2025年07月22日

著作権法のポイント

著作権法のポイント

💡この記事のポイント
 ☑著作権法とは著者の保護と著作物の公正な利用を両立させる法律
 ☑著作権の侵害は特許権や商標権よりも過失に厳しい
 ☑2023年(令和5年)に改正された新裁定制度は著作物の使用許諾の効率化が目的

1.著作権法とは

 著作権法とは、著作者等の権利である著作権を保護するための法律です。
 著作権とは、自分の著作物(写真、動画、イラスト、音楽、小説などの作品)を他人に勝手に利用されない権利のことです。著作物を創作した時点で、著作者は一切手続きを取らなくても、自動的に著作者の権利を取得し、著作権者になります。
 また、著作者は実際に創作活動を行う個人だけでなく、創作活動を行う個人以外が著作者となる場合が法律により定められています。例えば、新聞記者によって書かれた新聞記事や、公務員によって作成された各種報告書など、会社や国が著作者になる場合があります。具体的には、下記に掲げる「職務著作」の要件をすべて満たす場合に限り、法人が著作者となります。

(1) 職務著作(法人著作)の要件

 1)その著作物をつくる「企画」を立てるのが法人
 (注)その他の「使用者」(例えば、国や会社など。以下「法人等」という)であること
 2)法人等の「業務に従事する者」が創作すること
 3)「職務上」の行為として創作されること
 4)「公表」する場合に「法人等の著作名義」で公表されるものであること
 5)「契約や就業規則」に「職員を著作者とする」という定めがないこと
 ※4)についてプログラムの著作物は未公表の場合も多いため、満たす必要はない。

 他人、または他法人が著作した著作物を利用する場合、原則として、著作者等から許諾を得る必要があります。もし無断で利用すると、刑事罰(原則)を科せられることがあります(刑事罰に加え、損害賠償等の民事による対抗措置を受ける可能性もあります)。

①著作権法の概要

法律に関する書籍のイメージ

 著作権法第1条に本法律の目的が明記されています。

 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

 著作物は人間の知的・精神的活動の所産であり、文化の形成とその発展の基盤をなすものであるため、著作物等の無許諾利用を防止できるよう創作者の権利を保護する必要がある一方、公益性の高い利用等、一定の場合には、広くその活用の道を開いて社会一般の利用に供することが必要です。このため、著作権法では、著作物の公正な利用を図るための調整規定を数多く取り入れています。

1)著作物の定義
 なお、著作権法第2条では、著作物を下記のとおり定義しています。

 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 具体的には、著作権法第10条で下記のとおり著作物の種類を例示しています。

言語の著作物 講演、論文、レポート、作文、小説、脚本、詩歌、俳句など
音楽の著作物 楽曲、楽曲を伴う歌詞など
舞踏、無言劇の著作物 日本舞踊、バレエ、ダンス、舞踏、パントマイムの振り付け
美術の著作物 絵画、版画、彫刻、マンガ、書、舞台装置、茶碗、壺、刀剣等の美術工芸品
建築の著作物 芸術的な建築物
地図、図形の著作物 地図、学術的な図面、図表、設計図、立体模型、地球儀など
映画の著作物 劇場用映画、アニメ、ビデオ、ゲームソフトの映像部分などの「録画されている動く影像」
写真の著作物 肖像写真、風景写真、記録写真など
プログラムの著作物 コンピュータ・プログラム

※事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は著作物に該当しない。

2)保護を受ける著作物の範囲
 我が国の著作権法によって保護を受ける著作物(無断で利用してはいけない著作物)は下記のとおりです。

【国籍条件】 日本国民が創作した著作物
【発行地条件】 最初に日本国内で発行(相当数のコピーが頒布)された著作物(外国で最初に発行されたが発行後 30 日以内に国内で発行されたものを含む)
【条約の条件】 条約により我が国が保護の義務を負う著作物

 また、下記の著作物については、著作権の適用外です。
1)憲法その他の法令(地方公共団体の条例、規則を含む。)
2)国、地方公共団体又は独立行政法人・地方独立行政法人の告示、訓令、通達など
3)裁判所の判決、決定、命令など
4)1)から3)の翻訳物や編集物(国、地方公共団体又は独立行政法人・地方独立行政法人が作成するもの)

(2) 著作権法ができた背景

 著作権の保護の歴史は15世紀中頃の印刷術の発明に始まったとされており、ヨーロッパ諸国では18世紀から19世紀にかけて、著作権の保護に関する法律が作られました。
 日本の著作権法の始まりは、「図書を出版する者」を保護する規定を持つ1869年(明治2年)制定の「出版条例」だと考えられています。近代的な著作権法を備えたのは、1899年(明治32年)に「著作権法」(いわゆる「旧著作権法」)を制定したときです。同年、著作権保護の基本条例である「ベルヌ条約」を締結しました。
 旧法は幾度か改正されており、1970年(昭和45年)には全面改正が実施され、現在の著作権法が制定されました。

(3) 「著作権」と「特許権」「商標権」の違い

 著作権と似た権利として、特許権と商標権があります。
 著作権、特許権、商標権はともに「知的な創作活動によって何かを創り出した人に対して付与される、他人に無断で利用されない権利」である知的財産権に属します。発明を保護する特許権、商品・サービスに使用するマークを保護する商標権と違い、著作権は著者物を保護する権利です。

どんな権利か 保護対象の例 過失推定有無
著作権 著作物を勝手に利用されない権利 楽曲、映画、小説、絵画等 なし
特許権 技術発明されたものやその方法等を保護する権利 パソコン、ラーメンの製造方法等 あり
商標権 商品やサービスに関連する記号や文字を独占的に使用できる権利 ご当地のゆるキャラ、ビール会社のロゴ等 あり

 特に著作権は特許権と商標権とは異なり「過失の推定がない」という点に大きな違いがあります。特許権と商標権には過失の推定があります。過失の推定とは、権利侵害があった場合に侵害者が該当行為について過失があったと最初に判断されることを指します。つまり、侵害者の故意や過失を証明する手間をなくし、権利者をすぐに保護するための仕組みです。
 過失の推定がない場合の具体例として、著作物の無断複製やインターネット上での無断公開があります。他者が書いた書籍の内容や他法人が製作したテレビ番組などに対して当該行為を行った場合、著作権侵害には過失の推定がないため自らが過失で行った行為であることを証明しなくてはなりません。
 このように著作権には過失の推定がありません。つまり、著作権侵害で訴えられた場合、過失である場合は自ら証明しなくてはいけないことになります。その点に限ると、著作権は過失に厳しいといえます。

※出典:知的財産用語辞典「過失の推定」

2.2023年(令和5年)に改正された内容

法改正のイメージ図

 2023年(令和5年)に著作権法は改正されました。主な改正理由は、急速に進むデジタル化の進展に対応するために、著作権の適切な保護と利用の円滑化を図るためです。

(1) 著作利用可否が不明でも利用可能に

 過去のコンテンツ、一般ユーザーが創作するコンテンツ、著作権者等不明著作物等の膨大かつ多種多様なコンテンツについて、コンテンツの利用円滑化とクリエイターへの適切な対価還元の両立を図るため、未管理著作物裁定制度が創設されました。未管理著作物とは、「その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等」を指し、本制度は文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、3年を上限とする時限的な利用を可能とするものです。
 具体的な改正事項は下記のとおりです。
①集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者の意思が明確でない著作物について、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、時限的な利用を可能とする。
②著作権者は、文化庁長官の裁定の取消しを請求でき、取消し後は、時限的利用は停止。利用されていた間の補償金を受け取ることができる。
③ 手続の簡素化・迅速化を実現すべく、新制度の手続(申請受付・要件確認・補償金の額の決定・補償金の収受等)の事務は、文化庁長官による登録や指定を受けた民間機関が担うことができる。

(2) 行政・立法では内部資料の公衆送信が可能に

 国立国会図書館をはじめ、公共図書館、大学図書館等では、利用者の調査研究の用に供するため、図書館資料を用いて、著作物の一部分の複製物を一人につき1部提供することが可能ですが、メールなどでの送信は例外規定に該当せず、簡易・迅速な資料の入手が困難な状況でした。このため、2021年(令和3年)著作権法改正において、権利者保護のための厳格な要件の下、 図書館資料を用いて、著作物の一部分(政令で定める場合は全部)をメールなどで送信することを可能になりました。
 2023年(令和5年)には、複製に加え、内部資料を利用者間で公衆送信を行うことも可能に。国会や役所内部で、第三者の著作物を含む資料をメール等で利用し回覧することが許諾なしで利用できます。

(3) 海賊版被害の損害賠償額増額

損害賠償のイメージ図

 デジタル化・ネットワーク化の進展により増えつつある海賊版被害に関する対策として、2020年(令和2年)度にはリーチサイト(※)対策や著作権侵害コンテンツにおけるダウンロードの違法化がなされました。そして、2023年(令和5年)度には海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額増額を内容とする著作権法の改正が行われました。
 具体的には、ライセンス料相当額を損害賠償額に含めることが可能になったことで、著作権侵害があったことを前提に、その対価を裁判所が考慮することができるようになりました。
 このライセンス料相当額を損害賠償額に含める場合、海賊版で著作権侵害が発生した際、著作権者はライセンス料収入を失います(逸失利益)。この逸失利益についても損害賠償請求の対象とすることができるため、著作権者が本来得るはずだったライセンス料収入を損害額として請求できる場合があります。
 ※リーチサイトとは、海賊版などの違法コンテンツへのリンクを集めたウェブサイトのことです。

※出典:特許庁「著作権侵害への救済手続」

3.著作権侵害の主なケース

(1) 著作物の無断利用

【事例】
 鉄道会社の子会社による無断での画像利用事例です。自身が撮影した写真を無断でポスターに使われたとして、撮影者が鉄道会社とポスターを制作した該当子会社に訴訟をした事例です。  子会社が制作したポスターは、撮影者がネット上で公開していた複数の列車を撮影した写真を加工して制作されたものでした。ポスター制作会社は電車の写真には著作権がないものと考えていた可能性があります。しかし、該当写真は構図などが独自に考えられたものであり、裁判では著作物として認められています。その結果、裁判所は子会社に賠償金の支払いを命じる判決が下しました。

 ※著作権侵害にならない場合
 他人が制作したコンテンツを利用したとしても、下記項目の場合は著作権侵害に当たりません。
① 利用したコンテンツが著作物ではないケース
② 著作権のない著作物(フリー素材等)であるケース
③ 権利者から利用許諾を得たケース
④ 著作権の譲渡を受けたケース
⑤ 許諾なしで利用可能なケース

※出典:朝日新聞「列車画像をポスターに無断使用 東武鉄道子会社に撮影男性へ賠償命令」

(2) 著作物の無断複製や配布

 個人的に利用する場合(私的利用)など、一定の条件を満たせば例外的に無断で使えることがありますが、無許可で不特定または多数の目に触れるネット上に公開することは、著作権者の権利を侵害する行為にあたります。
 また、下記事例のように、たとえ社内限定の利用であっても無断複製や配布において著作権侵害にあたります。

【事例】
 A社が多数の新聞記事をデータ化、従業員が自由に閲覧できる社内イントラに掲載したことが問題になりました。  新聞記事は事件等の事実のみを記載したものであれば著作物に該当しません。しかし、記事作成者が調べた情報や独自の観点で作成した記事には著作権が発生します。

そのため、本件では著作権の存在する該当記事を著作者の許可なく複製し、多数の社員が閲覧可能な状態にしたことが侵害にあたるとして、裁判所はA社に損額賠償金の支払いを命じました。

※出典:産経新聞『社内掲示板に記事を無断掲載 中日新聞、つくばエクスプレス運営会社を提訴』

4.損害賠償を求められるケース

裁判の判決のイメージ図

(1) 損害賠償される基準

 民法第709条には下記のとおり明記されています。
 侵害を被った者は、故意又は過失によって他人の権利を侵害した者に対して、その損害を賠償するよう請求することができます。

 つまり、規模を問わず他人の著作権を侵害してきた人に対しては損害賠償を求めることができます。一般的に数万円から数百万円程度の損害賠償額が多いですが、中には5億円に上るケースもあります。

(2) 損害賠償される基準

 B社は、自社のWebサイトに、サイト内に掲載する文言(宣伝文句や実績紹介など)、バナー画像、修理規約(修理受注時における修理依頼者との取り決めを定めた規約。以下「B規約」)などを掲載していました。

 しかし、B社と同じくインターネットを通じてサービスを展開する同業他社のC社が、B社Webサイトと類似した文言、バナー画像、修理規約(以下「C規約」)を、Bサイトに類似したサイト構成を採用し、自社Webサイトに掲載しました。
 そこで、B社がC社に対し、Cサイトの文言、バナー画像、規約文言及びWebサイト構成に関するC社の著作権を侵害すると主張して、1,000万円の損害賠償請求及びCサイト上での使用禁止を求めました。

 上記に対し、裁判所はサイト文言やバナー画像等についていずれも「ありふれた表現で一般的に行われている」として著作権侵害を否定しました。  しかし、C規約文言については、各項目・表現等がB規約と実質的に同一であるとして、C社に対し、5万円の損害賠償及びC規約の使用禁止を命じました。

※出典:フォーサイト総合法律事務所『他社の規約に依拠して規約を作成した行為につき、
著作権(複製権)侵害を肯定した事例(東京地方裁判所平成26年7月30日判決)』

5.まとめ

 著作権は、著作者の権利を保護し、文化の発展や知的財産の豊かさを実現するために必要な権利の一つです。そして、今後もさらに発展を続けるデジタル時代・AI時代において、社会の変化に応じて、制度の在り方も進化していく必要があります。
 こうした環境の中、その著作権を保護する著作権法は、個人・法人を問わずこれまでの豊かな社会の継続にとっても、遵守しなければいけません。たとえ故意でなくても他者の著作物を侵害しないようにする必要があります。また、もし著作権侵害をしたがために多額の損害賠償額を命じられる可能性も考えなければいけません。そのためには「これくらいなら大丈夫だろう」という意識ではなく、著作権を侵害していないかをしっかり考えながら行動しましょう。

■参考文献

・『事務所通信』2024年10月号
文化庁『著作権テキスト ―令和6年度版―』
文化庁著作権課『令和6年度著作権事務担当者講習会「著作権制度の概要について」』
文化庁 令和5年通常国会 著作権法改正について

株式会社TKC出版

記事提供

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