カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が、2026年中にも企業に義務付けられると聞きました。詳細を教えてください。(食品卸売業)
2025年6月、企業に「カスタマーハラスメント対策を義務付けた労働施策総合推進法」が改正され、先行しているハラスメント対策義務に、新たにカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化が加えられ、26年中に施行されます。
カスハラとは、飲食店やサービス業等において顧客・取引先・利害関係者等が、業務に関して社会通念上相当な範囲を超えた理不尽な言動や、要求等によって労働者の就業環境が害される状況をいいます。企業はカスハラが起こりうることを想定した事前準備、実際起こった場合の対応等の基本的枠組みを策定しておく必要があります。
まず企業が準備しておくことは、カスハラが起こった場合の取り組み・対策を行っていくということを明確に示し、企業全体の問題として把握・対応していくことを従業員に周知することです。
次は相談体制の整備・構築です。カスハラが実際に起こった場合の相談窓口・相談対応者を指名した上で従業員に周知し、企業全体で把握できる体制を整備しておきましょう。
さらに、想定されるカスハラを類型化して対応マニュアル等を整備し、従業員が対応できない場合は、管理職を含めて企業全体で対応するような従業員教育も重要となってくるでしょう。
法的責任が問われる可能性も
実際にカスハラが起こった場合、カスハラ行為に該当するかを確認するため、従業員・顧客・取引先・利害関係者等にヒアリングや情報収集をします。事実を確認した後、商品・サービス提供等に関して問題があった場合、謝罪・商品交換・返金・サービスの再提供等の対応をしますが、不当な要求については応じず、外部専門家との連携も考えてみてください。また現場対応者への配慮も必要です。従業員に対応を委ねてしまうと、メンタル不調等の精神疾患を発症する場合があります。
相談者のプライバシー保護、相談による不利益な取り扱いをしないこともあわせて従業員に周知しておきましょう。同様のカスハラ事案について再発防止のための従業員教育・研修等の定期的な取り組みも対策として有効です。
カスハラ対策義務化は、企業が事前準備、現場対応、再発防止への取り組みまでを義務付けたものですが、カスハラ等を行った顧客・取引先・利害関係者等も含め、従業員に対策を講じなかった企業も不法行為責任を問われる可能性があります。また、従業員に対して働きやすい安全な就業環境を提供しなかったことによる安全配慮義務違反にも問われかねません。
単なる現場担当者の問題としてではなく、企業全体がカスハラ対策に積極的に取り組むことで、カスハラによる離職者減少、より質の高い接客・サービス提供等が可能となり、企業経営の喫緊の課題である人材不足解消の一助となりうるでしょう。
掲載:『戦略経営者』2025年8月号

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