2025年08月18日

公益法人の意義と令和7年制度改革の概要

公益法人の意義と令和7年制度改革の概要

💡この記事のポイント
 ☑公益法人とは社会全体の利益を図る存在
 ☑財務の柔軟性が高まり公益目的活動が柔軟に
 ☑透明性の向上で公益法人がより信頼される存在に

1.公益法人の役割

サポートのイメージ

(1) 1万弱の公益法人が活動

 公益法人とは、特定の事業を通じて、社会全体の利益(=公益)の増進を図ることを目的として活動する民間の法人を指します。つまり、営利を目的とする株式会社等とは目的が異なります。また、その活動を通じて得た利益等について、税制上の優遇措置を受けられることがあります。

 2023年12月1日時点で、公益法人の総数は9,711法人、職員数は約29万人、公益目的事業費年間約6兆円と報告されています。2025年の最新の法人数は、2025年12月中旬頃に公開される見込みです。

(2) 公益法人の位置づけと設立方法

 公益法人には「公益社団法人」と「公益財団法人」がありますが、公益法人になるためには、まず「一般社団法人」または「一般財団法人」として登記されている法人が、所轄庁に対して認定申請を行い、審査を経て「公益法人」として認定される必要があります。それぞれの違いは次の通りです


■公益法人と一般法人の比較表

公益法人(公益社団・公益財団) 一般法人(一般社団・一般財団)
設立要件 一般法人を設立後、所轄庁の「公益認定」を受ける必要あり 社員2名(社団)または拠出財産(財団)で登記すれば設立可
公益性の必要性 必須(公益目的事業が主であること) 非営利目的であれば自由に設立でき、公益性の有無は問われない。
監督機関 内閣府または都道府県(活動地域により異なる) 特に監督なし(法人法に基づく自己規律)
主な法令 公益法人認定法(公益認定の基準を定める) 一般法人法(社団・財団法人法)
収益事業の位置づけ 補助的な範囲に限る(主目的は公益事業) 制限なし(ただし非営利であること)
税制の優遇 原則として収益事業以外は非課税寄附者からの寄付金も税控除対象 原則として課税対象
情報公開の義務 年次報告、事業報告書、会計書類などの公開が義務 公開義務なし(ただし公開推奨)
残余財産の帰属先 国・地方公共団体等の公益的機関に限定 定款で自由に定められる
活用例 美術館や博物館の運営、奨学金の支給、地域社会の活性化、学術研究の支援、 医療・福祉サービスの提供等 同好会、業界団体、学術研究、資産管理目的の財団など

 上記の通り、一般法人は設立も容易で運営の自由度も高いといえます。その一方、公益法人はその公益性を審査され、運営についても情報公開義務があるなど一定の制限が設けられています。
 一般法人から公益法人への移行の流れは次のとおりです。


■公益法人設立までの流れ

ステップ 内容 備考
① 一般法人の設立 法人登記(一般社団/一般財団) 通常の法人としてまず設立する
② 公益認定申請 所轄庁(内閣府または都道府県)へ申請書類を提出 審査期間:約4か月程度
③ 審査・公表 公益目的事業の割合、会計体制、情報公開体制などの確認 所轄庁のHPで意見募集
④ 認定通知・登記変更 認定されれば登記を変更して「公益法人」となる 変更登記後、効力発生

(3) NPO法人との違い

 公益法人(公益社団法人・公益財団法人)とNPO法人(特定非営利活動法人)は、どちらも非営利法人であり、公共の利益を目的とした活動を行うという点では共通しています。その一方、根拠法や所管、税制優遇の仕組みなどに違いがあります。

特定非営利活動法人(NPO法人) 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
NPO法人を設立するためには、特定非営利活動を行うことが主目的であること等について所轄庁(都道府県又は政令指定都市)の認証を受けることが必要です。申請書類の一部は、受理した日から2週間縦覧に供され、市民の目からも点検されます。設立の認証後、登記することにより法人として成立することになります。 NPO法人のうち、広く市民から支援を受けていること等の一定の要件について、所轄庁(都道府県又は政令指定都市)から認定を受けることで、認定NPO法人として税制上の優遇措置を受けることができます。上記のように、公益法人制度とNPO法人制度は、その成り立ちや仕組みに違いがあり、法人を設立しようとする場合には、それぞれの制度の相違点を十分に踏まえ、当該団体にとっていずれの制度が適当か検討する必要があります。以下の内容は、両法人の設立までの流れや設立要件の概要を単純に比較したものです。

出典:内閣府「公益法人制度とNPO法人制度の比較について」

2.令和7年施行公益法人制度改革の概要

(1) 制度改革の趣旨・目的

 前述のとおり、公益法人は民間における公益の担い手として位置づけられていますが、これまでの財務規律や行政手続の仕組みでは、公益法人がその力を発揮しづらいという問題が指摘されていました。
 令和7年施行公益法人制度改革は、こうした問題を解消するため、①財務規律等を見直し、法人の経営判断で社会課題への機動的な取り組みを可能とすること、②法人自らの透明性向上やガバナンス充実に向けた取り組みを促し、国民からの信頼を確保すること、を通じて、民間の公益活動の一層の活性化を目指したものといえます。
 令和7年(2025年)4月1日より施行された公益法人制度改革は、「財務規律の柔軟化・明確化」、「行政手続の簡素化」、「ガバナンスの強化と透明性の向上」を三本柱としています。
 詳細は次のとおりです。

(2) 財務規律の柔軟化・明確化

財務に関する資料の確認

①「収支相償」から「中期的な収支均衡」へ

 そもそも公益法人は営利を目的とした法人ではありませんが、公益に資する事業活動を行った結果、黒字が出てしまうことがあります。そのため従来の制度では、ある年に黒字が出た場合、その黒字を2年間で解消する(赤字にする)必要がありました。これを「収支相償」といいます。従来の制度では過去の赤字が考慮されず、公益法人の財務に悪影響を及ぼすことがありました。
 そこで、令和7年公益法人制度改正では、黒字が出た場合に5年間で解消すればよいこととなり、さらに過去4年間の赤字も繰り越せるようになりました(中期的収支均衡)。また、「公益充実資金」(②参照)の積立てができるようになりました。

②公益充実資金の創設

 公益目的事業に係る「特定費用準備資金」と「資産取得資金」が統合され、「公益充実資金」となりました。これにより、将来の公益目的事業の発展・拡充のため、状況変化に応じて柔軟に公益的事業に資金を活用できるようになりました。
 ただし、収益事業等会計および法人会計における特定費用準備資金と資産取得資金は存続しています。各資金の関係や次の表の通りです。

■新制度と旧制度における資金使途の違い

会計区分 資金使途 旧制度
(令和7年3月以前)
新制度
(令和7年4月以降)
公益目的事業 将来の特定の事業に係る費用に充てるための資金 特定費用準備資金 公益充実資金
将来の公益目的保有財産の取得・改良に充てるための資金 資産取得資金
収益事業等会計 将来の特定の事業に係る費用に充てるための資金 特定費用準備資金 特定費用準備資金
将来の法人活動保有財産の取得・改良に充てるための資金 資産取得資金 資産取得資金
法人会計 将来の特定の事業に係る費用に充てるための資金 特定費用準備資金 特定費用準備資金
将来の法人活動保有財産の取得・改良に充てるための資金 資産取得資金 資産取得資金

③不測の事態に備える「予備財産」の保有が可能に

 従来、公益目的事業に使用されておらず、将来的にも使用予定のない財産を「遊休財産」と呼んでいましたが、これが「使途不特定財産」と名称が変更されました。旧制度では、遊休財産の保有上限は当該事業年度の公益目的事業費相当額(1年分)とされていましたが、新制度では、原則として過去5年間の公益目的事業費相当額の平均額となりました。同時に、災害等に備えるための予備財産は保有制限の対象外となりました。

(3) 行政手続の簡素化・合理化

 従来、公益法人は事業を行う都道府県の区域や公益目的事業の種類・内容等に変更があった場合、変更認定申請を提出しなければなりませんでした。今回の改正では、公益法人の判断基準の明確化、申請書記載事項の明確化、変更認定事項の届出化を一体的に進めるとの考えで検討が進められ、見直しが行われました。
 詳細は次の通りです。

・令和6年改正認定法により、収益事業等の内容の変更については、届出事項とする
・令和6年の認定法施行規則改正により、公益目的事業の軽微な変更とするものの一部改正など、類型的に公益目的事業該当性に実質的に影響を与えないと判断されるものは、軽微な変更に含まれることとする
・ガイドラインにおいて公益目的事業該当性の判断基準及び申請書記載事項を明確にする

 また、次のような場合には、変更認定が必要であるとされました。
・公益目的事業の実施区域又は事務所の所在場所の変更であって、行政庁の変更を伴うもの
・公益目的事業の種類又は内容の変更であって、次に該当しないもの
 ア:事業の一部廃止
 イ:事業の統合、再編、承継その他の変更であって当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかであるものとして、内閣総理大臣が定めるもの
 ウ:ア・イのほか申請書記載事項(最新のもの)の変更(字句の訂正その他の公益目的事業の内容に実質的な影響を与えないことが明らかなものを除く)を伴わないもの

 こうした簡素化・合理化により、公益法人のより迅速な事業展開が可能になりました。

(4) 自律的ガバナンスの充実、透明性向上

見える化のイメージ

 公益法人がより信頼されるための仕組みとして、公益法人が自ら適切なガバナンスを確保するための仕組みの強化と、公益法人の情報開示が強化されました。これにより、公益法人の透明性が向上すると考えられます。

■自律的ガバナンスの充実・透明性の向上の全体像

改正前 改正後
各理事・各監事 特別利害関係(親族関係等)にある者が、理事・監事それぞれで3分の1を超えないこと 左記3分の1規制に加え、外部理事・監事を最低1名設置
理事・監事関係 定めなし 理事・監事間で特別利害関係がないこと
会計監査人 負債が50億円以上 又は収益・費用・損失が1,000億以上の場合に設置 負債が50億円以上又は益・費用・損失が100億円以上の場合に設置
提出書類の開示 定期提出書類のうち、財産目録等については、法人・行政庁で請求があれば閲覧に供する 財産目録等(範囲を拡大)について、行政庁で公表(法人は引き続き請求があれば閲覧に供する)
区分経理 一部の法人のみ区分経理が必須 原則全ての法人で区分経理
開示情報の拡充 役員報酬の支給規程及び支給総額を開示 2千万円を超える役員報酬についてその額・理由・海外送金・リスク軽減策の有無を開示情報に追加

①三区分経理の原則化

 従来、公益法人は必ずしも公益目的事業会計が区分されておらず、公益目的事業財産が明確になっていないといった問題点がありました。そこで、公益目的事業財産を可視化し、財務情報の透明性を向上するため、公益目的事業、収益事業等、法人運営の3つの区分で経理を行い、それぞれの財務状況を明確にすることが義務づけられました。
 そのポイントは次の通りです。

・会計帳簿の区分整備
三区分それぞれに収入・支出、資産・負債・純資産を明確に分けた帳簿を用意します。例えば同一の人件費であっても、配分基準(勤務時間比率等)に基づき適切に按分するといった処理です。
・予算・決算の区分
年度初めの予算編成、年度末の決算報告も経理区分ごとに作成・公開します。公益目的事業会計については、使途不特定財産(旧・遊休財産)の制限との関連で重要視されます。
・共通経費の配賦
実務では、法人全体の運営費を各区分にどう分配するかが重要です。例えば、総務部門などの費用は、適正な配賦基準を事前に決めておく必要があります。

 なお、公益目的事業以外の事業(収益事業等)がない法人は、貸借対照表、活動計算書の区分経理は不要であり、会計区分内訳の中期を作成する必要はありません。ただし、複数の公益目的事業を行っている法人は、活動計算書について各公益目的事業に区分経理して、事業区分別の注記を作成する必要があります。

②外部理事・監事

 新制度では、公益法人は、理事のうち1人以上を外部理事、監事のうち1人以上を外部監事にしなければならなくなりました。ただし、外部理事については、一定の規模に達しない法人は適用除外となります。令和7年4月1日施行公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(認定法)の立法当初はこうした規定がありませんでしたが、一部の法人において、理事による公益法人の私物化や内輪のみの法人運営が行われ、法人の機関が健全に機能しない例が見受けられたこと等を踏まえ、会社法における社外取締役等も参考に、公益認定基準として追加されました。
 詳細は下表の通りです。


■外部理事・外部監事の要件

外部理事の要件 ①当該法人又はその子法人の業務執行理事又は使用人ではなく、かつ、その就任前10年間に当該法人又は子法人の業務執行理事又は使用人であったことがない者であること②公益社団法人である場合はその社員でない者であること(社員が法人である場合は、その役員又は使用人でない者であること)③公益財団法人である場合は、その設立者でない者であること(設立者が法人である場合は、当該法人又はその子法人の役員又は使用人でない者であること)
外部監事の要件 ①当該法人又はその子法人の理事又は使用人ではなく、かつ、その就任前10年間に当該法人又は子法人の理事又は使用人であったことがない者であること②上記、外部理事の②③と同様

■外部理事、外部監事を設置しなくてよい法人の範囲

外部理事を設置しなくてよい法人 直近事業年度の確定した決算において、収益の額が3,000万円未満かつ費用及び損失の額が3,000万円未満の法人(認定法施行令第7条)。
外部監事を設置しなくてよい法人 なし

なお、一定規模以上の法人に対して、会計監査人の設置が義務づけられています。

③情報開示の拡充

 令和7年公益法人制度改革では、公益法人の透明性の向上という面から「情報開示」が大幅に強化されました。概要は次の通りです。


■情報開示対象となる書類等の一例

  項目 従来 改革後(令和7年以降)
事業報告書 公開必須 継続(より詳細な記載を求める)
財産目録・貸借対照表 公開必須 継続
収支計算書(または活動計算書) 公開努力義務 公開「義務化」
監査報告書 任意 原則公開(会計監査人設置法人)
役員名簿 一部公開 氏名・役職・選任根拠等を明記して公開
定款・評議員会議事録要旨 公開推奨 原則として公開義務化
公益目的支出計画の実施状況 不透明 具体的に公開項目化

3.まとめ

 今回の公益法人制度改革では、公益法人がより柔軟・迅速な公益的活動を展開していくことが可能となるよう、法人の自主的・自律的な経営判断が尊重されるとともに、国民からの信頼を得られる存在となるような改正が行われました。
 その一方で、制度改正によってより専門性が高まり、公益法人の実務担当者にとって、会計処理や行政手続等の難易度が増したとも考えられます。こうした制度改正に適切に対応するためには、公益法人の実務に詳しい専門家の支援を受けることも重要です。
 例えば、TKC全国会公益法人経営研究会(公益法人の会計・税務に精通した約1000名の税理士・公認会計士)では、全国約3700の公益法人等の経営を支援しています。制度に対して疑問点等があれば、こうした専門家へ相談することも検討しましょう。


【参考資料】

・内閣府「公益法人制度とNPO法人制度の比較について」
・『Q&A 公益法人の運営実務と行政庁への対応』(TKC出版、2025)
・『Q&A 「令和6年会計基準」のポイントと実務』(TKC出版、2025)

株式会社TKC出版

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 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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