2025年09月29日

2026年(令和8年)1月施行! 改正下請法の概要と留意点

2026年(令和8年)1月施行! 改正下請法の概要と留意点

💡この記事のポイント
 ☑54年ぶりの大改正となる下請法が2026年(令和8年)1月から施行予定。
 ☑発注者には、これまで以上に公正な取引が求められるようになる。
 ☑受注者は、発注者と対等な立場で価格転嫁等の交渉がしやすくなる。

1.下請法とは

 下請法(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)は、発注者と受託者間で取引される委託取引の公正化および受託者の利益保護を目的とした法律で、1956年に施行されました。そして2025年(令和7年)5月16日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立、法律の名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)」へと変更されました。施行日は2026年(令和8年)年1月1日です。1962年(昭和37年)以来、54年ぶりの大きな改正になります。
 改正前の下請法でも、委託事業者が守らなければならない義務項目や、同じく委託事業者が行ってはいけない禁止行為を定めていました。今回の改正で、新たな禁止行為が追加され、さらに規制対象が拡大。委託取引にかかる規定がより厳格化されました。

(1) 対象取引

 「改正下請法」が適用される取引には、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4種類があります。下記に具体例を示します。

①取引の内容

製造委託 機械メーカーから部品メーカーへの委託など。(事例)スマートフォンやPCなどの電子機器メーカーが、基板、ディスプレイ、バッテリーなどを部品メーカーに委託する。
修理委託 自動車販売会社から修理業者への委託など。修理の対象は元来の機能を失った物品を指す。(事例)冷蔵庫メーカーが、顧客から冷蔵庫の修理を請け負い、その修理を地元の家電修理業者に委託する。
情報成果物作成委託※ 一般企業からデザイン会社・制作会社への委託など。情報成果物とは、例えば、ゲームソフトやアニメ、設計図やポスターなどを指す。(事例)企業が自社のWebサイト制作をWeb制作会社に委託する。
役務提供委託※ 大手物流会社から運送業者への委託など。修理委託と違い、元来の機能を保有している物品は「役務提供委託」の対象になる。「点検」や「メンテナンス」が含まれる場合がある。
(事例)建設会社が建物の設計を請け負ったが、一部の業務を建築設計事務所に委託する。

※一部、製造委託や修理委託に該当するケースあり

(2) 対象事業者

 改正下請法では、同法の規制を受ける事業者を「委託事業者」、同法で守られる事業者を「中小受託事業者」と呼んでいます。それぞれの定義は次のとおりです。

①事業者(資本金区分)

委託事業者 中小受託事業者
製造委託・修理委託の場合 資本金3億円超 資本金3億円以下
(個人含む)
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下
(個人含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託の場合 資本金5千万円超 資本金5千万円以下
(個人含む)
資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下
(個人含む)

(3) 4つの義務と11の禁止行為

 「対象取引」と「対象事業者」に合致した場合、委託事業者が守らなければならない「4つの義務」と、行ってはならない「11の禁止行為」が発生します。

①4つの義務

 それぞれ詳細を見ていきます。

1)書面の交付等の義務 委託事業者は発注時に中小受託事業者に対し発注内容、取引条件等を書面に記載・交付し、後々「言った」「言わない」のトラブルを未然に防止することが目的である。電子メール等の電子データの形で作成・交付することも認められている。
2)書類作成・保存義務 委託事業者は中小委託事業者との取引内容について、公正取引委員会の規則で定めている事項を記載した書類を作成、保存する義務がある。電子データでの作成・保存も可。
3)支払期日を定める義務 中小受託事業者から役務を受領して60日以内(受領日を参入)のできる限り短い期間内で、期日を定めなければならない。例えば、「納品後○日以内」「○月○日まで」という表記は「支払期限」を定めているもので、具体的な期日を特定できないため認められない。月単位の締切制度を採用した「毎月末日納品締切、翌月○日支払」等は日付が特定できるので認められている。
4)遅延利息の支払義務 取引の性格から、自主的に遅延利息を約定することが難しいため、中小受託事業者の利益保護の観点から設定された。年率14.6%を支払う義務があり、民法や商法、当事者間で合意した利率に優先して適用される。
【出典】「はじめて学ぶ下請法」(株式会社商事法務、2017年) 「Q&Aこれで社長も安心!取引のルールとポイント―改正下請法・フリーランス法対応版―」(TKC出版)

②11の禁止行為

下請事業者に対する11の禁止事項

 たとえ中小受託事業者の了解を得ており、委託事業者に違法性の意識がなくても、下記の禁止行為を行うと法律違反になるため注意しましょう。

1)受領拒否の禁止 委託事業者は注文した商品を中小受託事業者の納品時に中小受託事業者に責任がある場合を除き、受取を拒むことはできない。
2)代金の支払遅延の禁止 中小受託事業者にとって委託事業者からの支払いが遅れることは、場合によっては事業経営にも深刻な問題を引き起こす可能性がある。
3)代金の減額の禁止 発注時に委託事業者と中小受託事業者の間で決定した代金を発注後に減額することを禁止する。仮に事前に書面等で中小受託事業者から同意を得ていても減額は禁止されている。
4)返品の禁止 委託事業者は一度受領した商品について、中小受託事業者の不備等による責任がある場合を除き、委託事業者の都合で中小受託事業者に返品してはならない。
5)買いたたきの禁止 委託事業者が取引上強い立場を利用して、中小受託事業者に不利益になる価格設定を行うことを禁止している。買いたたきに該当するか否かの基準は市場や従前の取引価格との比較や当該価格で取引しようとする他事業者が存在するかなどを勘案して判断される。
6)購入強制・役務の利用強制の禁止 委託事業者にとっては「要請」でも、中小受託事業者にとっては「強制」と受け取ることもある。どのような場合でも「強制」と評価されることに可能性を留意する必要がある。
7)報復措置の禁止 中小受託事業者が委託事業者の改正下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に対して知らせたことを理由に、取引を減らしたり停止することなどを禁止している。
8)有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 委託事業者が原材料の代金回収を早く進めてしまうと中小受託事業者の資金繰りに負担をかける可能性があるため、原材料を使用した商品代金の支払いよりも早く行うことを禁止している。
9)割引困難な手形の交付の禁止 手形の支払期日に決済されることを前提に行われる手形割引。しかし、振出人の信用状況、手形期間等によって中小受託事業者が金融機関に割引を申し込んだ際に割引自体を断られ支払遅延となる場合がある。そのため、高額割引を求められる手形を交付することは割引困難な手形の交付として認められない。
10)不当な経済上の利益の提供要請の禁止 金銭や労働力の提供、知的財産権等の権利を譲渡させるなどで中小受託事業者に経済的負担を強いることを禁止している。
11)不当な給付内容の変更・やり直しの禁止 委託事業者の都合で中小受託事業者に追加作業を指示する場合に発生する人件費、材料費等を中小受託事業者に負担させてはならない。
【参考】「はじめて学ぶ下請法」(株式会社商事法務、2017年)

 委託事業者が違反行為をしている場合、公正取引委員会が原状回復を求めるとともに再発防止策を講じるよう勧告し、原則として事業者名と違反事実の概要等を公表することとしています。書面の交付等の違反をしたときは最高50万円の罰金が科せられます。実際に2024年(令和6年)に大手中古車販売・買取会社とその子会社が中小受託事業者に対して書面を交付せず、口頭やメッセージアプリで発注していたため、公正取引委員会から指導を受けています。

2.改正された背景と主な改正内容

中小企業保護を目的とした下請法改正の説明に関連するイメージ。赤ペンとチェックマークで「改正」を強調。

 改正に至った理由として、公正取引委員会と中小企業庁は下記のとおり公表しています。

■下請法改正の背景・趣旨等
・近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要。
・中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要。
・例えば、協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押しつける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁をさらに進めていくため、下請法の改正を検討してきた。

【出典】令和7年5月 公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要
(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律)」

 具体的には下記のように、主に6点の改正が行われました。

 主な改正内容
①協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
 中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定を新設する。

②手形払等の禁止
 支払手段として手形等を用いることにより、発注者が受注者に資金繰りに係る負担を求める商慣習が続いている。中小受託事業者の保護のために手形払を認めないこととする。また、電子記録債権やファクタリング等についても、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段を禁止する。

③特定運送委託の対象取引への追加
 立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなどの問題が顕在化していることから、発荷主が運送事業者に対して物品運送を委託する取引を「特定運送委託」として対象となる取引に新たに追加する。

④従業員基準の追加
 運用実績、取引の実態、事業者にとって分かりやすさ、既存法令との関連性等の観点から従業員数300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)を基準とする。

⑤面的執行の強化
 中小受託事業者が申告しやすい環境確保のため「報復措置の禁止」の申告先に、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え事業所管省庁の主務大臣を追加する。

⑥「下請」等の用語の見直し
 用語について、「親事業者」を「委託事業者」 、「下請事業者」を「中小受託事業者」 、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改正する。法律名も、「下請代金支払遅延等防止法」を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正する。

3.中小企業として備えておきたい対策

中小企業の立場に応じた事前準備や対応策を説明する文脈に合わせた「対策」のイメージ。

 中小企業は、自社が「委託事業者」と「中小受託事業者」のどちらかになる可能性があります。本改正を受け、それぞれの立場でどのような対策をすればよいか事前に確認しておきましょう。

(1) 委託事業者としての対策

①新たに対象となる取引等の確認
 運送事業者への委託など、これまで対象ではなかったものの、本改正により新たに対象となる取引がないか確認しましょう。従業員基準の新設により、自社が新たに改正下請法の適用対象となるケースもあるため注意が必要です。

②取引先に提出する書類の見直し
 契約書や発注書など、中小受託事業者へ提出する書類について、「受託者の役務の内容」「支払期日・支払方法」など、必要な項目が網羅されているかきちんと見直しましょう。

③支払い手段の変更
 本改正で禁止された手形払いやファクタリングを利用している場合、現金払いや適切な電子決済手段への移行を進めましょう。

【出典】事務所通信2025年6月号デジタル版「『改正下請法』で対象取引の範囲が拡大! 中小企業への影響を確認しよう!」

(2) 中小受託事業者としての対策

①契約条件の確認
 すでに行われているものを含め、委託事業者との取引を見直しましょう。違反している内容や、不明確になっている内容があれば、確認・交渉の場を設ける必要があります。

②根拠資料の準備・価格交渉
 最低賃金の上昇率、原材料の仕入れ価格の上昇率など、根拠となる資料の準備をした上で、委託事業者との価格交渉に臨みましょう。

③相談窓口の活用
 国や地方公共団体、中小企業の支援機関の相談窓口に相談するなどして、労務費上昇分の価格交渉の仕方について、積極的に情報収集を行いましょう。

(3) 法律違反の事例

 実際にはどのような違反事例があるのか、2025年(令和7年)の事例を挙げます(旧下請法における違反事例)。

①A社の事例(違反内容:代金の減額)

1)A社は、資本金額が3億円以下の法人事業者に対し、自社の店舗等で販売する家庭用電気製品等の製造を委託している(これらの事業者を以下「下請事業者」とする)。
2)A社は、2023年(令和5年)7月から2024年(令和6年)8月までの間、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じていた。減額した金額は、総額約5億5,700万円である(下請事業者51名)。
3)公正取引委員会が勧告を行ったことで、A社は2025年(令和7年)2月中までに下請事業者に対し前記2の行為により減額した金額を支払っている。

【出典】公正取引委員会「下請法違反事件関係」「令和7年 | 公正取引委員会

②株式会社B社の事例(違反内容:不当な経済上の利益の提供要請)

1)B社は、資本金額が3億円以下の法人事業者に対し、自社が製造を請け負う自動車部品(以下「本件製品」という)の製造を委託している(これらの事業者を以下「下請事業者」という)。
2)B社は、下請事業者に対して自社が所有する又はB社の親会社であるB社から貸与を受けた金型等を貸与していたところ、遅くとも2023年(令和5年)4月から2024年(令和6年)9月まで、当該金型等を用いて製造する本件製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し約3,700個の金型等を自己のために無償で保管させ、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者16名)。
3)公正取引委員会が勧告を行ったことで、B社は下請事業者に対し、2024年(令和6年)12月中までに無償で金型等を保管させていたことによる費用に相当する額として総額約2,900万円を支払っている。


 上記事例のように発注者側の違反行為が主ですが、受注者側も違反項目に該当する発注者側の行為に加担しないことが、双方の正しい利益の保護につながります。

4.まとめ

 中小受託事業者にとって、委託事業者に値上げを伝えるのは不安があるかもしれません。しかし、原材料価格や人件費などのコストが年々上昇している現在、利益をしっかり確保できる体制を整備しないと、今後生き残ることは困難です。
 また委託事業者にとっても、これまで中小受託事業者に対し無意識に「11の禁止行為」を行っていた場合、今後は法律違反行為として罰則を受ける可能性もあります。
 改正下請法の内容を理解し、自社の健全経営に役立てましょう。

【参考文献】

・公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法案の概要(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案)
・公正取引委員会「(令和6年3月15日)株式会社ビッグモーター及び株式会社ビーエムハナテンに対する勧告等について | 公正取引委員会
・公正取引委員会「下請法違反事件関係」「令和7年 | 公正取引委員会
・「Q&Aこれで社長も安心!取引のルールとポイント―改正下請法・フリーランス法対応版―」(TKC出版)
・事務所通信2025年6月号デジタル版「『改正下請法』で対象取引の範囲が拡大! 中小企業への影響を確認しよう!」
・「はじめて学ぶ下請法」(株式会社商事法務、2017年)

株式会社TKC出版

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