2025年08月01日

「プロアクティブ人材」とは何か

「プロアクティブ人材」とは何か
【回答者】
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門部長/シニアマネジャー 下野雄介

ビジネス誌などで「プロアクティブ人材」という言葉を見聞きするようになりました。プロアクティブ人材とはどのような人材を指すのでしょうか。(広告業)

 プロアクティブ人材とは「新たな取り組みを自ら企画立案し、周りを巻き込みながら形づくっていく」人材です。「Proactive」、つまり前向き・積極的・率先といった意味の通り、プロアクティブ人材は先見性、未来志向、変革志向を有しています。今のビジネスや職務をよりよいものにしようと構想したり、その構想をさらに深化させたり膨らませたりするため、社外から積極的によりよいソリューションやアイデアを探索したり、企画を成功させるため社内関係者をうまく巻き込むといった行動もプロアクティブ人材の特徴です。

 この概念は2000年以降の学術領域で活発に研究され始めました。VUCAと呼ばれるような不確実・非連続な外部環境にさらされている現代においては、「経営者が考え、従業員は受け身的に対応する」という組織では持続的成長が困難で、「自律的に新たな成長の種を考える人材が増えてほしい」という経営者の思いが、学術研究の増加に繋がったものと推測しています。

人材のプロアクティブ化に向けて

 さて近年、このプロアクティブ人材という概念は、経営幹部に求められる重要な要素の一つとして注目されています。ビジネスモデル革新や事業ポートフォリオ改革といった大きな転換期において、変革型ビジョンの策定やこれに沿ったアイデアの構想までは経営者が行えます。ただ、企画の具体化や推進まで担うのは難しく、変革の実行主体として経営幹部の役割が重要視されてきています。そしてその行動様式として、プロアクティブ人材という概念に注目が集まっているのです。

 それでは経営幹部の「プロアクティブ化」にはどのようなアプローチが有効なのでしょうか。重要なのは、「経営幹部だからといって放置しないこと」です。経営幹部の多くは大きな職務権限・責任が付与され、自律的に組織運営しています。通常職務の範囲で、経営者が経営幹部に対し、つぶさに指導・マネジメントをしているシーンはあまり見かけません。

 しかし、人材のプロアクティブ化には「細やかな伴走」が必要となるのです。具体的には構想・企画そして実行にかけて、アイデアの創造、外部への知見の探索、社内とのネットワーク形成といった行動について、経営者が伴走・支援することが求められます。加えて、こうした行動について対象となる人材が「できる」と思えるよう励ましたり、一緒にやって乗り越えたりすること(自己効力感を向上させること)も不可欠です。

 このような実践を繰り返し、取り組んでいるテーマが一定の目標を達成し、またその成功体験が自己実現として対象人材のなかに位置づけられることで、プロアクティブ人材としての思考・行動が定着していくことになるのです。

 プロアクティブ人材の育成は非常に実践的であり、また個に迫るアプローチが求められます。その分、手間暇はかかりますが、「右腕化」した人材はいきいきと新たな挑戦を自律的に推進してくれる「成長ドライバー」として活躍することでしょう。

掲載:『戦略経営者』2025年8月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

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