今年創業95年を迎えるインナーウエアメーカー、タカギ。働き方改革の推進と地域貢献活動への取り組みなどで、老舗企業を新たなステージに引き上げたのが、2022年に事業承継で4代目社長に就任した髙木麻衣社長である。
衛生帯(生理帯)の製造販売を戦前から手掛けてきたタカギは、1960年代にサニタリーショーツの販売で急成長を遂げるなど、常に女性の体に向き合ってきたパイオニアである。大手衣料品チェーン向けのOEM供給、小売店舗への卸売りのほか、近年はプライベートブランドの展開も強化中だ。国内では奈良県の本社、長崎県、海外ではベトナムと中国に生産拠点を有する。
展開中のプライベートブランドは、最も歴史が古く売り上げも大きい大衆向けの「bodyhints」、2014年からスタートした高級ライン「AROMATIQUE」、2代目社長髙木アヤメの名を冠し21年にデビューした「ayame」の3つだ。いずれも自社縫製工場で一つ一つ職人が手作業で最後まで縫い上げ、自社ECサイトでオンライン販売している。髙木麻衣社長は、高品質なものづくりにこだわる自社ブランドの特徴について次のように説明する。
「2,000~3,000円が中心価格帯のボディヒンツ、主力のキャミソールで1万円を超えるアロマティックなどそれぞれのブランドでターゲットは異なりますが、3ブランドに共通しているのが、素材にとことんこだわっていること。コットン、シルク、ウールなど世界中から厳選した天然繊維を使用し、着心地をいかに良くするか、女性のライフスタイルのクオリティー向上にいかに貢献できるかを常に意識しています」
ボディヒンツでは機能性を高めた商品づくりを積極的に進め、米ぬかを糸に練り込んだ「米ぬか繊維SK」を使ったショーツやキャミソールなどが好評。アロマティックは海外からの評価が高く、昨年は米国の高級セレクトショップから注文が入ったり、台湾のショップの店頭にも並んだりした。パリ、ロンドン、ニューヨーク、上海などの展示会に出展したところ、上海の展示会では日本のブランドとしてはじめてコンテストで2位を受賞、海外での知名度も高まりつつある。米国通販サイトでも年々売り上げが着実に伸びているという。
1.評価制度も抜本的に見直し
3姉妹の長姉である髙木社長が入社したのは2014年のこと。アパレル企業で新規ブランドの立ち上げに奮闘、業務がちょうどひと区切りしたタイミングで後を継ぐことを決心した。自ら経験したブランド運営のノウハウが、タカギのプライベートブランドの成長に生かせると考えたのである。16年に役員に就任してからは、女性経営者としていかにあるべきかを強く意識するようになった。祖母で2代目社長の髙木アヤメ氏は、業界では有名な女性経営者だったからである。
「前職でも取引先で『髙木さんってあの髙木アヤメさんのお孫さんですか』と声をかけられる機会がたくさんありました。尊敬する祖母ですが、私は彼女にはなれません。自分らしい経営でこの先創業100年、120年……とこの会社を存続させていくにはどうしたらよいか、を真剣に考えました」
創業当時から祖父母が大事にしてきた高品質のものづくりに対する姿勢は維持しつつ、髙木社長は、女性でも働きやすい環境づくりで自分らしさを打ち出そうと考えた。自身も結婚、出産を経て仕事と育児の両立の大変さを身に染みて感じていたからである。
まず取り入れたのがフレックスタイム制度とテレワーク制度だ。テレワークは2年間のモニタリング期間を経て18年から本格的にスタート、現在は物流部門をのぞく全部門で利用可となっている。フレックスタイムは午前7時から午後7時まで(コアタイムは午前11時から午後3時)で自由に始業時間、就業を選べる仕組みである。フレックスタイムはほぼすべての社員が活用、テレワークの利用率は管理部門や営業部門を中心に15%程度だが、フルリモートの社員もいるという。
働き方改革と両輪で進めたのが、評価制度の抜本的な見直しだ。上司による部下の管理がテレワーク時に課題となることが予想されたからだ。各自がしっかりと目標を設定し、半年ごとに達成できたかどうかを評価する目標管理制度を導入、仕事の見える化に着手した。同社役員が各社員に半年に1度面談を実施、各自が目標にどのように向き合っているかを確認するとともに、成果に対するフィードバックを伝えている。
2.消滅した有給休暇も使える
独自の休暇制度、福利厚生制度も特筆される。病気の子どもを一時的に預かり、保育や看護を行う「病児保育」サービスを利用した社員には、費用の一部を負担。さらには出張先に子どもを一緒に連れていくことができる「子連れ出張」制度も創設した。出張先で商談を行う際、子どもをベビーシッターに預ける費用の一部を会社が負担する。
有給休暇についてもユニークな制度がある。有給休暇は2年を超えると消滅してしまうが、消滅した有給休暇のうち最大10日までを条件付きの特別有休として利用できる「育児介護目的休暇」制度である。
「子どもの病気の看護、授業参観への出席、親の介護、孫の世話など目的が明確にある場合、本来消えるはずの有給休暇を最大10日まで使用できる制度です。高年齢で活躍している社員が『娘に孫が生まれるので身の回りの世話をするために休暇をとります』などと申告して、この制度を使うことがあります」(髙木社長)
こうした働き方改革の推進は周囲の知るところとなり、やがて奈良県や橿原市など地元自治体から講演会の講師として招かれるようになった。そこで発信したメッセージはさらに拡散され、最近では新卒生から毎年「逆オファー」が届くようになったという。
「当社の採用は基本的に中途採用ですが、働き方改革や自社ブランドの取り組みを見た学生から『タカギで働きたい』と連絡がくるようになったのです。従って新卒生も不定期に採用しており、平均年齢は10年間で55歳から45歳まで若返りが進みました」
働きやすい職場づくりに対する取り組みから得たノウハウを社外にも広めるため、働き方改革を対象としたコンサルティング事業にも参入している。
3.地元小学校で月経教育支援
地域貢献活動への積極的な取り組みにも触れておくべきだろう。同社は18年から、奈良県内の小学校で生理に関する出張授業「HAPPPYプロジェクト活動」を行っている。3つのPは、peace(平安)、precious(大切)、period(生理)を示す。
「当社は100年近くにわたり、どんなインナーウエアを提供すれば女性の生活の質が改善するか真剣に考え続けてきました。その経験を生かした月経教育支援活動を行うことで、月経随伴症状には個人差があることなどについての知識不足、月経教育の不十分さなどによる月経へのネガティブなイメージを解消する一助になればと考えています」(髙木社長)
活動開始から7年が経過、年齢別のプログラムが考案されるなど内容も多彩になった。現在では男性社員も講師を務め、男子生徒と女性生徒が月経時に必要な買い物を疑似体験できるプログラムなど、性別問わず楽しく学べる体験型の内容となっている。
自社商品の拡販とともに同社が戦略的に取り組んでいるのが、海外企業へのOEM供給、卸売りの強化だ。5月に市場調査と営業でオーストラリアへ出張。面談にこぎつけた会社もあり、髙木社長はOEM供給について大きな可能性を感じたという。
「OEMの主要供給先が好調だったため、当社はコロナの影響をあまり受けませんでした。しかし原材料のほとんどを海外から仕入れているので、ここ数年の為替の影響は極めて深刻です。為替のリスクヘッジという観点からも、今後は日本国内で製造した商品を海外に販売するルートを、本格的に開拓していかなければならないと考えています」
髙木社長は、海外市場の開拓という「攻め」と、為替リスクの低減という「守り」を同時に追求していく考えだ。
コンサルタントの眼
顧問税理士 権田禎廣
税理士法人マーキュリー 奈良県奈良市大宮町7丁目2-23三和佐保川ビル405
https://www.mercury-tax.or.jp
タカギさまとは、私が独立する前の2006年に担当させていただいたころからのお付き合いになります。同社は女性向け商品が多く、また髙木社長が女性ということもあり、子育て中でも働きやすい環境づくりに力を入れています。大口取引先に業績好調な大手衣料品チェーンがあり、近年では売り先を海外にも広げ、ASEAN諸国や欧州などへ精力的に営業を行っています。SDGs活動も積極的に推進しており、地域の小学校を対象とした月経教育支援活動を展開しています。これらの活動により2022年度には「海外展開リーディングカンパニー」として、24年度には「社員・シャイン職場づくり推進企業」(仕事と家庭の両立推進部門)として、奈良県から表彰されています。営業力に優れる髙木鎮廣副社長、『FX4クラウド』『PX2』を通じた緻密な計数管理を行っている草間美帆取締役CFOと脇を固める経営陣も盤石です。今後も同社のさらなる成長をサポートできるよう努めていきます。
(協力・税理士法人マーキュリー/本誌・植松啓介)
名称 | 株式会社タカギ |
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業種 | 肌着の企画・製造・販売業 |
創業 | 1930年5月 |
所在地 | 奈良県橿原市曽我町800番地 |
売上高 | 約17億円 |
従業員数 | 60名 |
利用システム | FX4クラウド、PX2 |
URL | https://takagi-innerwear.jp |
掲載:『戦略経営者』2025年7月号

記事提供
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