2025年09月22日

「骨太の方針2025」を確認して、今後の経営戦略に活かそう

「骨太の方針2025」を確認して、今後の経営戦略に活かそう

💡この記事のポイント
 ☑「骨太の方針」とは、経済財政運営と改革に関する基本方針。
 ☑2025年の目玉は「賃上げ」による成長戦略。
 ☑中小企業の賃上げを支援する多くの施策がある。

1.「骨太の方針」の概要

(1) 今年のキャッチコピーは「今日よりも明日はよくなる」

 「骨太の方針」とは、政府が毎年6月頃に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針」の通称で、年末の予算編成に向けて政権の重要課題や政策の基本的方向性を示したものです。
 骨太の方針は、首相が議長を務める「経済財政諮問会議」で検討されます。会議メンバーは、財務大臣や経済産業大臣などの関係閣僚のほか、日本銀行総裁や学者などの民間有識者で構成されています。なお、本方針が「骨太の方針」と呼ばれ始めたのは、2001年(平成13年)当時、宮沢喜一財務大臣が経済財政諮問会議の議論を「骨太」と表現したことがきっかけです。
 2025年6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」の副題は「『今日よりも明日はよくなる』と実感できる社会へ」。キャッチコピーがつけられた「骨太の方針」としては、例えば第二次安倍政権の2013年(平成25年)の「アベノミクス 三本の矢」や、2022年(令和4年)岸田政権の「新しい資本主義」があります。いずれも、時の政権の象徴的な政策が盛り込まれています。

(2) 目玉の政策は「賃上げ」

 「骨太の方針2025」の目玉となる政策が「賃上げ」です。「骨太の方針」の第1章「マクロ経済運営の基本的考え方」では、賃上げについて次のように書かれています

◆減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要という基本的考え方の下、既に講じた減税政策に加えて、これから実現する賃上げによって更に手取りが増えるようにする。そのために、経済全体のパイを拡大する中で、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させ、現在及び将来の賃金・所得が継続的に増加する「賃上げを起点とした成長型経済」を実現。

 その上で、第2章「賃上げを起点とした成長型経済の実現」のための具体策として、次の4つの柱を示しています。

 ① 物価上昇を上回る賃上げの普及・定着 ~賃上げ支援の政策総動員~
 ② 地方創生2.0の推進及び地域における社会課題への対応
 ③ 『投資立国』及び『資産運用立国』による将来の賃金・所得の増加」
 ④ 国民の安心・安全の確保

2.賃上げのための具体的政策は?

 この4つの柱の中でも、特に中小企業経営への影響が大きいと考えられるのが「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着」と、「地方創生2.0の推進」です。
 詳しく見ていきましょう。

(1) 物価上昇を上回る賃上げの普及・定着

物価上昇を上回る賃金改善を視覚的に表現した、賃金ブロックと段階的に積まれた硬貨の画像

 1つ目の柱である「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着」では、次のような具体策を示しています。


①中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画の実行

• 2029年度(令和11年度)までに年1%の実質賃金上昇を定着
• 官公需における価格転嫁のための施策パッケージ、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の周知広報
• 生産性向上支援(省力化投資促進プラン、地域における「週一副社長」の普及と副業・兼業の促進、事業承継・M&Aに関する新たな施策パッケージ)
• アドバンスト・エッセンシャルワーカー※育成、公定価格引上げ等による処遇改善
• 最低賃金引上げ:2020年代に全国平均1,500円
※AIなどデジタル技術を活用して、現在よりも高い賃金を得るようになるエッセンシャルワーカーのこと。

 例えば、「2029年度までに年1%の実質賃金上昇を定着」については、中小企業・小規模事業者の賃上げのため、価格転嫁・取引適正化、生産性向上、事業承継・M&Aによる経営基盤強化および地域の人材育成と処遇改善を通じて、実現するとしています。
 また、「生産性向上支援」については、飲食業、宿泊業、小売業等の12業種で策定した「省力化投資促進プラン」に基づく官民での取組を達成するため、デジタル支援ツールを活用したサポート、全国的な伴走型支援、複数年にわたる生産性向上支援を通じて、2029年度までの5年間でおおむね60兆円の生産性向上投資を官民で実現するとしています。

②三位一体の労働市場改革

• リ・スキリング支援(デジタルスキルに関する教育訓練給付金対象講座の拡大等)
• ジョブ型人事(人的資本に関する情報開示の充実等)
• 労働移動円滑化(職業情報提供サイトの機能強化、ハローワークの体制強化等)
• 「年収130万円の壁」、労働基準法制の見直し
• 建設・運送・警備・医療・介護・障害福祉分野の賃上げ
• 中堅・中小企業の研究開発・設備投資を支援、資金調達環境整備による中堅・中小企業による賃上げの後押し

 三位一体の労働市場改革については、その1つである「多様で柔軟な働き方の推進」として、短時間正社員を始めとする多様な正社員制度、勤務間インターバル制度の導入促進、選択的週休3日制の普及、仕事と育児・介護の両立支援、全ての就労困難者に届く就労支援といった取り組みが挙げています。
 また、「個別業種における賃上げに向けた取組」として、建設業や自動車運送業の賃上げに向け、労務費の基準の設定及び実効性確保、建設キャリアアップシステムの利用拡大、賃上げに対応した運賃設定や荷主への是正指導の強化等を通じ、処遇改善や取引適正化を推進するとしています。
 さらに、警備業やビルメンテナンス業の賃上げに向け、官公需におけるリスクや重要度に応じた割増加算を含め、適切な単価設定や分離発注の徹底により、労務費の価格転嫁を進めることとしています。
 このように、中小企業・小規模事業者向けに、さまざまな業種で賃上げの実現に向けた政策が検討されています。

(2) 地方創生の推進

地方イノベーション創生構想を象徴する「地方創生」のブロックと、知的作業を連想させるデスク周りのアイテム

 2つ目が「地方創生2.0の推進」です。賃上げのためには地方創生を推進し、地域における社会課題への対応が必要であるという観点から、次の具体策を挙げています。


■地方創生2.0の推進及び地域における社会課題への対応

①地方創生2.0の推進~令和の日本列島改造~
◎地方創生2.0基本構想
・安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
・稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生 ~地方イノベーション創生構想~
・人や企業の地方分散 ~産官学の地方移転、都市と地方の交流等による創生~
・新時代のインフラ整備とAⅠ・デジタルなどの新技術の徹底活用 等

②地域における社会課題への対応
・地域交通のリ・デザイン、交通空白の解消、整備新幹線、造船業再生、物流の機能強化
・持続可能な観光地域づくり 等

③農林水産業の構造転換による成長産業化及び食糧安全保障の確保
・新たな基本計画に基づく生産基盤の強化
・米価対策
・国産材転換・木材利用拡大、漁業の強靭化

④分化芸術・スポーツの振興 ・コンテンツ分野人材確保の環境整備
・文化資源を活用した地域経済活性化 等

 例えば、「地方創生2.0基本構想」の1つである「稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生 ~地方イノベーション創生構想~」の項目では、「新結合※」をキーワードに、以下の方針が示されています。
 【地域資源を活用した高付加価値型の地方経済の実現に向け、東京圏以外の道府県の就業者1人当たり年間付加価値労働生産性を東京圏と同水準にするとともに、地方発の代表的な産品である農林水産物・食品(日本産酒類を含む)の輸出額とインバウンドによる食関連消費額の合計3倍、スタートアップ企業など地域の課題解決や新しい産業の創出を通じて価値創造をしていこうとする企業がある市町村10割を目指す。このため、様々な「新結合」を全国各地で生み出すことにより、地方経済に活力を創出し、我が国の潜在的な成長力を引き出していく「地方イノベーション創生構想」として、地域の食や伝統産業に、文化芸術、スポーツ、コンテンツやスタートアップを組み合わせるなど、関係府省庁が連携した支援により、地域資源を最大限活用した高付加価値化を図る「施策の新結合」、若者や女性や産官学金労言士など、地域内外の様々な関係者が連携・協働、地域外の新たな人材を呼び込む「人材の新結合」、イノベーションの果実であるAI・デジタル技術等の新しい技術を組み合わせる「技術の新結合」に重点的に取り組む。】
 ※異なる分野や領域に属する要素同士を従来にはなかった形で組み合わせること。
 こうした政策が実現することにより、特に農林水産業や食品関連業、スタートアップ企業などへの影響があると考えられます。


 なお、3つ目の柱である「『投資立国』及び『資産運用立国』による将来の賃金・所得の増加」ではGXやDXの推進、スタートアップへの支援といった具体策が、また4つ目の柱である「国民の安心・安全の確保」では、防災・減殺・国土強靭化の推進や外交・安全保障の強化といった具体策がそれぞれ示されています。

【出典】内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025~「『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ」

3.中小企業の賃上げについて

(1) 日本商工会議所等による中小企業の賃上げ状況

 「骨太の方針2025」の経済政策を受け、中小企業はどのように対処すればよいのでしょうか。前述の通り、その目玉政策は「賃上げ」ですが、実際に賃上げを実施するのは企業です。しかし、実際には賃上げの資金が確保できないという中小企業も少なくないと考えられます。
 例えば、2025年5月時点での中小企業の賃上げ状況について、日本商工会議所ならびに東京商工会議所は、全国3,042社を対象に「中小企業の賃金改定に関する調査」の結果を取りまとめ、公表しています(調査期間:2025年4月14日~2025年5月16日)。

①2025年度の賃上げ実施状況
「賃上げを実施(予定含む)」する企業は全体で約7割、20人以下の小規模企業で約6割。価格転嫁の遅れや米国関税措置等で先行き不透明との声もあり、「未定」の回答が増加。
【全体】     賃上げを実施 69.6%(▲4.7ポイント)
        未定     23.5%(+3.1ポイント)
【小規模企業】  賃上げを実施 57.7%(▲5.6ポイント)
        未定     31.9%(+2.9ポイント)

② 正社員の賃上げ
正社員の賃上げ率は4.03%。昨年調査から0.41ポイント伸び、4%台に。20人以下の小規模企業では3.54%で、昨年調査からの伸びは+0.20ポイントに止まる。
【全体】     賃上げ額 11,074円、賃上げ率 4.03%(+0.41ポイント)
【小規模企業】  賃上げ額 9,568円、賃上げ率 3.54%(+0.20ポイント)

【出典】日本商工会議所
「中小企業の賃金改定に関する調査」の集計結果について
~中小企業の賃上げ率は正社員全体で4.03%、20人以下の小規模企業で3.54%~

(2) 中小企業が活用できる制度

中小企業向け賃上げ支援制度を示す「支援制度」の文字が強調された画像

 政府は、中小企業の賃上げを支援するためにさまざまな制度を整備しています。今回は、3つの支援制度をご紹介します。


①中小企業向け「賃上げ促進税制」

 中小企業向け「賃上げ促進税制」とは、中小企業が賃上げを実施した場合、賃上げした金額の一部を法人税等から税額控除することができる制度です。この制度を利用することで、賃上げによる企業の実質的な負担を軽減することができます。
 例えば、雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%増加している場合、その15%を法人税等から控除できます。さまざまな上乗せ要件を満たした場合は「最大税額控除率」は、中小企業向けは45%となっています(全企業・中堅企業向けは35%)。賃上げ促進税制の詳細は、下記の中小企業庁ホームページからご確認ください。

中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」

②キャリアアップ助成金

 キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(以下、「有期雇用労働者等」)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
 有期雇用労働者等を正社員にする、あるいは処遇を改善することで賃上げにつながりますが、一定の要件を満たすことで助成金を受けることができるので、企業の実質的な負担軽減につながります。

キャリアアップ助成金|厚生労働省

③IT導入補助金

 IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性向上を目的に、業務効率化やDXに向けたソフトウェア、サービスをはじめとするITツール導入に対しての補助金です。IT導入により省力化すれば労働生産性が向上し、より少ない人員で同様の成果を出すことができれば、1人当たりの賃金向上につながります。
 対象となるソフトウェアやサービスは事務局での審査を受ける必要があり、補助金HPに公開されているものとなります。また、相談対応のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象内です。詳細は下記ホームページからご確認ください。

トップページ | IT導入補助金2025

4.まとめ

 このように「骨太の方針2025」では、「賃上げ」が大きなテーマとなっており、その政策は中小企業にも少なからず影響すると見込まれます。
 経営者の中には「賃上げしたくてもそんな余裕がない」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、物価が上昇し、さまざまなコストが増えている現在、賃上げをしなければ大切な社員が同業他社に転職してしまったり、社員を募集しても優秀な応募者が来なくなってしまいます。つまり、企業存続のためには賃上げが避けては通れないと考えられます。
 一方で、賃上げに関連する支援制度を利用するにはさまざまな要件があり、また「賃上げ促進税制」など税金を正しく計算がする必要があるケースもあります。税理士等の専門家にも相談しながら自社が活用できる支援制度を検討し、賃上げを実現しましょう。

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参考文献

・事務所通信デジタル版2024年7月号「3分でわかる! 経営者がおさえておきたい骨太の方針2024のポイント」
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025」経済財政運営と改革の基本方針2025 : 経済財政政策 - 内閣府
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025 について
・株式会社第一生命経済研究所「【1分解説】骨太の方針とは? | 松村 圭一 | 第一生命経済研究所
・中小企業庁「中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」
・厚生労働省「キャリアアップ助成金」厚生労働省
・独立行政法人中小企業基盤整備機構「IT導入補助金2025
・株式会社第一生命経済研究所「骨太方針2025のポイント(賃上げ編) ~実質賃金+1%に何が必要か?~ | 星野 卓也 | 第一生命経済研究所
・中小企業庁「担当者に聞く「賃上げ促進税制」 | 経済産業省 中小企業庁

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