十分考えられます。
 分割共有を極力避けること。また、平等もしくは相続人同士が納得する遺産分割をあらかじめ想定しておくようにしましょう。

③ 流動性が低い

 売却したいときにすぐに買い手が現れないために、なかなか現金化できないという不便さがあります。また、取引自体に手間がかかることから、早くても現金化までに数カ月かかることが一般的です。
 不動産の流動性の低さを理解したうえで活用を行いましょう。もし現金が必要になったときのために、不動産以外で確保できる手段を講じておきましょう。

④ 価格変動リスクがある

 土地や建物のある地域の状況や金融情勢によって取引価格の高騰・急落が起こることがあります。突然の変動でなくとも、人口が減るなどして買い手がつきにくくなれば取引価格は徐々に下落していくでしょう。
 あらかじめ想定しておくことも必要ですが、いざ価格変動が起こり想定を超えるようなものだった場合はどのように処理するか「終わらせ方」を決めておくとよいでしょう。

6.まとめ

 当記事では、相続税対策のセオリーとされる「不動産を活用すれば相続税対策になる」のはなぜか、そのしくみを解説するととともに、財産評価方法と評価減となる対策例について取り上げました。最後は不動産相続のデメリットも紹介しましたが、不動産は相続税対策として活用すると、確かに大きな効果が見込めます。高額であるためデメリットを十分に理解し、相続人となる家族と話し合ったうえで活用していくことが大切です。

参考文献

・『Q&A相続税のきほん~申告までの10カ月でしなければならないこと~』(監修:TKC全国会資産対策研究会、TKC出版)
・『令和6基準年度 固定資産税評価のあらまし―土地・家屋―』(一般社団法人資産評価システム研究センター)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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