2025年09月29日

会計専門家を活用して社会福祉法人の経営基盤を強化しよう~専門家による「別添2」の支援から経営指導の支援へ~

会計専門家を活用して社会福祉法人の経営基盤を強化しよう~専門家による「別添2」の支援から経営指導の支援へ~

💡この記事のポイント
 ☑専門家による支援「別添2」は社会福祉法人のための支援制度であることを理解する
 ☑社会福祉法人への支援は行政の監査の効率化のためでもあることを知る
 ☑記帳代行は「別添2」に該当しないことに留意する
 ☑行政においても税理士等の専門家を活用していることを知る
 ☑経営基盤強化のために専門家の支援を検討する

1.税理士等の専門家の活用が進む社会福祉法人

(1) 専門家による支援「別添2」とは

 「別添2」とは何のことでしょうか。
 税理士または公認会計士等により、経理規程の整備、適正な会計帳簿の作成等基本的な財務会計に関する事務処理項目についてチェックを受け、不適切な事項について所見を受けることで、社会福祉法人の事務処理体制の向上を図るものです。

 ご承知のように、平成28(2016)年~29(2017)年にかけて施行された改正社会福祉法による社会福祉法人制度改革において、会計監査人監査が法制化されました。事業活動収益30億円超または負債60億円超の法人について特定社会福祉法人として会計監査人を置かなければならない(社会福祉法37条)、と義務化されたのです。しかし、この会計監査人監査を受ける対象はごく一部に限られ、実際に令和6年度の現況報告書によると、特定社会福祉法人446法人、会計監査人の設置義務のない任意設置の128法人の合計574法人のみが会計監査人監査を受けている状況です(令和7年3月12日厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議福祉基盤課資料)。そこで、この事業規模に満たない多くの法人に対しては「税理士または公認会計士等の専門家を活用することが望ましい」という厚生労働省通知「会計監査及び専門家による支援等について」を発出し、財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援(別添2の支援業務実施報告書により実施)を設け、活用は任意となりますが社会福祉法人を支援する制度としています。併せて行政の指導監査において、監査の効率化・重点化に資するものという位置づけとしています。


「会計監査及び専門家による支援等について」の要旨
(1) 会計監査
 事業活動収益30億円超または負債60億円超の会計監査人設置義務を負う法人の会計監査、会計監査人の設置義務を負わない法人において定款の定めにより会計監査人を設置して行う会計監査、または会計監査人による監査に準ずる監査。
①会計監査人による監査
会計監査人の設置義務のある特定社会福祉法人、定款の定めにより会計監査人を設置する法人
②会計監査人による監査に準ずる監査
定款に規定せずに行う会計監査

(2) 専門家による支援
 会計監査を受けない場合において、当該法人の事業規模や財務会計に係る事務体制等に即して、必要に応じて行われる以下のもの。
 ①財務会計に関する内部統制の向上に対する支援
将来的に特定社会福祉法人となることが見込まれる大規模法人等【別添1】
 ②財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援
適切な財務会計の運用支援が必要とされる比較的小規模な法人等【別添2】


 要するに、①大規模法人等を対象とした「会計監査人による監査」を設けた一方で、②適切な財務会計の運用支援が必要とされる比較的小規模な法人等に対し「財務会計の事務処理体制向上の支援」(別添2)のほか、③将来的に会計監査人監査を受けるような法人に対して「内部統制向上の支援」(別添1)の制度を設け、社会福祉法人に求められていた経営組織のガバナンス強化、財務規律の強化等の社会福祉法人制度改革を推進することにしたわけです。

(2) 専門家による支援のメリット

 「会計監査及び専門家による支援等」の活用は、社会福祉法人に大きなメリットをもたらします。
 外部の専門家による監査や、事務処理体制向上の支援を受けることで、法人内部の事務処理体制等はもとより、計算書類の外部からの信頼性とともに、法人の理事・理事長においては適正に処理した計算書類であるという自信をもつことができると評価する法人が多いといいます。

<会計監査及び専門家による支援等の活用メリット>
 ①計算書類の質向上とともに、計算書類を含めた法人の信頼性向上
 ②法人内部の牽制体制が整備され、不正等が置きにくい体制の整備
 ③職員の事務処理スキルの向上、会計処理業務の質向上

 一方で、行政の指導監査において頻出する主な指摘事項(会計管理関係)について見てみましょう(令和7年3月12日厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議福祉基盤課資料)。 ・収益及び費用が適切な会計期間に計上されるように、発生した取引について適時適切に会計処理すること。
・拠点区分間繰入金収益・費用及び拠点区分間移管収益・費用は相殺消去すること。
・経理規程に従い、固定資産現在高報告書を作成して、固定資産管理台帳と照合し、理事長に報告すること。
・作成が必要な附属明細書が作成されておらず、計算書類と附属明細書の不整合等により正確な記載が行われていないことから、計算書類に一致するよう、適正に作成・記載すること。

 このように、基本的な事務処理にかかる内容となっており、「専門家による支援」の活用によって防げたことを、「別添2」の支援項目をみればおわかりいただけるでしょう。項目数は予算から経理体制、内部取引や注記などの25項目と所見欄により構成され、行政の指導監査と関連性を持たせた内容となっています。

「別添2」の内容はこちらから

(3) 行政の指導監査の周期延長や一部の監査事項の省略なども

 そのほかの法人のメリットとしては、会計監査及び専門家による支援がある場合には、「社会福祉法人監査実施要綱」により、一般監査の実施周期の延長等を行うことができるとされていることです(監査の周期延長は行政の判断によります)。
 なお、行政の指導監査には一般監査と特別監査があり、一般監査は一定の周期(3年に1回)で実施されます。実施計画を策定したうえで「指導監査ガイドライン」に基づき行います。特別監査は運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時実施されます。一般監査の周期の延長等については別掲の表を参照してください。表中の指導監査事項の省略というのは「指導監査ガイドライン」の監査事項を表しています。

厚生労働省Webページより
厚生労働省Webページより

(4) 記帳代行業務等を行う専門家の支援は「別添2」に当たらない

 「専門家の支援」において留意していただきたい点は、税理士または公認会計士等にどこまでの業務をしてもらうかです。
 『「会計監査及び専門家による支援等について」のQ&A』によると、「決算業務又は記帳代行業務を行う専門家は、法人の会計処理上の判断や意思決定、計算書類等の作成に直接関わる者と考えられる。(中略)法人との関係において客観的な立場により行ったものとならないため、(中略)法人の事務処理体制の向上に関する支援を行ったことにはならず、延長等を行うことは適当でない」としていることです。
 一方で、「顧問契約等により会計又は税務の相談対応や指導業務を行う専門家は、(中略)間接的な関与に留まることが想定されるため、原則として自己点検には当たらず延長等を行うことは差し支えない」と、会計・税務の相談対応や指導業務を行う税理士等は、自己点検に当たらないことを確認しています。
 ちなみに、TKC会員事務所においては、社会福祉法人を毎月および期末決算時に巡回し、会計資料並びに会計記録の適法性、正確性および適時性を確保するため、会計事実の真実性、実在性、網羅性を確かめ、かつ指導するために月次巡回監査を行っています。このため、月次巡回監査を基本とする社会福祉法人の事務処理体制向上の支援は、上述の自己点検には当たらないものとなっています。

「会計監査及び専門家による支援等について」のQ&A

問3 決算業務又は記帳代行業務を行う専門家が、財務会計事務処理向上支援を行い、報告書を提出した場合、所轄庁として監査周期の延長等を行うことは可能か。また、顧問契約等により会計又は税務の相談対応や指導業務を行う専門家の場合は可能か。
(「社会福祉法人に対する指導監査に関するQ&A(vol.2)」の送付について(平成29年9月26 日厚生労働省社会・援護局福祉基盤課事務連絡)問1の再掲)
(答)
 決算業務又は記帳代行業務(以下「決算業務等」)を行う専門家は、法人の会計処理上の判断や意思決定、計算書類等の作成に直接関わる者(以下「直接関与者」)と考えられる。
 直接関与者が「会計監査及び専門家による支援等について」(平成29 年4月27 日付社援基発0427 第1号厚生労働省社会・援護局福祉基盤課長通知)の1の(2)による「専門家による支援」を行うことは、自らが関与した会計処理や計算書類等について、自らが関与した業務を自ら点検(以下「自己点検」)することとなり、法人との関係において客観的な立場により行ったものとならないため、所轄庁の指導監査の代替が可能となる法人の事務処理体制の向上に関する支援を行ったこととはならず、延長等を行うことは適当でない。
 なお、顧問契約等により会計又は税務の相談対応や指導業務を行う専門家は、専門的な立場から見解を述べることが主要な業務内容であり、間接的な関与に留まることが想定されるため、原則として自己点検には当たらず延長等を行うことは差し支えない。
 ただし、直接関与者が法人業務の自己点検の一環として当該法人に対して支援を行うこと自体が否定されるものではない。

厚生労働省社会・援護局福祉基盤課「会計監査及び専門家による支援等について」のQ&A

(5) 行政の指導監査等においても専門家の活用が進む

 また、税理士または公認会計士等の「専門家による支援」には、法人に対する支援だけでなく、行政の指導監査等の体制整備として専門家を活用した取り組みが行われています。不適正事案を含む社会福祉法人の経営について、会計の専門的観点から対応するためには、税理士・公認会計士等の専門家を、指導監査への専門家の同行による確認や、法人の計算書類等の専門家による確認などさまざまな業務で活用しています。令和6年度における実績として301所轄庁で活用しています(令和7年3月12日厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議福祉基盤課資料)。

2.経営基盤強化には専門家のさらなる活用も

(1)社会福祉法人制度改革で一層高まる専門家の役割

 平成28(2016)年~29(2017)年施行の改正社会福祉法では、議決機関として評議員会を設置するなどの法人組織そのものの改革から、財務諸表の公表等を法律上明記する事業運営の透明性確保、福祉サービス等に再投下可能な財産額を明確化し計画的に再投資する財務規律の強化、地域における公益的な取組を実施する責務を法律に位置付けるなど、社会福祉法人制度を根本から見直すとても大きな改革でした。
 その背景には、社会福祉法人に対するガバナンスの欠如や、いわゆる内部留保に関する厳しい意見、借方と貸方が合わないなどの計算書類に基本的な誤りが存在するといった批判の高まりがありました。社会福祉法人は社会福祉事業の中心的な担い手として、また営利企業など他の事業主体では対応が困難なさまざまな福祉ニーズを充足する法人として、地域社会に貢献することが本旨としてあります。こうした役割を果たす法人として、公益性・非営利性を徹底し、国民に対して説明責任を果たす必要がありました。
 また、「社会福祉法人会計基準」を法の下に位置付け、財務諸表の公表等をすべての法人に義務付けたのも、この改革でした。そのため、会計監査人の監査や専門家による支援などは財務諸表の公表を支援する施策でもあり、この改革の1つの柱でした。さらに、福祉サービスに再投下化可能な財産額の明確化では、社会福祉充実計画のもと事業を遂行していくことになりますが、その社会福祉充実計画の原案において税理士または公認会計士等の意見聴取を行うこととしています。税理士または公認会計士等の役割が従来にも増して大きくなっています。
 改めて社会福祉法人制度改革の主な内容について見てみると次のとおりです。


社会福祉法人制度改革の主な内容

①経営組織のガバナンスの向上
 ・理事・理事長に対する牽制機能の発揮(議決機関として評議員会を必置)
 ・財務会計に係るチェック体制の整備(一定規模以上の法人への会計監査人の導入、専門家による支援) 等
②事業運営の透明性の向上
 ・財務諸表の公表等について法律上明記 等
③財務規律の強化
 ・役員報酬基準の作成と公表、役員等関係者への特別の利益供与を禁止
 ・いわゆる内部留保の明確化(福祉サービスに再投下可能な財産額の明確化)
 ・社会福祉事業等への計画的な再投資
④地域における公益的な取組を実施する責務
 ・社会福祉法人の本旨に従い他の主体では困難な福祉ニーズへの対応を求める
⑤行政の関与の在り方
 ・所轄庁による指導監督の機能強化

(2) 自主的に経営基盤強化が求められる社会福祉法人

 社会福祉法第24条には経営の原則等について規定されています。


社会福祉法

 第24条(経営の原則等)  社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的に適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない。

 社会福祉法人は公益性の高い法人として、営利企業等では対応できない制度の狭間で困っている人たちの救済や、地域の福祉需要にきめ細かく対応した福祉サービスなど、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業が求められています。その一方で、比較的小規模な法人も多いわけですが、自主的にその経営基盤の強化を図ることが求められています。
 そこでは、しっかりした経営基盤があっての公益性の高い事業となりますので、社会福祉法人においては税理士または公認会計士等の専門家の活用を、財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援にとどまらず、財務データを有効活用した経営指導の支援などにまで広げ、大いに専門家を活用していくことが重要になっているのではないでしょうか。


参考文献

・「会計監査及び専門家による支援等について」(平成29年4月27日付け社援基発0427第1号厚生労働省社会・援護局基盤課長通知)
・「財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援業務実施報告書」(「会計監査及び専門家の支援等について」別添2)
・「社会福祉法人審査基準」(「社会福祉法人の認可について」(平成12 年12 月1日付け障第890 号・社援第2618 号・老発第794 号・児発第908 号厚生省大臣官房障害保健福祉部長、社会・援護局長、老人保健福祉局長及び児童家庭局長連名通知)別紙1)
・「社会福祉法人指導監査要綱の制定について」(平成29年4月27日付け雇児発0427第7号・社援発0427第1号・老発0427第1号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)
・「社会福祉法人監査実施要綱」(「社会福祉法人指導監査実施要綱の制定について」別添)
・「指導監査ガイドライン」(「社会福祉法人指導監査実施要綱の制定について」別紙)
・「会計監査及び専門家による支援等について」のQ&A(令和2年9月11日厚生労働省社会・援護局福祉基盤課事務連絡)
・「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号)
・厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議資料(令和7年3月12日福祉基盤課)
・「会計監査人 設置の手引き」(令和2年1月16日東京都福祉保健局指導監査部指導調整課)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。