会議等で、新聞記事を紹介することがあります。先日、新聞記事の無断コピーにより経営者が書類送検された事件がありましたが、著作権について改めて教えてください。(建築設計業)
2025年5月、東京のコンサルティング会社による著作権侵害事件が報道されました。新聞・雑誌記事約1万3,000本を無断でコピーし、社内で利用した件で、書類送検されたという内容です。日々の情報収集は企業活動に不可欠です。しかし、その方法には、著作権法による制限があります。
まず、同法で制限されているのは、無断コピーです。同法第21条によれば、著作権者だけが自身の著作物を複製できます。著作物を許可なくコピーすると、法律違反になります。また、同法第23条に公衆送信権が規定されており、無断コピーしたデータを社内イントラネットや、クラウドサーバーにアップロードすることも制限されます。
これらの権利を侵害した場合には、民事上の差止請求、損害賠償請求だけでなく、最高10年以下の拘禁刑、法人の場合には最高3億円以下の罰金刑適用の可能性があります。同法で、コピーが許されるのは、個人的、家庭的な場面に限定されています。会社内でコピーデータを共有するのは、一線を超えていて認められません。
そして、同法第10条には、事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道は、著作物に該当しないとの規定があります。一方で、解説文章はこの規定に該当しない場合があります。したがって、ニュースだからコピーできると考えるのは危険です。
URLの共有にとどめる
さらに、同法第32条には、著作物を引用して利用することについても規定されています。引用が認められるのは、引用される著作物に対し、引用する側の著作物が主体である等の条件があり、一定の範囲で引用が認められるに過ぎません。
例えば、内容を理解した上で、コピー元の文章を閉じて、自分なりに理解した内容をアウトプットした場合には、原則としてコピーとはいえず、著作権法違反にはなりません。ただし、これも程度の問題であり、コピー元とあまり変わらないなら、複製権の侵害に問われることがあります。経営者は以下のようなルールを作成し、社内でいま一度共有する必要があります。
- ○著作物を利用する場合には、法人プラン等を契約し、利用規約に従うことを徹底する
- ○情報共有は、元記事のインターネットURLの共有にとどめ、文章の内容はコピーしない
東京のコンサルティング会社による著作権侵害事件が刑事事件に発展したのは、1万件を超える無断コピー案件があったことも背景にあります。この規模になると、もはやうっかりミスのレベルではなく、組織的な違法行為があったと指摘されても反論が困難です。一社員が起こした事件ではなく、会社ぐるみの違法行為となると、ビジネスの継続もむずかしくなります。また、デジタルタトゥーとして、インターネット上に事案が残りつづける懸念もあります。
今回の事件を一つの教訓に、社内に問題の芽がないかチェックするところから始めるのが肝要です。
掲載:『戦略経営者』2025年9月号

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